あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第169話 第九帝国

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ギンとリクが受けた頼み事は以下の通りだった。

オールべの支配者であるエステル伯爵は、その養子であるキッガと道を外れた関係にあり、彼女を伯爵家の跡取りとすべく、実子、つまりは伯爵夫人との間にできた子を、手にかけた、というのである。
伯爵夫人は実家である隣国の侯爵家に逃げるようにして身を潜めていたが、そこにも刺客は訪れたというのだ。
それも3度。幸いにも、彼女の実家が懇意にしている鉄道公社の護衛が撃退したくれたというが、

「ちょっと待て」
アウデリアが言った。
「三回刺客を派遣されて、三回とも鉄道公社の護衛が居合わせた、だと?」

「話が早くして助かるね。」
ギンは、感心したようにつぶやいた。
浮かべる表情は酒の席に同席させてももらっている芸人の、媚びるような、相手を伺うような表情である。
その声は明瞭に発音されているようだが、少し離れると全く聞き取れなくなる。

表情と話の内容は、全く別。さらに離れると聞こえにく特殊な発声法。
これは、貴族同士がパーティの席上で密談を行うときの手法であった。
案外、ギンという女は、高貴な出自なのかも知れぬ、とクローディアは思った。

「だが、まあ、伯爵夫人がそう信じていたことは間違いない。実子を殺され、自分の命を狙って他国まで刺客を放たれたとなると、もう対抗手段を取らざるを得ない。」
「政治がらみの厄介ごとが大嫌いなはずのお主らが、よく受けたな。」
ご老公が言った。

「それが、あの伯爵夫人は、お忍びで街中の酒場を訪れるのが大好きでね。
わたしらもただの商家の女主人のつもりで、話をしてたんだ。元旦那に女ができて、家を追い出された挙句に、残された実の息子は変死、自分の身にも危ういことが起きてる、なんて愚痴を聞かされたんで、人肌脱ごうかって気になったのさ。」

ギンは、手を振って、陽気に飯屋の主人を呼んだ。
「旦那さまが、この煮込みのお代わりを所望だよ! それとおっかない冒険者の姉さんは酒だ。」

「わたしたちも『裏』を取ってから、という約束で依頼を受けたんだ。
実際に、オーベルについてみたら、わけのわからないことだらけさ。
跡取りになるはずの、義理の娘とやらは、盗賊をやっている。伯爵はそいつを黙認してるようだが、だからと言って、跡取りとして立てる気もない。
奥方まで追い出してるんだ。あとは好きなようにすればいいのに、嫡子として建てるわけでも、あらためて囲うわけでもない。列車を遅延させては、『白狼団』とやらに上納金を支払っている。まあ、こいつの支払いは公社が負担して、利用客に分散して徴収してるようなもんだから、街として構わないどころか、足止めを食った客が金を落としてくれるから、文句もないのか。」

ギンは上目遣いに、クローディアを見ながら、手で口元を隠しながら笑った。
まるで、宴席にでた芸人が、あまり面白くない冗談でも聞かされた時のような表情だった。

「これは、ギンさんたちには悪いが、極めて政治的な話のようじゃ。」
ご老公が憮然とした顔で言った。
「鉄道公社は、しばらく前からこんなふうに言われておる。」

「『第九帝国』だね。」
ギンは、ご老公に酌をしながら、言う。
「わたしらも別に関わりたくないだけで、世情に無関心ってわけじゃないんだよ。そっちに利用されないためには、それなりに情報は持っていないとね。」

「今まで領土も持たなかった九番めの強国が、自らの領土を持とうと考え始めた、ということか。」
クローディアが顎髭を撫ぜながら言った。
「エステル伯爵は、自らの領地を公社に、売り渡すつもりなのか?」

「な、ならば。」
話についていけなくなったのは、ご老公の護衛「ナンバーズ」の二人だった。
「ギンどのたちの役目とは?」

「そこらは明確にはわからん。あるいは、伯爵やキッガが公社の思うように動かなくなった場合の保険のつもりかもしれん。
不要になれば、排除はしやすいし、な。」

「そう簡単に殺されるかね。」
ギンは強気に言ったが、顔色はよくなかった。

「おまえたちの強みは市中に紛れ込めることだ。」
アウデリアは遠慮なく言った。
「まともに国家またはそれに準ずる期間から的にされれば、もたない。
強固な組織をもつ殺し屋組織ならば報復もあるが、おまえたちそんなことにはならんだろう。」

「確かに、ね」
ギンは吐き出すよに言った。
「あたしらは、ほかにどうしょうもなくて、この道に入っちまったものばかりさね。」
「まあ、先々のことを心配してもしたかあるまい。いざとなれば、お主らくらいいくらでも匿ってやるわい。」

クローディアは心の中で苦笑した。
無理やり引退されられて、ロデリウム公爵家には一切、なんの権限もないと、おっしゃったのをもう忘れている!

確かに、クローディア大公国でも彼女たちを匿うことは出来た。

ならばどうする?
どううごく?

追加の料理、煮込みに食らえて、串焼きやひき肉をはさんだ饅頭、酒も並んで一見すれば盛り上がっているように見える円卓は、その実、先の見えない展開に、湿りがちである。
それでも笑い合い、ときには酌をし合い、ギンは小唄を二曲ばかり歌った。

「こういう時はだ、な。」
アウデリアがついに腹がくちくなってかたのか、面倒くさそうに言った。
「相手が一番嫌がりそうなことをしながら、向こうの出方を伺う。
これが一番いい。」

「戦士じゃのう、奥方どのは。」
老公は呆れたように言った。
「して、何をもって嫌がらせをするのだ?」

「伊達に独立したわけではあるまい。」
獰猛な笑顔で自分の夫を見やった。
「幸いにも、北方へ魔道列車の敷設の交渉中だ。駅の偉いやつを呼び出してクローディア大公国として抗議しろ。
わたしは、足止めをくった冒険者どもを集めて白狼団を討伐する。」
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