神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第二章

サイレーン

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 飛んだ先は真っ暗で何も見えない。
 ただ細波が静かに聞こえてきた。

「殿下、お疲れ様です。次が最後の目的地サイレーンです」

「…サイレーン、あそこに魔物が?」

「はい、殿下。そう連絡が入りました。私どもも不思議に思っていたのですが、どうやらラッシュの方から流れ出たようです」

「…サイレーンはそこからだとどんなに急いでも半日はかかるな、急ごう」

 この海には以前も来たことがある。楽しそうに人々で賑わっていたのを見たのはもう随分前の事だ。やはり以前の雰囲気とは全く違う。
 
 昼は空のスカイブルーと海のエメラルドグリーンが綺麗に映えて子供達のはしゃぐ声で賑わいを見せ、夜は地平線に沈む夕陽を眺めながら寄り添うカップル達でゆったりとした時間が流れるそんな海だった。

 辺りを見渡すと遠くの方に小さく焚き火のような灯りが見えた。
 魔物との戦いへ直ぐにでも向かうべきなのは分かっていた。
 馬車を止めさせたキングストンはしっかりとした足取りでその温かな光の方へ歩いていく。距離はかなり遠くて自然と早足になっていく事に誰も気づいていなかった。

「…此処で何をしている」

「…君も逃げて来たのかい?この辺は夜になるととても寒くなるからね。火に当たっていきなさい」

 優しく微笑んでくれている老人は手招きする。
 その微笑みの裏にとても疲れた表情を隠して。

「私はこれからサイレーンに向かうんだ」

「…悪い事は言わない、やめた方がいい」

「…何故だ」

 老人は下を向いたまま黙り込む。
 言いたくないと言わんばかりの反応を見せる。それはもう言っているのと同じだ。

「…サイレーンはもう…魔物に…」

「…そうか…心配感謝する」

 キングストンは老人の言葉を最後まで聞いてしまえば自分の力が及ばなかった事実だけを突き付けられる気がして、感謝の言葉を述べてその場を去った。
 勿論全てを完璧に助けられると自分を過信していた訳ではない。ただ少しでも多くの人々を助けたい、そう思っていただけだった。
 それでもやはり辛い。
 現実を受け止めるには余りにも大きな犠牲を払い過ぎた。こう言う事は何度経験しても慣れないものだ。

「…出してくれ」

「…殿下」

「…マイルセン、サイレーンはあの男爵の土地だったかと思うのだが」

「…はい。トラリア男爵が領主で御座います」

 サイレーンを治めるトラリア男爵はリーン達が後から取引を開始したポートガス男爵ともう1人の男爵だ。
 キングストン自身ほんの数回だけパーティーなどで見かけた事があるが、彼は公共事業などを積極的に行い人々の生活を支えつつも、自身は外で稼ぎに出て国へ治める税金を工面する程に自己犠牲の元、領民を大切にしている物腰柔らかでとても優れた人だ、と言う印象を持っていた。何よりあのリーンが取り引きしているのなら悪事、不正など言語道断。
 話によればリーンとの取引も自身の為ではなく、領民の為に行っていた祭りやバザールの景品や商品としての購入だけで、決して自身は豊かではなかった。
 そんな出来た人の領が魔物に蹂躙されたと言う事実がとても信じられなかったのは言うまでもない。
 キングストンが思う一番スタンピードとは縁の無い場所のはずだった。

「今分かっているのはサイレーンから半刻程で着く距離にあるラッシュの街はもう壊滅していると言う事です」

「ラッシュ、と言えばバッハラップの領地だったか」

「ラッシュ…バッハラップ…」

 ダーナロ王国には国が整備している大きな街道が8つある。2つの街はその内の一つの街道がお互いの領地の境目になっている。なので街道から北東へ伸びるバッハラップが治めるラッシュ。街道から南東に伸びるトラリアが治めるサイレーンはお隣同士である。
 更にお互いの領地にあるそれぞれの産業を発展させる為にどちらも交通や流通の弁を考慮し、街道近くに屋敷地を設けているので必然的にそこが一番栄えている街になった。そのため今回被害が出てしまったサイレーンとラッシュの屋敷地は街道を隔てただけで歩いてほんの十数分の距離に位置しているのだ。
 なので明らかなのはラッシュが壊滅した後、ほど近い距離にあったサイレーンを魔物達がそのままの勢いで襲った、と言う事。
 どうする事も出来なかったのだろうか。
 確かに城壁のような凄いものは作れなかっただろう。現状でそんな事が出来る領は無いだろう。それにバッハラップのような狡い男がお金をかけて領民の為に城壁を作るわけもない。
 
 色んな想いが溢れてくる中、キングストンは外を覗いた。暫く無言が続く。

 サイレーンの中心地、領主が住まう町へ真っ直ぐ向かう。その道のりは本当に長く感じられてとても落ち着いてられなかった。何かしていないといけないような強迫観念に近い考えが頭から離れない。

