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異世界

提案

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 その様子をふむふむ、と遠巻きに見ていたミャールは何か思い付いたようにニヤニヤとアークに視線を送る。

「アーク、アンタはどっちが欲しいにゃ?」

「どっちとは?」

「《付与》付きのアクセサリーなのか、美しい装飾品なのか、ってことだろう」

「そりゃ、《付与》付きの美しい物に決まってるだろ!」

 ミャールは欲張りだにゃ、と呆れたように言いながらもその表情は相変わらずニヤついたままだった。

「なら、作って貰えば良いにゃ。オーダーメイドにゃから直ぐにゃー難しいだろうけど、寧ろ付けたい《付与》を選べるしいいにゃ!」

「だけどよ、俺は美的センスは高いが、デザイン力はねぇー。リザに任せるとしたらそれこそ金が…」

「アーク、私達の職業は何にゃ!」

「当たり前に冒険…者……そうか!素材は自分で取ってくりゃ素材代をケチれる!」

「言い方が悪いにゃ…」

 またもや製作者を置いて勝手に話しが進んで行く。
 しかも、少々危険な方向に話しが進んでいるように感じる。
 確かに作ったのは間違いなく私だけど、その《付与》とやらが何でついているのか、どういうものなのか、如何やってつけるのか、全く分からないままなのだ。

「そうと決まれば何を《付与》して貰うか考えねぇとなぁ…。三個だろ?物理防御、魔法防御、回避率、俊敏、瞬足…」

「自動回復とかクリティカル上昇も便利にゃ」

「私なら、MP回復と魔法攻撃力上昇は必須で、自動修復も付けておきたいところですね」

「確かに、自動修復は必須か…」

 こんなにも話しが進んでしまってからは何となく言いづらいが、此処は正直に全て話してしまうべきだろうか。こんなに良くしてくれる人達だ。もしかしたら…。

(いや、駄目だ。旦那だって…初めは優しかったんだから…)

 梨沙はぐっと手を強く握った。

ーーーこの世界にはもう誰もいない。忘れよう


「確かに、《付与》が出来る術師は少ない。あれは素人がどうこう出来る代物じゃないからな」

「ましてや、リザは一つの物に三個も重ね掛けしてるしよ。そんな奴は多分、この大陸中探しても片手で収まる程度だろ?」

「アークの言う通りにゃ…」

「リザ、貴族に、囲われる、奴隷みたいに、働く、かも?」

「ど、奴隷ですか!?」

「確かに…危ないですね」

 いきなり身の危険か迫っていると言われ、冷や汗がたらりとこめかみを流れる。

「リザさんには早めに商業ギルドで登録することをお勧めします。ギルドなら貴族は介入出来ませんし、これほど優秀な技術者ならギルドも全力で守ってくれることでしょう。それに露店やお店を出すなら登録は必須です」

「そ、そうなんですね…」

「リザおねえちゃん、商業ギルドは近いの!私が案内するよ!」

「ありがとう…マリーちゃん」

 奴隷になるのは嫌だ。多少の元手も手に入ったし、ベルトみたいな簡単な物ならわたしにも作れる事が分かった。
 ハンドメイドなら一通りの知識はある。《付与》って言うのはまだ良く分からないけど出来そうなものから始めてみよう。

ーーーぐぅ~っ

「ごめんなのにゃ…」

「困った子だね。まだ仕込み中だから座って待ってな」

「ありがとうだにゃ~」

「取り敢えず飯にするか!」

 ミャールの大きなお腹の音で話しはそこでお開きになった。

 これから如何するのか、何となくの方向性が見えて来ただけでも、私に取っては大きな成果だ。
 分からない事だらけだけど、私はまともな職についたことがない。
 だから買ってくれた人笑顔が見れたり、喜んでくれる姿を直接見ることが出来たのは今までで一番嬉しくて、一人でコツコツと商品を作ったりするのも楽しかったけど、それよりももっとやり甲斐を感じられた。

 だから、こんなふうに今日会ったばかりの人達と軽口叩きながら食事やお酒を楽しむのも良いな、と久しぶりの解放感に気分が良かった。





 
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