掌編集

夢野なつ

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砕け散った私だけの静謐

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 一生、静かに居たかった。
 あなたがこの場所に来なければ、それは叶っただろう。
 だけれどもうお終い。
 愛に焦がれて焼け死ぬ未来。
 もう、それしか見えないの。
「なんでそんな暗い顔してるのさ」
 それはあなたが幸せそうだから。あなたの幸福が眩しくて、そばに寄るだけでどうにかなってしまいそうなほど、気が狂いそうなほど……。そう、私はあなたが、輝けば輝くほど遠くに感じてしまう。私は闇。どこまで突き詰めても、光を放つことはできない。
 どこかへ行って欲しいけれど、可能ならずっと見つめていたい。でもこの眼球はただれそう。誰かに殺してもらえないかしら。
「ごめんなさい、今日は雨でしょう? 私、憂鬱になってしまうの」
「そうかぁ。じゃあ、晴れたあとのことでも考えようか。虹とあじさいを観に行こうよ。乾きかけの雨粒に飾られたピンクと青のあじさいは、きっときれいだよ」
「それは素敵ね」
 素敵。素敵。あなたが誘う言葉はどれも魅力的。
 そんなに優しいあなたがここにいるのに、どうして私の首には鎖が付いているの?
 夫が居る限り、この感情は不貞そのもの。ああ、許して、どこかの甘ったるい神様。お前が真に愛す者が尊いのだと、免罪符を頂戴。
「じゃあ、明日晴れたらまた会おうよ」
 私を繋ぐ鎖の存在を、この人は知らないの。

 ごめんなさい。

 夫を裏切るわけにも、心を騙すわけにもいかないから。

 でも、どうすればいいの?

 誰にも迷惑をかけないためには、静かに正しく、望まぬ相手を選ばねばならない。
 だけれど心が叫びだす。
 愛せよ! 愛せよ!
 真に愛しいこの者を抱きしめよ!

 もう狂いそうです。



 こころなど
 自らを灼く
 焔ゆえ
 木石の身に
 なるを望めど
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