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第二章
終わりの鐘は直ぐ側まで
しおりを挟む休暇とは名ばかりのニート生活が終わる。
発端は些細な善意。
ただ家族や友人にチョコレートを分け合いたかった、それだけの事。それが本人達の知らない内に広まってしまったのならそれはもう本人達の所為とは言えないだろう。
かと言って迂闊だった事を許すわけもない。
リーンは優しいが分け隔てない訳ではない。大人しいイメージを持ちがちだが、その実は行動力に溢れていて、好奇心も旺盛だ。何事にも白黒はっきりつけて善悪を分ける。興味を惹かれたものにはとことん執着心を発揮するが、それ以外にはまるで目もくれない程に無関心。
謝罪はしっかりと受け取っているし、許しているのも事実だが、リーンが彼らに本当の意味で心を通わせる事は無くなっただろう。話も聞くし、笑顔も向ける。無関心でも無ければ好奇心も発揮されない。
ある意味で無関心よりも悲しい事なのかもしれない。実際の所リーンが直接引き入れをした職人達や使用人は今回の件には全く関わりがない。止めなかった事などに反省していたが、実際にやってしまったのは支店を増やす際に新たに引き入れた従業員達だった。彼らは支店長に一任して現地で調達した人材だ。どういう人間なのかも知らなかった。知らないと言い切るのは商会長として如何なものかとも言えない事はないが。
しかし、そこまでの教育は流石に手も目も時間も足らず、疎かにしていたのは自分自身だとリーンもそこは反省している。これからは自分の見える範囲だけで行動しようと決めたきっかけになっただろう、
このままいつまでも屋敷が暗いの流石に居心地悪く困るので罰を与える事にした。それが今行われているであろう、と考えながらアンティメイティアの事件を伝えに来た時の鬼の形相を思い出して背に冷たいものを感じた。彼女を怒らせないに越した事はない。
「お土産はお決まりですか?特になければ私の方で選んでおきます」
「使用人と職人、シュミットとアンティ、支店長10人分は私が選びます。それ以外はお願いしますね」
こういった所にも無意識なのだろうか、本気なのだろうか、差を感じさせる。それが今までは良い方向に向かうので特に気に留めていなかったが、今回も同じとは言えない。
みんなどうにかその枠に入ろうと仕事に励み、手柄を上げたり、新しい提案をしたり、何とか名前だけでもと意気込んでいた。
今までは挑戦権があった。今は無くなった。それでも頑張る者もいるだろうが、逆に恨まれる恐れもなくはない。
その枠に入れるかどうかが自身の進退に関わるからとかそんな理由ではなく、純粋にリーンに好かれたい一心だった事は認める。それは例え一任されただけの支店長達ですら採用段階で重きを置いた事柄だからだ。
「お土産は何にされるのですか?」
「今後とも宜しく、という意味でアクセサリーにしようかと。今まで渡した物は支給品って感覚でしたし、全部職人達が作ってました。私から貰った、とは言い切れない感じが出てましたから」
「しかし、クリスマスには望みのものを頂きましたし…」
「アレはサンタがくれたのですよ」
「…そうでした」
まぁ、流石にラテは分かっていたか、とリーンは優しくラテの頭を撫でる。分かったからといって他の子供達に言わない彼女の心内がリーンは好きだった。
「これはどうでしょう」
「使用人などに渡す物としては少々金額が高すぎるようですが…」
「レスターにはもっと良いものを差し上げますよ」
「そういう事では…」
好きな物をお選び下さい、と困ったように言うレスターは他の者達用のお土産を買う、と言って店を出て行った。
「リーンハルト様、レスター様の言う通りでございます。身に余る物を頂きましても持て余しますし、普段身につける訳にいきませんから」
「邪魔でしょうか」
「そう言った理由ではなく…」
シュミットは漸くレスターの苦労を理解しただろう。リーンはこういった事柄を曲げるような柔軟な人ではない。もう答えが決まっていて余程のことがない限りは変更はないのだ。
