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第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり
第277話 駆け出し冒険者が見る悪夢
しおりを挟むよっこらせ。
と、気の抜けた掛け声をかけて、オルガは影の中から体を引き抜いた。
「どうやるんです?それ。
ミランもやってたけど、『影』と『異界』を転移で繋いでるんですか?」
「今度教えてやるぞ、リーダーよ。」
オルガが、起き上がったのは、走りよる人影を見つけたからだ。
「オルガっち!」
彼女によく似た、少し小柄な、そして少し若い女性は、オルガを抱きしめようとして飛び込んだが、オルガのつけていた胸当てに鼻をたぶつけて、涙目になっていた。
「こいつも『踊る道化師』なのか?」
イーゴールか尋ねた。
「異世界からの1000年ぶりの勇者アキルという。」
「古竜に爵位持ちの吸血鬼、それに勇者か。」
「いろいろと盛りすぎた気はしてます。」
オルガの手を引っ張って、踊りに行こうとさそうアキルに手を振りながら、ルトは言う。
「さて、壊乱帝が退出される前に、オルガ姫に会わせてやってください。帰りは灰冥宮まで転移でお送りするとお伝えください。」
イーゴールが尋ねた。
「転移だと?
また、あの大賢者どのか?」
「もっと、転移が得意なのがメンバーにいますので、ご安心を。」
「伝説の大賢者よりも転移魔法に長けたものなど、想像しにくいな。噂では当代最高の転移魔法の使い手は、元グランダ魔道院のボルテック卿の名があがるが。」
「まさか、ボルテックの妖怪ジジイまで、うちのチームにいると?
そんなご都合主義がありまかね?」
「まあ、ないだろうな。」
イーゴールは苦笑いを浮かべた。
「しかし、あれを凌ぐ転移魔術となるとそれこそ、伝説の神獣ギムリウスくらいしか思い浮かばんのも事実だ。」
「あ、そっちです。」
「あ?」
イーゴールはきょとんとして、ルトを見返した。
「そっちですよ。うちにいるのはギムリウスです。」
「さっきそう呼ばれている亜人はいたな。
ああ、あれかギムリウスを信仰する亜人の国がまだどこかにあったということだな?
その能力の一旦を受け継いだ?」
ルトは自分の「収納」からグランダの白酒のボトルをとりだして、イーゴールのグラスを満たした。
「おい‥そうなんだろ。おいってば!」
ルトは黙って、グラスを飲み干すように、ジャスチャーで伝えた。
言われたとおりに、イーゴールは白酒を飲んだ。
通常はた炭酸水、または果汁で割って飲む酒である。喉をやく酒に、目を白黒するイーゴールに、ルトはまたなみなみと酒をついだ。
「いったい、なにを‥」
言いかけて、イーゴールは言った。
「まさか、シラフじゃ聞けないことだとでも言うのか。
あの『ギムリウス』はギムリウスを信仰する亜人なんだよな!?」
にこにこと詐欺師の笑いをうかべてルト少年は言った。
「もちろん、そうですよ。」
ぜんぜん信用できなかった。
「おい、まさか本物のギムリウスだっていうんじゃないだろうな?」
「あれは、人と混じって暮らすための一種の義体です。
本体は城塞ほどの大きさがある蜘蛛の怪物で、現れただけで区街は消滅。歩くだけで街は壊滅。
もちろん、多種多様な攻撃魔法に、配下の蜘蛛を無尽蔵に呼び寄せることも可能です。」
「おい!そうなのか!?」
ルトはにっこりと笑う。
「もちろん、そんなことはあるはずがありませんよ。」
もう何も信じられなくなったイーゴールは、青ざめた顔でルトを見つめた。
「さあ、今宵片付けたほうがいい問題がもう、ひとつふたつあります。
酔いが覚めたらダンスでも付き合いますよ。女の子のステップもぼくはできますから!」
ルトはわりと、気分良きその場を立ち去った。
彼としては、さすがにまずい事。
リウが、その昔世界を滅ぼしかけた魔王その人であること。
アキルが、邪神ヴァルゴールの現し身であること。
‥を隠せればそれでよかったのである。
あとは。
そうだな、空席になった聖竜師団の顧問を決めてやるか。
管轄は教皇庁だろうが。
まず、話をもっていくのは、ガルフィート伯爵がいいだろう。
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