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建国祭
倉庫
しおりを挟む「…こ、こんなに作ってたんですか…」
「これからまだまだですよ!今年中にこの倉庫の半分くらいは埋めなければ!」
モンタナさんはヤル気充分に鼻息荒く言う。
モンタナさんが新たに借りた倉庫は私が想像していた以上で、兎の隠れ家亭が優に5つは入る程の広さを有している。
しかも、その倉庫の1/10くらいはもう既にウイスキーの酒樽が積み上げられているのだから凄い。
これ、ワインの事言ったらどうなるのかな…。
「本当に二つだけでよろしいので?」
「そんなに魔法はかけられませんから」
「良ければ此方もお使いください。少しでも足しになれば良いのですが」
「い、いえ!そんな高そうな物貰えません!」
「《時空間魔法》をお願いするよりは安い物なのですがね?」
胸に付けていた大きなブローチを外してモンタナさんはルーペリオさんに手渡す。
こういう時に私の意志は通らないらしい。
「モンタナさん。倉庫の端の方をお借りしても?」
「えぇ。構いませんよ。ニコラ、シモン」
「はい!リザ様、此方をお使いください!」
「ダンジョンりんごが入ってた樽に詰めた物です!」
相変わらず元気なニコラさんとシモンさんが用意してくれた酒樽の隣にフィオデナルドさんは工房から持ってきた樽を置く。二人が追加で用意してくれた酒樽は元は果物を入れる用だからか、預かっていた樽よりも一回り大きい。
魔法石が足りなくなるのでは、と少し不安になったが、モンタナさんから頂いたブローチがあるので問題ないとの事。
そして、何時ぞやマーサちゃんがやっていたようにあの甲高い超音波のような歌のような言葉をフィオデナルドさんが発すると、樽が置かれている地面がゆっくりと青く光り出し、樽を柔らかな光で包み込む。
ひんやりとした空気が地面を這うように漂い、私はブルリと身震いをする。
どのくらいの間その声を聞いていただろうか。
青い光がゆっくりと青みを失っていくのを見届けてブォンと空気を切るような音が響くと、樽を繋ぐ金属が少しくすみ、木は水分を吸って少し色が濃くなっている。先程まで新品同様で綺麗だった樽がこうも変わると時が経ったのだと実感することができた。
「成功しました」
「「「「…ゴクン」」」」
「試し飲みする前にもう一つも終わらせてしまいましょう」
念願の熟成ウイスキーが飲めると分かり、私達は思わず喉を鳴らしたが、笑顔のフィオデナルドさんに諭され、泣く泣く頷く。
もう一つの樽は更に三倍ほどの時を進めて熟成させるので、時間がかかるかと思ったが同じくらいの時間で終わった。
涎を垂らしそうな私達にフィオデナルドさんがうん、と大きく頷くとやはり用意の良いルーペリオさんは人数分のグラスを私に差し出す。
それに私も大きく頷いて、まずは3年熟成のウイスキーを少しずつグラスに注いだ。
「…まずは王様に献上する予定のウイスキーです」
「琥珀色ですか…見た目から全然違いますね…」
「三年熟成でどれだけ変わるのか…」
「…漂う香りも何やら違いますね…」
私がグラスを口に運ぶのを三人は喉を鳴らしながら見守る。
…美味しい。
熟成前でも満足していた三人ならこの違いがよく分かるはず。
三年熟成でも口当たりがかなりマイルドになっているし、鼻に抜けるスモーキーな香り。
「…成功ですね!凄く美味しいです!」
「本当ですか!」
「で、では…我々も…」
「緊張します…」
三人は緊張した面持ちでゆっくりと琥珀色の液体を喉に流す。
「「「…!!!!」」」
「フィオデナルドさん、ルーペリオさん。お二人は如何ですか?」
「…言葉になりません」
「…リザさん。熟成期間は長い方が美味しくなるのですよね…?」
「9年もの…飲んでみましょうか」
「是非」
ルーペリオさんが無言で差し出したグラスを受け取り、私は一滴も溢さないように丁寧に注ぐ。
先程のウイスキーよりもほんのり濃い琥珀色がグラスの中でゆったりと揺れる。
3年ものにはまだビスケットのような焼きたてのパンのような香りが残っていたけど、こっちはそれが少し薄く、代わりにフルーティーな香りとそこにほんのりバニラのような甘い香りが混ざっている。
匂いだけでその完成度の高さを魅力的に伝えて来て、今度はフィオデナルドさんも喉を鳴らした。
そして、私達は全員言葉を失った。
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