「ハルト様、使用人は特に仕事中は屋敷物に傷を付けたりしないように装飾品は外します。例え婚約や結婚していてもです。弁償として給料取り上げられるだけならマシですが、災厄売り飛ばされる事もあります。そこまでして身に付けたがるものは居ません」
「そうですか…私の使用人、と言う印に良いかと思ったのですが…」
「「…それなら仕方がありませんね」」
「ですが、それならブローチのようなものの方が目立つかと」
「シュミットの言う通りですね!それなら皆んな付けてくれますよね」
結局指輪は辞めて金属製の小さなブローチ購入した。少し特殊な金属で出来ているらしい。後々の為にもこれは必要な買い物だ。勿論自分の使用人である証というのも本心だ。
そうしてラテもレスターの気持ちを理解するのだった。
「レスター様にはどんな物を?」
「もう目をつけてる物があります」
「…前に言ってたやつだろ?」
「イアン。貴方にブローチは邪魔でしょう」
「…。首に掛ける」
どうも不貞腐れ気味の彼が可愛いのは仕方がない。元々可愛らしい部類だ。裏の顔があるから恐怖する者の方が多いだろうが、最近はその裏の顔もあまり感じられない。隠す事も出来たのなら初めからすれば良かったのにとは言えないが。
「イアンは私の護衛である証として剣などは如何ですか?」
「新しくしたのにか?」
「私の居場所が常に分かるようにするとか、お揃いとか」
「どっちもだ」
「分かりました」
ちょっと我儘なのも可愛い、と思うのは色眼鏡だろうか。
「ハルト様。居場所が分かる、と言うのは…」
「護衛なら分かっていた方がいいと思うのですが」
「…そうでございますね」
楽しそうなので何も言うまい。常に居場所を見られている事に何の違和感もないのならそれこそ言えない。それにそんな物を作れるわけが無いのだから、言う必要もない。
シュミットはラテに困った笑顔を向ける。
「ハルト様は何かお買い物は無いのですか?」
「私ですか?…特に無いですね」
「何も、ですか…?」
「職人みんなが作ってくれる物で事足りてますので」
ラテとシュミットは出発前にレスターに言われた言葉を思い出す。
ーーリーン様は自分自身には投資をされない。
それはラテもよく分かっていた。
職人達に作らせた物は自身の為と言うより、お金を稼ぐ為で自身はついでのようにラテには見えた。だから職人達もリーン様に何か喜んで貰える物を作りたいと常々話している。
ーーリーン様が今回お土産だけで、自身の物を買わないのなら無理にでも何か…いや、無理はダメですね…
「ハルト様。使用人達の気持ちを代弁しますと、使用人の自分達が主人より良い物を身につけるのは気が引けます。きっと恐る恐る、罪悪感を感じながら身につけるでしょう。そうならないようにリーン様が私達にプレゼントしてくださる物よりも明らかなくらい価値がある物を身につける必要があります。それを買いに行きましょう」
少し強引だっただろうか、とリーンの手を引きながら、チラリと視線を向ける。ラテの言葉を聞いてまだ悩んでいるリーンに少しホッとしてラテは手を少し強く握った。
翌日。
宿は王宮側から用意されていた。かなり綺麗で流石王都としか言いようがない。料理の方はやはり屋敷の方がいいが、この世界の元々のレベルを考えればかなり良い方だ。
ただ、イアンは寝てないだろうし、リーン達も早起きする必要があった。正直勿体なかったように思う。
早朝は寒いが、空気は澄んでいるように感じる。
やはり昨夜も魔物の襲撃が無かったようで朝から楽しそうな兵士達の声が聞こえてきた。如何やらお酒でも飲んでいるようだ。
「無事お渡ししてきました」
「顔は見られてませんね?」
「イアン様は危なくございました」
「おい!ラテ!大丈夫だったろう」
ラテはツンツンしたままで頷く。
イアンはそんな事を気にするタイプでは無いので、ラテも気を遣わずにいつも通りにいられるのだろう。リーンに対してしてくれた事がないのは少し嫉妬を覚えるかもしれない。
「では、屋敷に帰りましょう」
そうして王都滞在は終わったのだった。
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