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第8部 残念姫の顛末
第362話 理由を探して
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「理由?」
アウデリアは、首をかしげた。
ミトラの目抜き通り、「ミトラミュゼ」は盛りのいい料理でおなじみの店だ。もともとはスイーツ店であったが、最近では肉料理と酒も充実させている。
なにしろ盛りが、よいのが特徴だ。
目の前には、新しい名物。「串焼き肉の天空盛り」が置かれていた。大皿に串焼きは、たがいに組み合わされて、頭上まで積み上がっている。
「ルトはあれは、ひねくれとるのう。」
「それは同感だ。」
逞しき女冒険者と田舎農家の主婦は、めずらしく意見があった。
「メアよ。もっと胡椒をかけてもいいのではないか?」
「母上、こっちの辛いのをかけてもおいしいです。」
脳天気なグランダの現在の王と先代の王は、けっこうな勢いで串焼きをたいらげ、酒をおかわりして、上機嫌だ。メアの得意の魔法は精神操作であり、彼女の夫であり、息子であるふたりがかなり「抜けて」いるのはその副作用のせいだと思われがちだが、これは実際にもともとそうなのだった。
彼らは、2人がルトの結婚式について話をしていることはわかっていて、それがなんとなく暗礁にのりあげていることまでは理解していたが、あまり関心がなかった。とにかくめったに来られない西域で、評判の料理をたいらげることに集中しすぎていたのかもしれない。
「運命の『空白』は埋まったのか?」
「おそらくは。」
「おそらくとは、なんだ。」
メアは腹立たしげに言った。
「おそらくは今後の人類に転換をもたらすであろう英傑を、けっこうな目に合わせた挙句に、その言い草はないだろう?」
「口調が、ザザリになってるぞ、メア。」
アウデリアは、王太后をからかった。
メアは咳払いして、歳の割には若々しい、田舎貴族の奥さまの表情を浮かべた。
「あなたのところのフィオリナのせい、なのよ。わかってる?
いくら若いとはいえ、あまりにも奔放すぎるわ。まして、結婚を数日後にひかえた状態での駆け落ち同然の逃避行の挙句に、そろって、ルトを殺しかけてるの。」
「この件については、ルトの側に立つというのかね?」
「当たり前でしょ。王位継承権はなくなっても、ルトはグランダの王子よ。」
わたしにとっては義理の息子なのだし。」
「リウもおまえの息子な訳だが。」
それは言いっこなし、よ。と言いながら、メアは串から、具材を丁寧に外して皿に盛ってから、一口、口に入れた。
「まあ、美味しい。流石に西域よね、うちのお庭のハーブとおんなじのがつかわれているわ。」
「話を誤魔化すな。珍しくもないだろ。ごく普通のハーブだ。」
「いえ、これ『わたしの庭』のハーブよ。先月から出荷を始めたの。早速ミトラで使われてるところに遭遇するなんて、なんだか嬉しいわ。」
ふんっと鼻をならしてアウデリアは、串焼きを2本まとめてかぶりついた。
「流石にお目が高い、クローディア公。上京されて間もないのに、これほどの店を行きつけにされているとは!」
グランダ前王、「良識」王はそんなことを言ってクローディアを誉めた。
言われたクローディアは、「外交的」な笑顔でそれにこたえた。
クローディアにしてみれば、グランダという国家を運営しているのは、法務卿と財務卿であって、あためてこの二人にはなんにも話すこともない。
もっとも、自分の娘の結婚がその当の本人の浮気が原因で暗誦に乗り上げているのである。一応、他国の貴族がミトラ見物ついでにお忍びで、評判の店を訪れたていにしておきたかったのだろうが、無駄もはなはだしい。
打ち合わせは、アウデリアとザザリが行えばいいのであって、そこにグランダ王たちを同席させる、それがまったく無意味であった。
「まあ、クローディア陛下。」
ザザリの力は外向的な仮面などやすやすと突破してくる。
「わたしも、家族の団欒は久しぶりなのです。大事なことではありますが、片手間にできますので、アウデリアとの打ち合わせと並行して行うことにしましたの。」
陛下には、ホスト役をお願い致しますわ、と言ってザザリは、アウデリアとの話しに戻った。
クローディアは思う。
恐らくは、フィオリナは何年かすれば落ち着く。なにしろ、まだ十代なのだ。
成人年齢のひくいグランダでもその歳での結婚は稀であった。
職人ならばまだ、一人前の技術は身につけていない。
貴族や富裕層ならば、自分の息子や娘がいかに、知的にもすぐれた存在かを示すために、もっと上級への学校に進ませる。
その後、両家のしきたりなどを学んで、これで問題なし、ということで式をあげるのは、やはり二十代の前半くらいだろうか。
その間におのれの若さに任せて、少将軌道はずれのことをしでかすものも少なくない。
案外。
と、クローディア陛下は思う。
魔王も、また、遅れてきた青春を謳歌しているのではないか?
