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異世界
静かな帰り道
しおりを挟む「これとこれ…それからこれも」
「嬢ちゃん、そんなに持って帰られるのかい?」
「あ、えっと…」
「俺が持つ」
「…なんだい、随分大層な荷物待ちがいるじゃないかい」
「あはは…」
なんだか申し訳ない…。ロキさんをそんなふうに使うつもりは無かったんだけど、やっぱりまだ人前で鞄を使う訳にはいかない。
確かに、金獅子の皆んなのお陰で一部の冒険者も使うようになってるし、少しずつ“魔法鞄”として認知され始めているけど、まだまだ珍しくて高価な物なのは変わりない。
もう少しの辛抱だ、と今はまだ人前では使わないようにしている。
「ロキさんすみません、荷物持たせてしまって」
「いや、構わない…」
やっぱり、と言うべきか。
相変わらず会話が続かない。
私みたいなのがこんなイケメンを連れて歩いているなんて、いつか刺されるんじゃ無いだろうか。
「あ、ちょっとすみません」
だけど、今は念願が叶うかも知れない。
ドライフラワーを作ってなかったことにこんなに後悔するとは思わなかった。もう二度とこんな後悔をしたくは無い。
その為にはやっぱり準備が必要だ。
「これってりんごですか?」
「あぁ、良い色だろ?森林ダンジョンで取れたりんごだからな。他の物よりも甘いぞ!」
「ダンジョンの…」
「食べ比べてみるか?こっちのは野りんごだ」
「すっぱッ!」
「だろ?食えたもんじゃねぇ!」
私の反応を予測していたように豪快に笑う店主。野生のりんごってこんなにすっぱいものだったんだ…。正直言ってかなり舐めていた。
恐ろしや、品種改良。
恐ろしや、ダンジョン食材。
「…取り敢えず、どっち十個ずつください」
「野りんごもか?お嬢ちゃん、物好きだね」
「あはは…」
こんな扱い受けるのは少し嫌だが、店主はこれから凄く美味しいものが出来るとは知らないのだから仕方がない。
これは私のお楽しみだから…皆んなには秘密だ。
今日宿屋に帰ったら早速ワインとシードルの仕込み、それから別でリンゴ酢の仕込みを始めておこう。
…実はこっちのお酒、エールはそんなに美味しくないから余り飲んでないんだよね…。
多分、余り冷えていないのもあるとは思うんだけど、それを抜きにしてもそんなに美味しい物ではない。
それに氷はかなり貴重で高価な物らしい。
現代社会に慣れ親しんでしまった私にとって氷なんてお金を出して買うような物じゃない。夫がたまにロックアイスを買ってきていたが、それすら無駄に思っていたくらいだ。
だから、わざわざ大金を出してまで欲しいとは思わない。
「やっぱり…魔法使いたいな…」
「…」
魔法ならちょちょいのちょい、って氷を出せたり…はしないか。
それならそんなに高価な物にならなさそうだよね。魔法自体使える人も少ないのかも?いや、生活魔法とか言うものがあるらしいし、大それた事は出来なくても…。
いや、変な希望を持つのはやめよう。
《付与術師》の私は生活魔法くらいなら…というルーペリオさんの話し方的に、向き不向きがありそうだった。
「…あ!すみません、ここで最後なので!」
「あ、あぁ…」
通い慣れた花屋に立ち寄る。
ここは宿屋に一番近く、品揃えも良いし、価格も良心的だ。多分、観光客が訪れる街中からは少し離れているからだろう。
「あ、リザちゃん。今日は何が良いかな?」
「マルクさん。あの、リンドみたいに香りの強いお花ってありますか?もちろん、リンドも買います!」
「リンド以外ならこの辺かな?この辺では少し珍しいんだけど、チーリンという花で………リザちゃん大丈夫?」
「へ?」
「なんだか難しい顔してるよ…?」
チーリンと呼ばれた花。
多分…いや、これは鈴蘭だ。この爽やかで涼やかな香りがとても懐かしい。
良い思い出も、嫌な思い出も呼び起こされるような…。
「あんまり好きじゃなかったかな?」
「い、いえ!凄く好きな香りだったので驚いただけです!」
「なら、良いんだけど…。リザちゃん。その後ろの方は…?」
振り返ると険しい表情をしたロキさんが腕を組んで仁王立ちしている。
うん、かなり雰囲気出てる…。
「あー、あのー…」
「荷物持ちだ」
「そ、そうなんだ…」
マルクさんは苦笑いだった。
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