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第8部 残念姫の顛末
第381話 アキルの戸締り
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崩壊しつつあるミトラ大聖堂。
その近くにある潰れたレストラン。
そのエントランスホールで、三人と一匹は対峙する。
「ぼくは、グランダの冒険者パーティ『緋色の研究』のヤイバ。」
ヤイバは、礼儀正しく名乗った。
彼は人間の、少なくとも冒険者としての常識をそれこそ、ギムリウスなどとは、かけ離れたレベルで習得していた。
彼の任務は、「ミトラ大聖堂が消滅するまで、ゴウグレの緋蜘蛛たちの転移を行う転移陣を維持保全すること」であって、それを破壊しようとするものをどうするかまでは、彼の裁量に任されるのだ。
彼は、創造主たるギムリウスの依頼により、転移陣の守備にはついているものの、実際は魔王宮の第二層でのクエストを実行中だった。
ここで、死んだり、動けなくなるような負傷をするのは願い下げたいのである。
そのための方法はいろいろあって、ひとつには、会話による時間稼ぎというものもあった。
「付け加えておくと、『緋色の研究』というパーティ名は、リーダーの『緋のドルバーザ』にちなんだもので、召喚されているゴウグレの蜘蛛の外皮とは、関係がない。」
「わらわは、銀灰公国のオルガ。ひとからは闇姫、などと呼ばれておる。しかし、関係がないといいながら、つらつらとよく喋るの。」
闇姫は、デスサイズの刃を指でそっと撫でた。
撫でられたデスサイズは、感極まったかのように、青黒い液を滴り落とした。
「ゴウグレの名は、聞いておる。たしかどこぞの邪神の12使徒とか呼ばれている大物で、ギムリウスの作った変異種じゃ。」
オルガは、デスサイズの刃を突き出した。
「ならばおまえも、ギムリウスの作った蜘蛛のひとりかっ!
何故こんなことをする?」
「ねえねえ、オルガっち」
と、さきに勇者アキルと名乗りを挙げた少女が、オルガの袖をひっぱった。
「それだと、ギムリウスを捕まえて説得したほうがよさそうだよ。なんの勘違いがしらないけど」
ちょいためらって、彼女は続けた。
「なんの勘違いかはだいたいわかったような気がする。たぶん、ギムリウスもルトくんたちの結婚反対派に回ったんだよ。大聖堂が、なくなれば結婚式ができなくなる、くらいの短絡的なことを考えたんだよ、きっと!」
「お主たちは主上をご存知なのか?」
ヤイバは少し改まった口調で言った。
「わたしたちは、冒険者パーティ『踊る道化師』の一員です。
ギムリウスさんとは、同じチームの仲間、ということになりますね。」
清楚な美女、ドロシーが歩みでた。
「ここは、てわけをいたしましょう。ヤイバなる魔物を、突破して転移陣を停止されるのはわたしが行います。
おふたりは、ギムリウスと。」
ドロシーの目がアキルを見た。
「…アキルは、ゴウグレの説得を。ギムリウスの命に反することでも、アキルの説得ならば受け入れるはずです。」
「それは悪くない方法だ。先ほどここを訪れた戦士たちも同じ結論に達したぞ。」
「なんで、わらわが、ギムリウスの説得じゃ?」
オルガは不満そうに唇をとがらせた。
「ドロシーもよく知ってる相手だそ? ここはわらわとコイツを戦わせて、おぬしが、ギムリウスを説得せい。」
「わたしは、ギムリウスの生徒であって、『試し』をうけた仲間ではないのです。」
というのが、ドロシーの答えだった。
「おまえたちはあたまがいいな!」
ヤイバは、褒めた。
「だが、ゴウグレをそのアキルとかいう少女がどうやって説得するのだ。
一時は主上の元を、離れて邪神ヴァルゴールの使徒をやっていた個体だぞ?
人間の言うことなどきかない。」
「それはまあ。」
と、アキルいいにくそうにつぶやいた。
「ゴウグレは別段、今でも12使徒のひとり、であるわけなので。」
「なるほど!
