上 下
216 / 248
魔道院始末

戦い終わって・・・

しおりを挟む
「どうもミトラでいろいろとあったようですな。」
ジャイロは、一同を見回した。
なんと、ボルテック当人だけがいない。
どこへ行ったのか、とジャイロがため息をつくと、ドロシーが答えた。
「アフラさまのところかと思います。」

アフラは、公爵家の三男だ。幼少期から魔道に才があり、ボルテックをお爺さまと慕い、その薫陶をうけて育った。
(実際のところ、ボルテックはお爺さまどころか、ご先祖さまとでもよばなければならないほどのご高齢だったわけだけだが。、)
ただ、王立学院で卒業間際にトラブルを起こし、しばらく入院する羽目になった。
彼が退院して、魔道院に進学したころには、彼が慕っていたボルテックは、突如、学院長の座を退いて、行方不明となっていた。
なので、彼は、入れ替わりに現れたジウル・ボルテックが、彼の「お爺さま」であることを知らない。
今回の騒動で、それを初めて耳にして、大いにショックを受けていたその可愛いひひひ孫の心のケアを。

情人との営みより優先したというわけだ。

「まあ、あそこの公爵家はもともとボルテック卿の出身でもある。アフラのことは随分と可愛がっていただようだし、無理もないか。」

ならば、話すことはあまりないか。
と、ジャイロはもう一度、一堂を見回した。
前学院長の情人が、手を上げた。

「ミトラのことなら、わたくしがその場にいましたので、詳しくお伝えできると思います。」

「ほう?」
ジャイロは、この細身の女性があまり好きではなかった。魔法の才能がありながら、妙な拳法を使う。それも技を高度に鍛え上がるではなく、絡めてのような手段ばかりよくする。

彼女が対抗戦のときに来ていた肌にぴったりした銀色のスーツから、一部では「銀雷の魔女」ともてはやすが、戦い方も、理知的な顔立ちの癖に、どこかエキセントリックで、その後、ボルテックとずるずると男女の関係になってしまった経緯を見ても、あまりその生き方はよくないぞ、と自分の身内なら忠告もしたであろう。

「クローディア大公夫妻のミトラ到着の歓迎会のおり、同席していたランゴバルドのルールス前冒険者学校学長から、ランゴバルトへの不当な干渉への糾弾がありました。」

「ルールス学長は、ランゴバルドの王族だったな。」
ジャイロは言った。
「確たる証拠があったのか?
ずいぶんと思い切ったことをしたものだ。」

「クローディア大公の嫡子フィオリナ姫は現在、ランゴバルド冒険者学校にてルールス先生のもとで指導を受けております。
会場には、クローディア大公夫妻やフィオリナ姫をはじめ、各国の大使や領事も多数出席しておりましたので、タイミングとしてはわるくはないか、と。」
「ふむ? で、ギウリークはどのように対応したのだ?」
「考えられる限り、最悪の対応です。待機させておいた竜人部隊を乱入させて、ルールス先生を拘束しようとしました。」

確かに、最悪だな。
ジャイロは呟いた。はっきり言ってなにもしないほうがましだった。

暴力に訴えるのは己に非があることを認めたも同然だ。
まして、外交の席上である。
国内はともかく各国の声はとまらない。
まして、出席中の要人に危害が及べば。

「それでどうなったのだ?」
「竜人たちは、事前に会の主催者であられるガルフィート伯爵の手配した古竜に、排除されました。指示をしたギウリーク貴族は、身分と外交部における地位を昨日に遡って解任。」
すらすらとドロシーは答えた。
「公式には、宴席上のトラブルで、権限がないにも拘らずに、私的に兵を動かしたかの子爵様の責任ということになります。
彼は、諸国においての工作活動にも携わっていたようですから、ランゴバルドへの干渉も責任を取らされるのでしょう。彼以外に処分されるものが出るかは、まだ結論が出ていないようでした。
このところの失敗続きで、ギウリークの外交政策が転換される可能性があります。」

「国同士のことだ。流石に魔道院でも・・・」
「各国に派遣されている工作員が、梯子を外される可能性が高いです。有用な人材をスカウトするチャンスですよ?」

「なるほど。」
ジャイロは舌を巻いた。
軽く見ていたが、これは恐ろしく有能だ。これでまだ十代なのだから
「失礼だが、交換留学期間が終われば、またランゴバルド冒険者学校に帰られるのか?
もし、卒業後の進路について、お考えなら相談に乗れると思うのだが。」

「ありがとうございます。」
笑った顔は、気品があり、一瞬、彼は、ドロシーがボルテックと関係があることを忘れて口説きそうになった。
「わたしは卒業後は、あるクランに冒険者兼事務官として雇ってもらう約束になっています。」
「・・・失礼だが、なんというクランかな?」

「まだ、無名ですが。」
彼女は、秘密を打ち明けるように声を顰めた。
「『踊る道化師』というのです。」

その目の輝きに何か危ないものを感じたジャイロは、目を逸らせた。
その名前は、彼の情報網にも入っている。
「あの」ハルト王子が、「魔王宮の中でスカウトしたメンバー」で構成したパーティだ。

「ハルト王子は、お元気なのか?」

答えにくそうに、ドロシーは俯いた。
「一時、体調を崩されていましたが。なんとか。」




「ジャイロ副学長。」
シホウが言った。長椅子を独り占めにして、なお窮屈そうに見えるこの巨漢は、ジャイロの秘蔵の酒をまた一本、空にしようとしている。
「ジウルが戻ってくるまでに、エピオネルの処遇を相談しておきたい。」

「シホウ先生・・・・・正直、魔道院では。」
「なら、ランゴバルド冒険者学校にくるといいです。」

ドロシーが言った。

「ドロシー・・・・エピオネルは『竜人』ではない。古竜だぞ?」
「どのみち、アモンにレクス、学校じゃないけど、関係者にラウレスもいます。一人増えても差し支えないでしょう。」
「懐かしい名前だ。」

エピオネルは、嬉しそうに言った。

「ラウレスは相変わらず、人間の女の子を追いかけ回しているのか?」
「もっぱら、料理人として、名をあげています。一度、彼の料理を召し上がってください。おそらく気にいると思いますよ。」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生お転婆令嬢は破滅フラグを破壊してバグの嵐を巻き起こす

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:455pt お気に入り:69

前世は最悪だったので、今世は神頼みチートで無双する予定です。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

婚約破棄された伯爵令嬢は、前世で最強の竜だったようです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:50

BLごちゃ混ぜ書き散らかし

BL / 連載中 24h.ポイント:874pt お気に入り:8

処理中です...