私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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最終章

第772話

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 ❀ ❀ ❀


人が入れない、結界に囲まれた緑静かな地に白磁の石碑がひとつある。

精霊ニンフや妖精、魔物などに愛された『最後の聖女様』が静かな眠りについている。そのかたわらには白い毛並みの剣歯虎サーベルタイガーが守るように付き添っている。妖精たちと過ごすこの空間から出ることはない。駆け回るのなら、石碑に埋められた水色の宝石の中に入ればいいだけだ。

「白虎。今日も此処でエミリアちゃんを守ってくれているのね」

優しい手に撫でられるが、それは『一番欲しい感触』ではない。……それが白虎の心に寂しさを増す。

《 ミリィ。どうしたの? 》
「ん。私ものようだから」

そう言ってミリィが寝そべる白虎とは石碑を挟んだ反対側に座り、石碑にもたれ掛かる。

「エミリアちゃん。私ね、エミリアちゃんに会えたから自信を持って生きられるようになったのよ。あのままだったら、私は『今のシアワセ』に辿り着かなかった。ありがとう。大好きよ。…………最後にね。家族にワガママな願いを言ったら……許してくれた。……最後、は……エミリアちゃんと……一緒、に…………」

声が途切れた。妖精たちが近付いて顔をのぞくと、ミリィは微笑んで両の目を閉じていた。…………永遠の眠り。

ルーバーは先に逝った。シェシェやリュリュたち子どもや孫たちとも別れを済ませた。ミリィは死後ここに……仲間たちがいるこの地に埋葬を希望してここにきたのだ。

妖精たちに呼ばれてフィシスたちが駆けつけると、エリーとエリーによく似た女性がすでに着いていた。女性は眠るミリィの頭を優しく撫でていた。

「ミレーヌ。……幸せそうな寝顔ね。エリー、この子は最後まで幸せな一生を送ったのね」
「ああ。ミリィはエミリアちゃんに会って変わった。好きな人と出会い、結婚して子供も孫も出来て。ミリィは誰よりもシアワセな日々を掴んだんだ」
「そう。……ミレーヌ。貴女と出会って、貴女を里から出した後も、私はエリーを通して貴女の成長を見守ってきたわ。いつからか笑顔の日々が増えて。そう、そうなのね。大切な人たちと出会って、幸せになれたのね」

ミリィの育ての親、エリーの姉エクルーだ。

「エクルー。フィシスたちが最後の別れに来た」
「……ええ」

エクルーはエリーに支えられて、ふらつくように立ち上がり、ミリィの前から離れる。わずかな間とはいえ、エクルーにとってミレーヌは間違いなく『可愛い我が子』だったのだ。そんな娘が死んだのだ。離れて暮らしていたとはいえ、悲しくないはずはない。

フウウックウ……

白虎が大きな息を漏らした。そして小さく息を繰り返す。

《 白虎。お疲れさま 》
《 もう大丈夫だよ。あとは私たちが守ってあげるから 》
《 おやすみ 》

妖精たちが白虎に声を掛けて頭を撫でる。
スウウと息を吐いた白虎がそのまま目を閉じて、呼吸が……止まった。

「……白虎」
「貴女もエミリアちゃんのところへ逝ったのね」

天寿をまっとうしたエミリアの後を追うようにピピンとリリンも逝った。ダイバたちもこの世を去り、ひとりまたひとりとこの世を去っていく。

そんなみんなの眠りを守るかのように、白虎は獣化のまま石碑に寄り添っていた。ピピンとリリンの子どもたちや妖精たちに促されて広い庭を走り回る以外はこの場から離れることもしなかった。

《 白虎はずっと前に寿命が尽き掛けていたんだ 》

唯一残っていたミリィを見送って、最後に逝くためだ。

《 今頃、エミリアと先に逝ったピピンやリリンたちに再会して喜んでるよ 》
「……そこにはミリィも一緒に逝ったわ。きっと、エミリアちゃんを変わらず抱きしめているわね」
「エミリアちゃんも『ミリィお姉ちゃん!』って抱きついているわよ、きっと」

エクルー以外の誰もがその光景を思い浮かべる。

「すでにダイバやポンタ、鉄壁の防衛ディフェンスのみんなもいるわ。でもシアワセな日々を送るのね」
「早く生まれ変わっておいで。そしてコッチでまた楽しい日々を過ごしましょう?」
「きっとミリィが来るのを待っていたのよ。ほらフレンド登録のときだって」
「そうね。エアちゃんったら、ミリィとフレンド登録してからルーフォートに行ったんだったわ」

今度は間違えないように。そう繰り返していたミリィが無事にフレンド登録できたとき、二人は抱き合って喜んだのだ。

「私が申請したときなんて、前日にミリィが登録を失敗したからって渋られたのよね。先に登録したらミリィが可哀想って」

順番に頭を撫でられているミリィに苦笑する。冒険者をしていた頃のように『疲れて眠った幼いミリィ』を皆で撫でているようだ。
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