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最終章
第748話
しおりを挟む私たちに作戦がないわけではない。神と戦い悪神に落ちたジャミーラは気づいていないものの、すでにそれは発動している。
『神に叛逆するもの』
神に刃を向けたことから落とされて悪神となったため、ジャミーラに理性は消えている。ただ憎しみをぶつけて暴れているだけだ。
「消ぃえぇぇ失ぅぅせぇろぉぉぉぉぉ‼︎‼︎」
ジャミーラの振るった大剣が神々を両断する。大剣はジャミーラの感情を受けて大きくなった魔剣だ。武神であるため比較的魔力の弱い下位の神々が、手足や胴体を切断されて消えていく。この世界が残り、無事に目覚めることが出来たなら、妖精や精霊になっているだろう。
「…………?」
ジャミーラが不思議そうに、持ち上げた自身の両手を見やる。その様子を『攻撃に隙ができた』と思ったのだろう、戦斧を両手で握り薙ぐ。しかし、その刃はジャミーラに触れる前に所持者とともに光の粒となり、神としての生を終えていった。
視認に頼らない無意識の防御。背後から襲っても、その殺気で反応される。
「それぐらい、ここまで戦ってきて分からんのか?」
あれでも武神だろ? と呟いた私に「それが分かる知能があれば、いまも盾になってそこにいます」という声が届いた。
立ち上がった私の数歩後ろに、アクアとマリンがいるのだろう。人海戦術に移ってから、鉄壁の防衛から私の盾になるため左右につく。左右からの攻撃から私を守るためだ。そのおかげで、私は攻撃に集中できる。
暗の妖精の重力魔法は、私の魔力を使うことでジャミーラの行動を押さえ込むことに成功している。
それだけではない。
以前に私がアントから助けたという暗龍の子とその一族。彼らも暗の妖精に魔力を送り続けている。それはほかの種族も同じで、私の妖精たちに魔力を送っている。
そのぶん、コントロールが必要のため私の魔力の消費が激しい。魔力回復薬をのんで回復に努めるダイバから魔力を譲渡されているけど足りず、私自身でも何本も回復薬をのんでいるけど……
「……お腹が膨れる」
これでも、ピピンが凝縮してくれた特別製のおかげで、のむ本数が少なく済んでいる。
「大丈夫?」
心配そうなマリンの声に私は何も返さない。「大丈夫じゃない」と言ったらどうしてくれる? 休ませてくれるのだろうか。……そんなこと言って休ませてもらえるほど、戦場は甘くない。
それにアクアが気づいたのだろう、マリンに小さい声で注意する。
「アクア。マリンを交代させて」
「はい」
この子たちには何も言わなくても理解している。
いまのマリンのセリフは、この先私の盾となる身には危険である。……過剰に守ろうと、少しでも休めるようにしようとする。それは私にとって邪魔でしかない。
ダイバの盾に立っていたマーレンとマリンが交代したようだ。マリンはジャミーラの動きから目を離さないダイバに何か言われたのだろう。唇を噛み締めて、ダイバと同じように前方で行われている戦闘に目を向けて気を引き締めた。
《 さーん 》
ダイバがカウントをとる。
「にーい」
私の声で、マーレンとアクアが武器を構える小さな音が耳に届く。
「いーち」
ダイバの声で、キッカさんとマリンが腰を落とす姿が目の端に見えた。
「「ゼロ!」」
一瞬で強化をかけた足を前へと蹴り出す。
武器を構え直して私とダイバの剣を薙ぎ払おうとしたジャミーラだったが、その足をレイモンドがタックルして動きを止める。一瞬そちらに意識を向けたジャミーラの反応が遅れた。向かって左に立つ私の、左側を守るアクアとマーレンが二人がかりでジャミーラの魔剣を上空へと弾く。空手になったジャミーラの左腕をキッカさんが、私に伸ばされた右腕をマリンと弾いたときに振りかぶっていたアクアとマーレンの3人が切断する。
完全にガラ空きになった胴を、ダイバの剣が薙いで防御魔法のかかっている腹部に亀裂を作り、その一ヶ所に私の水と雷の属性を重ねた剣が突き刺さる。
「ギャァァァァァァ‼︎‼︎‼︎」
「グッウゥゥゥゥッッ……‼︎」
水属性の魔法剣に雷を纏わせた私の剣は、ジャミーラの全身を青白く光らせる。ジャミーラの火球を受けて足を失ったまま、それでも食いついて離れないレイモンドもジャミーラ同様に私の魔法剣の攻撃を受けて唸り声をあげている。
雷魔法がよく効くようにつくられた、水属性の木剣。これ1本で静電気の効果あり。それも刺されば体内から攻撃ができる。
……これはレイモンド自身が実験に参加して、不死の身体に一番効くと実証されていた。この戦闘でダイバが使っている武器の切っ先には、イノシシの貴石『猪突猛進』が追加されている。
「いま使わないでどうする‼︎」
誰かが発したその言葉に各国の鍛治職人たちは賛同すると、無償で武器を提供した。わざわざ貴石を求めてダンジョンやフィールドに向かった冒険者たちもいる。もちろん彼らは無償で提供した。
「生きてなんぼ、命あっての物種だ」
彼らも、いまの世界を失っては冒険者として生きることが出来ないことに気付いている。
「死なば諸共!」などと未来を悲観して開き直ることはしない。「今生を悔い少なく自由に生き、死ぬときは後悔と懺悔を仲間に押し付けて笑って逝く」のが冒険者の矜持だ。
そんな彼らが貴石と自由な未来を天秤にかけるなど……
「世界が落ち着いたら、ちぃっとは融通しろよ!」
「おうっ! 酒一杯なら奢ってやる!」
「その日は飲み放題にしろ」
貴石と酒席を天秤にかけたようだ。
…………なんとも自由な冒険者らしい。
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