あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第8部 残念姫の顛末

第383話 邪神とその、使徒

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「呼んだらさあ、ちゃっちゃっと答えようよ。」
わたしにそう言われたゴウグレは、返事もせずに、考え込んでいた。
「どした?
なんか体調悪いの?
いや、蜘蛛を送り出す仕事で忙しいのはわかるんだけど。」

「いえ…」
戸惑ったような思念が、意識のふちを這い上がってくる。
神様モードのわたしにとっては、あまりにも鈍く、微弱な思考。
「司祭でもない限り、神と直接コンタクトをとることなど、通常は有り得ないことなので。」
「あれ?
ゴウグレくんとは、はじめましてだっけ?」
「アキル殿としては、会っておりますが。」
ゴウグレは本気で困っている。そうか、そういうものなのか。
「でも、わたしがなんだかはわかるよね?」
わたしは念を押した。

そりゃあ、彼の言いたいこともわかる。
神様などと直接、接触した生き物は普通ではいられない。
それ専用の職種、預言者などと言われる者でも、周りくどい「神託」を受け取るだけだ。
いくら、並みの生き物ではないゴウグレでとはいえ、あまり直接話しかけられたくは、ないだろう。

「頼みがあるんだけど、今のその作業をちょっと中止して、こっちに来てくれないかな。」

「しかし、これはギムリウス様からのご命令で・・・」

「ギムリウスにはわたしから、よく話しておくよっ!
とにかく、ミトラの大聖堂を食べられてしまっては困るんだ。」

ゴウグレは困っている。本当に困っている。
「しかし、大聖堂を食べるというのが、ギムリウス様からのご命令で。」
「誤解だよ、誤解!」

創造主たる神獣が、間違ってると主張するおまえは何者だっ!
と、言われそうだか、言い返してやる。

あたすは、かみさまだよっ。

「わかりました。とくかく一度、現場をみせていただきましょう。」
なんだか、出入りの工務店さんみたいな言い方で、ゴウグレは承知してくれた。

やれやれ。
目を開けると、目の前、3センチに、ヤイバの剣があった。
差し伸べられた、ゴウグレの手を縦に肘あたりまで切り込んで止まっていた。

「なにをしている。」
2人の蜘蛛の魔人は、同時に言った。

「わたしは、おまえの送り込む緋蜘蛛の転移陣を守るためにここにいる。
おまえは、なにをしに来たのだ。」
「おまえが、殺そうとしたのは、わたしが信奉する神だ。」
ゴウグレは、そのまま、もう一方の腕でヤイバを殴りつけた。
殴り飛ばされた拍子に、ゴウグレの骨にくい込んでいたヤイバの剣が、折れた。

これは。どっちがダメージが大きいのだろう。
折れた剣は実は、ヤイバの脚そのものだから、一種の骨折には違いない。だが、半ばまで切り裂かれたゴウグレの腕は、剣が折れる際にも、さらに傷口が広がり、ほとんど使い物にならない肉塊となって、ぶら下がっていた。

「主上に叛逆するのか? 知性のユニークよ。」
「時として主を正すのも仕えるものの、役目だ。剣のユニークよ。」

「まあまあまあ」
わたしは、二体のあいだに割って入った。
ここでわたしがでるのは、なんか違うのだが、しかたない。わたしにとってはゴウグレは、大事なわたしの使徒だし、ヤイバはまあ、ちゃんと会ったのは初めてにしても、ギムリウスの傑作だ。やたらに駄目にしてよいわけではない。

「とりあえず、一旦中断、ね、一旦、ストップしてギムリウスを探そう。」
「ゴウグレ、この者はなんだ?」
「だから、わたしが信奉する神だ。」
ヤイバの目つきが、闘志あふれるものから心配するものに変わった。
「ゴウグレ殿。あなたはかつて、同じく知性のユニークとして創造されたヤホウと仲違いをし、群れを離れたときいている。」
「いかにも。」
「その際に、ヴァルゴールなる邪神を崇める教団にはいり、『12使徒』と呼ばれる幹部の座にあったとか。」

「その通りだ。」
と、ゴウグレは言った。
「よく学んでいるな、ヤイバ。」
「これのどこが、邪神ヴァルゴールだ?」

「まあ、確かにわたしは、キュートではあるが、邪神がキュートではなにか不味いのか?
そもそもどんな姿に見えれば、邪神認定してもらえるのだ?」
これはよい返しだったらしく、ゴウグレは考え込んだ。

気がつくと、身体を起こしかけだドロシーさんが、オルガっちに回復魔法をかけてもらっている。
オルガっち自身の方が重傷のはずだが、ところどころ、服が破れているのが、ああここが傷だったんだな、というのがわかるだけで、傷はすべて治っていた。

「分かった。主上を探そう。蜘蛛の追加は中止するのだな?」

ほっとしたように、ゴウグレが頷いた。
オルガっちに肩を借りたドロシーさんと、ゴウグレとヤイバとわたし。
店を出てみて驚いた。

大聖堂はもう無かった。
いや。
立派な建物「だった」ことはわかるが、もうそこはミトラ大聖堂ではない。
ただの瓦礫の山だった。

ガルフィート伯爵や、剣聖カテリア、勇者クロノ。「踊る道化師」の面々、集まった冒険者たちが、呆然と見守る中、緋色の蜘蛛たちは次々と地面に向かってダイブしていく。

「まあ、焦って転移陣を破壊しなくてよかったかもしれんのう。」
オルガっちがつぶやいた。
「大聖堂はどのみち、このありさまじゃし、帰り道を失った蜘蛛どもの大軍団が居残るだけじゃ。
少なくとも自分で帰ってくれるのはありがたい。」

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