あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第8部 残念姫の顛末

第384話 駆け出し冒険者は語る

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ぼくの中に黒い塊が出来てしまった。
それは否定しない。
たんに裏切られたからではない。
ぼくは、婚約者であり幼なじみでもあったフィオリナに裏切られた。
そうなるように、仕向けたのは、ぼくが魔王宮から解き放ったかつての魔王バズス=リウだ。
事態の収束のため、協力を仰いだ賢者ウィルニアにもあっさり裏切られたが、これはどういうものか、あまり腹がたたない。
どうせ、こいつはこういうものだ、と分かっているからかもしれない。

とにかく。
フィオリナとリウの言い分はだいたい理解した。
リウは、フィオリナにぶん殴られたのをきっかけに彼女に好ましく思い、半ば興味本位で互いの性別をかえて、誘ってみたら、拒むどころかノリノリだったので、そのままずるずると恋仲になってしまった。

それ自体ひどいはなしだが、なるほど、世界を滅ぼしかけた極悪人に、まともな道徳など押し付けても無駄だろうし、そんな、魔王の伴侶には、たしかにフィオリナは相応しいのだ。
それこそ。魔力だけが強いぼくよりもお似合いだ。

ただ、その場合はおそらくは、クローディア夫妻が望んだような人としての幸せは無くなるだろう。
これもたぶん、だ。あくまで可能性だ。だがリウ+フィオリナは、世界の秩序の敵となる。
軍勢は?
いる。
もともと魔族と呼ばれた魔素に対する過敏症を体質的にもつものたちは、まだ北の大山脈のむこうに営々と生きながらえている。
いまは、リウが少年の姿になることで、魔素の流出を抑えているが、彼はいつでも成人の姿にもどり、魔族たちを強化して世界制覇に乗り出せる。
そして、戦を続けている限りは、魔素による凶暴化は問題にならない。戦場で暴力を思うままに発散できるからだ。

千年前。
では、すべての敵国を倒し、すべての敵を殺し尽くしたあと、どうするかをウィルニアに問われ、リウは迷宮に、閉じこもることを決意したのだ。
もう、その解決策は出来ている。

体を少年期まで若返らせてしませば、魔素は制御できるのだ。つまり、好きな時点で魔族の強化を止めることが出来るのだ。

まあ、そうは容易くはいかないが。

リウ+フィオリナの魔帝国に、立ち向かうものたちもまた誕生しているのだから。
すなわち。

踊る道化師。

「あのなあ、」
リウはウンザリしたように言った。
精悍な面構えは、少年の域を脱しない中性的なものだったが、どこかに、威厳も感じさせる。
「オレはそんなことはしない。
もともと、戦争だって西域がしかけてきたものだったんだぞ。
まあ、戦を始めてみたら、国内での犯罪がごそっと減ってんで、これはしめた、と思ったのも事実だが。」

相変わらず、リウはぼくの考えてることがわかるかのような話し方をする。
「わかるんだよ。おまえはオレに、似てるから。
最初にあった時に、言っただろ。おまえをオレの伴侶にしたいって。」

やっぱりこいつは、普通じゃないな。

ぼくは諦めた。
とにかく、リウとフィオリナに普通を要求するのは諦めた。
「アモン!」
ぼくは、空に向かって呼び掛けた。
天空が割れた。

アモンがその、姿を表した。
初めて見る。竜の姿だ。
金褐色の瞳が開いて、ぼくらを睥睨した。

「結論はでたのか?」
「ご覧の通りだ。」
ぼくは手を広げた。
ウィルニアは、トーガをまとった青年の姿に。リウは少年の姿に。
フィオリナは、すらりとした女性の姿を姫騎士装束で包んでいる。

「なにがご覧の通りだがわからないんだが?
フィオリナの呪いはといてやったのか?」
「そもそも、あれは本人たちの罪悪感からくる心因性のものなので、ぼくにもなすべがない。だからとりあえず、あそこが、立たなくても問題ないように、もともとの性別に戻した。」
「リウは、おぬしの呪いで性別をかえる身体操作が出来なくなっていたはずだか。」
人聞きの悪い、アモン。

ぼくが呪いなどかけていないので、解呪のしようもないことを、きくと、フィオリナは天を仰いで泣いた。ついでに短剣を取り出して、喉を突こうとしたので、リウが止めに入って、まあ、つまんない修羅場を演じて見せてくれたのだった。

おかげで、肝心なときに、あれがアレなことが、そんなに辛いことなのか、と改めてぼくは、深く感じ取り、では、とりあえずそんなことを心配しなくていい性別に戻ったら、と提案してみたのだ。

「出来るものならそうしてるわっ!」
とフィオリナは叫んだ。
「でも、リウもわたしもそれが、出来なくなっちゃってるのよ!
これもルトの呪いでしょ?」

いや呪いなんてかけてないんだけど。
ぼくは、劣化しきった婚約者と友人に背を向けると、ウィルニアに言った。
「この二人の性別を変えてやってくれ。できるよな。」
「当たり前だが。」
自信が女性の姿をしたウィルニアは、二つ返事でこたえて、そのようにしたのだった。

「というわけで、現在に至るわけだ。」
「なにが、というわけなのかわからん。」

浮かぶ百メトルを越える竜の姿は、破裂した。無数の破片が空一面に広がり、それは収束して人の姿をとる。
それこそ、男の淫夢にしか現れないような芸術的な曲線美をもつ美女の姿に。

「こいつらを殺してやりたいのではないか?
人間はそうするものだぞ?」

ああ、アモン。
「リウを殺せばおまえが許さないだろう。フィオリナを殺してしまったら、クローディア大公夫妻やヨウィス、ミュラ先輩、」
ぼくは指をおったが、ロクに名前が出てこなかった。
「数少ない理解者や友人も、根こそぎ失う。そんなことはできない。」
「無限寿命者としては正しい。」
アモンは慰めるように、ぼくの肩を叩いた。
「愛情などは一定の期間しかもたぬが、恨みは歳を経るほどに増すからな。
それが晴らした恨みであるかどうかは、実は問題ではない。
恨みは最初からもたぬようにするのが吉だな。」

ずい、とそのまま。ぼくの顔を覗き込んだ。
瞳は金褐色。それが、激しい感情の昂りを表すことをぼくは学んでいる。

「だが、その欲望のままにふるまったものには罰が必要だ。それを下す権利のあるのは、この場合はおぬしだろう。」
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