それならなんとか、なりそうだじャの!」
「ゴウグレ単体ではそれほどの転移能力はない。だけど、いま緋蜘蛛を転移させてる陣の力を使えば。」
ヤイバは、彼らの一族にだけ許された、なんのためもない、すべるような動作でアキルに近づいた。
それは、戦うもののカン、だったのかもしれない。
こいつを。
このアキルという少女に自由にされてはならない。
ヤイバの一撃は、オルガの鎌が跳ね返した。もともと防御には使用しにくい武具のはずだが、オルガは完璧に使いこなしている。
だが、ヤイバの剣は1本ではなく。
冷気の魔法がヤイバの下半身を包んだ。さきほどのドロシーという女の魔法だった。抵抗力のないものなら、下半身を氷漬けにされ、行動の自由を奪われるだろう。だが、神獣ギムリウスの「ユニーク」として作られたヤイバには、そこまでの効果は、ない。
弧をえがいて、うち下ろされるオルガの鎌を、腰の剣を跳ね上げて、防ごうとし。
ヤイバはドロシーの意図に気がついた。
剣が。凍っている。
それは正確には「剣」であって剣めらない。ヤイバの能力、脚の全てが神剣の切れをもつヤイバと化しているのであり、その能力を人の姿をとったときに、剣として擬態させたのが、彼の剣なのだ。
ドロシーの冷気は剣化したヤイバの脚を鞘と柄を凍られせて、抜けなくしたのだ。
オルガの鎌は、ヤイバの側頭部を掠めた…剣で受けるつもりだったヤイバの回避は、一瞬、ほんの一瞬遅れたのだ。
髪が飛び散り、さらに掠めただけの頭皮がシュウシュウと音を立てて、膿崩れていく。
それが、オルガの持つ、デスサイズの効果だった。
その近くにある潰れたレストラン。
そのエントランスホールで、三人と一匹は対峙する。
「ぼくは、グランダの冒険者パーティ『緋色の研究』のヤイバ。」
ヤイバは、礼儀正しく名乗った。
彼は人間の、少なくとも冒険者としての常識をそれこそ、ギムリウスなどとは、かけ離れたレベルで習得していた。
彼の任務は、「ミトラ大聖堂が消滅するまで、ゴウグレの緋蜘蛛たちの転移を行う転移陣を維持保全すること」であって、それを破壊しようとするものをどうするかまでは、彼の裁量に任されるのだ。
彼は、創造主たるギムリウスの依頼により、転移陣の守備にはついているものの、実際は魔王宮の第二層でのクエストを実行中だった。
ここで、死んだり、動けなくなるような負傷をするのは願い下げたいのである。
そのための方法はいろいろあって、ひとつには、会話による時間稼ぎというものもあった。
「付け加えておくと、『緋色の研究』というパーティ名は、リーダーの『緋のドルバーザ』にちなんだもので、召喚されているゴウグレの蜘蛛の外皮とは、関係がない。」
「わらわは、銀灰公国のオルガ。ひとからは闇姫、などと呼ばれておる。しかし、関係がないといいながら、つらつらとよく喋るの。」
闇姫は、デスサイズの刃を指でそっと撫でた。
撫でられたデスサイズは、感極まったかのように、青黒い液を滴り落とした。
「ゴウグレの名は、聞いておる。たしかどこぞの邪神の12使徒とか呼ばれている大物で、ギムリウスの作った変異種じゃ。」
オルガは、デスサイズの刃を突き出した。
「ならばおまえも、ギムリウスの作った蜘蛛のひとりかっ!
何故こんなことをする?」
「ねえねえ、オルガっち」
と、さきに勇者アキルと名乗りを挙げた少女が、オルガの袖をひっぱった。
「それだと、ギムリウスを捕まえて説得したほうがよさそうだよ。なんの勘違いがしらないけど」
ちょいためらって、彼女は続けた。
「なんの勘違いかはだいたいわかったような気がする。たぶん、ギムリウスもルトくんたちの結婚反対派に回ったんだよ。大聖堂が、なくなれば結婚式ができなくなる、くらいの短絡的なことを考えたんだよ、きっと!」
「お主たちは主上をご存知なのか?」
ヤイバは少し改まった口調で言った。
「わたしたちは、冒険者パーティ『踊る道化師』の一員です。
ギムリウスさんとは、同じチームの仲間、ということになりますね。」
清楚な美女、ドロシーが歩みでた。
「ここは、てわけをいたしましょう。ヤイバなる魔物を、突破して転移陣を停止されるのはわたしが行います。
おふたりは、ギムリウスと。」
ドロシーの目がアキルを見た。
「…アキルは、ゴウグレの説得を。ギムリウスの命に反することでも、アキルの説得ならば受け入れるはずです。」
「それは悪くない方法だ。先ほどここを訪れた戦士たちも同じ結論に達したぞ。」
「なんで、わらわが、ギムリウスの説得じゃ?」
オルガは不満そうに唇をとがらせた。
「ドロシーもよく知ってる相手だそ? ここはわらわとコイツを戦わせて、おぬしが、ギムリウスを説得せい。」
「わたしは、ギムリウスの生徒であって、『試し』をうけた仲間ではないのです。」
というのが、ドロシーの答えだった。
「おまえたちはあたまがいいな!」
ヤイバは、褒めた。
「だが、ゴウグレをそのアキルとかいう少女がどうやって説得するのだ。
一時は主上の元を、離れて邪神ヴァルゴールの使徒をやっていた個体だぞ?
人間の言うことなどきかない。」
「それはまあ。」
と、アキルいいにくそうにつぶやいた。
「ゴウグレは別段、今でも12使徒のひとり、であるわけなので。」
「なるほど!
それならなんとか、なりそうだじャの!」
「ゴウグレ単体ではそれほどの転移能力はない。だけど、いま緋蜘蛛を転移させてる陣の力を使えば。」
ヤイバは、彼らの一族にだけ許された、なんのためもない、すべるような動作でアキルに近づいた。
それは、戦うもののカン、だったのかもしれない。
こいつを。
このアキルという少女に自由にされてはならない。
ヤイバの一撃は、オルガの鎌が跳ね返した。もともと防御には使用しにくい武具のはずだが、オルガは完璧に使いこなしている。
だが、ヤイバの剣は1本ではなく。
冷気の魔法がヤイバの下半身を包んだ。さきほどのドロシーという女の魔法だった。抵抗力のないものなら、下半身を氷漬けにされ、行動の自由を奪われるだろう。だが、神獣ギムリウスの「ユニーク」として作られたヤイバには、そこまでの効果は、ない。
弧をえがいて、うち下ろされるオルガの鎌を、腰の剣を跳ね上げて、防ごうとし。
ヤイバはドロシーの意図に気がついた。
剣が。凍っている。
それは正確には「剣」であって剣めらない。ヤイバの能力、脚の全てが神剣の切れをもつヤイバと化しているのであり、その能力を人の姿をとったときに、剣として擬態させたのが、彼の剣なのだ。
ドロシーの冷気は剣化したヤイバの脚を鞘と柄を凍られせて、抜けなくしたのだ。
オルガの鎌は、ヤイバの側頭部を掠めた…剣で受けるつもりだったヤイバの回避は、一瞬、ほんの一瞬遅れたのだ。
髪が飛び散り、さらに掠めただけの頭皮がシュウシュウと音を立てて、膿崩れていく。
それが、オルガの持つ、デスサイズの効果だった。
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