彼が青年に達する頃には、配下の魔族を限りなく強大に、果てしなく凶暴にさせる魔素との戦いにあけくれていたはずだった。
のんびり学校に通い、親友の彼女を好きになったりする甘酸っぱい展開など一度もなかったはずだ。
しかし。
それなら、ルトが求めている「結婚延期の正当な理由」とはなんだろう。
アウデリアは、首をかしげた。
ミトラの目抜き通り、「ミトラミュゼ」は盛りのいい料理でおなじみの店だ。もともとはスイーツ店であったが、最近では肉料理と酒も充実させている。
なにしろ盛りが、よいのが特徴だ。
目の前には、新しい名物。「串焼き肉の天空盛り」が置かれていた。大皿に串焼きは、たがいに組み合わされて、頭上まで積み上がっている。
「ルトはあれは、ひねくれとるのう。」
「それは同感だ。」
逞しき女冒険者と田舎農家の主婦は、めずらしく意見があった。
「メアよ。もっと胡椒をかけてもいいのではないか?」
「母上、こっちの辛いのをかけてもおいしいです。」
脳天気なグランダの現在の王と先代の王は、けっこうな勢いで串焼きをたいらげ、酒をおかわりして、上機嫌だ。メアの得意の魔法は精神操作であり、彼女の夫であり、息子であるふたりがかなり「抜けて」いるのはその副作用のせいだと思われがちだが、これは実際にもともとそうなのだった。
彼らは、2人がルトの結婚式について話をしていることはわかっていて、それがなんとなく暗礁にのりあげていることまでは理解していたが、あまり関心がなかった。とにかくめったに来られない西域で、評判の料理をたいらげることに集中しすぎていたのかもしれない。
「運命の『空白』は埋まったのか?」
「おそらくは。」
「おそらくとは、なんだ。」
メアは腹立たしげに言った。
「おそらくは今後の人類に転換をもたらすであろう英傑を、けっこうな目に合わせた挙句に、その言い草はないだろう?」
「口調が、ザザリになってるぞ、メア。」
アウデリアは、王太后をからかった。
メアは咳払いして、歳の割には若々しい、田舎貴族の奥さまの表情を浮かべた。
「あなたのところのフィオリナのせい、なのよ。わかってる?
いくら若いとはいえ、あまりにも奔放すぎるわ。まして、結婚を数日後にひかえた状態での駆け落ち同然の逃避行の挙句に、そろって、ルトを殺しかけてるの。」
「この件については、ルトの側に立つというのかね?」
「当たり前でしょ。王位継承権はなくなっても、ルトはグランダの王子よ。」
わたしにとっては義理の息子なのだし。」
「リウもおまえの息子な訳だが。」
それは言いっこなし、よ。と言いながら、メアは串から、具材を丁寧に外して皿に盛ってから、一口、口に入れた。
「まあ、美味しい。流石に西域よね、うちのお庭のハーブとおんなじのがつかわれているわ。」
「話を誤魔化すな。珍しくもないだろ。ごく普通のハーブだ。」
「いえ、これ『わたしの庭』のハーブよ。先月から出荷を始めたの。早速ミトラで使われてるところに遭遇するなんて、なんだか嬉しいわ。」
ふんっと鼻をならしてアウデリアは、串焼きを2本まとめてかぶりついた。
「流石にお目が高い、クローディア公。上京されて間もないのに、これほどの店を行きつけにされているとは!」
グランダ前王、「良識」王はそんなことを言ってクローディアを誉めた。
言われたクローディアは、「外交的」な笑顔でそれにこたえた。
クローディアにしてみれば、グランダという国家を運営しているのは、法務卿と財務卿であって、あためてこの二人にはなんにも話すこともない。
もっとも、自分の娘の結婚がその当の本人の浮気が原因で暗誦に乗り上げているのである。一応、他国の貴族がミトラ見物ついでにお忍びで、評判の店を訪れたていにしておきたかったのだろうが、無駄もはなはだしい。
打ち合わせは、アウデリアとザザリが行えばいいのであって、そこにグランダ王たちを同席させる、それがまったく無意味であった。
「まあ、クローディア陛下。」
ザザリの力は外向的な仮面などやすやすと突破してくる。
「わたしも、家族の団欒は久しぶりなのです。大事なことではありますが、片手間にできますので、アウデリアとの打ち合わせと並行して行うことにしましたの。」
陛下には、ホスト役をお願い致しますわ、と言ってザザリは、アウデリアとの話しに戻った。
クローディアは思う。
恐らくは、フィオリナは何年かすれば落ち着く。なにしろ、まだ十代なのだ。
成人年齢のひくいグランダでもその歳での結婚は稀であった。
職人ならばまだ、一人前の技術は身につけていない。
貴族や富裕層ならば、自分の息子や娘がいかに、知的にもすぐれた存在かを示すために、もっと上級への学校に進ませる。
その後、両家のしきたりなどを学んで、これで問題なし、ということで式をあげるのは、やはり二十代の前半くらいだろうか。
その間におのれの若さに任せて、少将軌道はずれのことをしでかすものも少なくない。
案外。
と、クローディア陛下は思う。
魔王も、また、遅れてきた青春を謳歌しているのではないか?
彼が青年に達する頃には、配下の魔族を限りなく強大に、果てしなく凶暴にさせる魔素との戦いにあけくれていたはずだった。
のんびり学校に通い、親友の彼女を好きになったりする甘酸っぱい展開など一度もなかったはずだ。
しかし。
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