 夜が明け、朝日が登り、日が照り付け、日が沈みかけている。
 トロンに着いた時と同じく、遠くの方に火が灯っている。
 火が見えてからたった数十分程の時間。それが今までで一番長く感じた。
 メラメラと燃え盛る炎と空立ち込める黒煙を見てその思いはより一層強くなった。見えているのに届かない。こんなにも早く着いてほしいと思った事はない。
 街がどんどん大きくなってきたと同時に建物の崩れる音や魔物と思われる生き物の叫び声が聞こえてくるが、人々と思わしき声も気配も無い。これは幸か不幸なのか…。

「村中に火が回ってますね…」

「…」

「マイルセン、私が水の中級魔法を空に放つからそれを霧散してくれ」

「分かりました」

 魔物の雄叫びが轟く中、馬車を降りた2人は馬が驚いて逃げたりしないように近くの茂みに繋ぎ、街の入り口へ向かった。
 キングストンとマイルセンが魔法で少しでも火の勢いを弱めようと試みる。が、しかし火の勢いは留まるどころかどんどんと近くの森まで飲み込もうと言う勢いだった。
 2人が果敢にポーションを飲みながら少しでも森へ燃え移らないようにと挑戦して軽く数十分が立ってもその状況は変わらず、このままでは火が消えるよりも先に2人の体力やマナの限界が来る方が早いだろう。

「殿下、少し休んで下さい」

「…しかし」

「流石に無理しすぎです。火を消し止められてもまだ魔物もいるのですよ?少し休みましょう、殿下」

 チラリと見えた巨体。大きな足音と岩を砕くような音を立てながらゆっくりと近づいてくる。

「くそ、ゴーレム…か」

 キングストンは背筋に冷たい物が流れた。
 ゴーレムは人型魔物の中でも1、2を争う巨大な体躯を持つが、感情や意思がない為どう動くのかは操る物次第。現状このゴーレムを作り出したのは森の瘴気であるためその力は未知数。しかもその巨体から繰り出される攻撃の威力はかなり高く、当たればひとたまりもない。
 更に他の魔物はひとたまりもないこの燃え盛る炎の中でもゴーレムは縦横無尽に動き回る。
 キングストンからすれば今日出会った魔物の中で最も強い敵である事は間違いない。
 2人はゴーレムへと向き直る。
 いつでも抜けるようにと剣へかけられたキングストンの手は震えが止まらない。そのくらいの敵だと言う事だ。

「…分かった」

 マイルセンは馬車から水袋を降ろしてキングストンに手渡す。キングストンは渋々という感じではあるが差し出された水袋を受け取った。


ーーーー

 
「リーン様、どちらに…?」

「少し周りの様子を見て来ます」

「気を付けろよ」

 リーンはニッコリと笑ってイアンを手招く。ウキウキと跳ねながらリーンの後ろを突いてくるイアンは犬のようだ。


「誰かいるかー!いたら、30秒以内にこの街から出ろよー!死ぬぞー!」

 休憩中の2人に届いたのはそんな声だった。キングストンにはよく聞き覚えのある声。一瞬あり得ない、と首を振ったキングストンの耳が再び声を拾う。

「しらないぞー?行くぞー!」

「イアン、知らないぞー、は変ですよ」

「そうか?」

 この穏やかな声を聞き間違えるはずがない。少し驚いたが、確信に変わる。

「…殿下、誰かいるようですが…」

「あぁ、知り合いだ…。この炎はどうにかなるらしい」

「…この炎を、あの2人が?ですか?」

 それは驚くだろう。この国で一番強いマナを持っているのは誰がどう言おうと【勇者】であるキングストンで間違いない、とマイルセンは確信しているからだ。
 リーンはそのまま真っ直ぐ手を前へ掲げる。その隣で応援なのだろうか、わいわいと騒ぐイアン。
 マイルセンはそれを見てこの燃え盛る炎がどうにかなるとは到底思えなかった。

「…あぁ、助けに来てくれたようだ」

 何とか絞り出した声。リーンの姿に安心したのか一気に身体の力が抜けて地面に倒れ込む。キングストンはそのまま頭に両手を当てて成り行きを見守る。

「こ、これは一体…」

 目を疑わざるを得ない。
 先程まで燃え盛っていた炎は今は見る影もなく、先程まで感じていた熱気も一瞬で感じられなくなった。何がどうなってこうなったのか理解が追いつかない。雨が降った訳でも無ければ、台風のような風もなく、何かが光ったり、暗くなったりもなく、ただ目の前の炎だけが跡形もなく消え去った。

「あっれー!リーン!あいつがいるぞ!」

「…!この無礼者め!此方はこの国の王太子でん…」

「辞めろ、マイルセン。相手は俺よりも目上の相手だ」

「…この男が…ですか?」

「…いや、その隣の…」

 マイルセンはまた目を疑う。
 マイルセンには目の前の人間を形容する言葉が見つからない。目を奪われる所の話ではない。一瞬で心を奪われる。

「もう大丈夫、安心してください。それよりも他に人は居ますか?」

「…いや、私達だけだ」

「其方の方は口は固い方ですか?」

「あぁ、俺の側近だ」

「なら良いです」

 笑顔で頷いたリーンに静かに目を奪われていたマイルセンはただただ黙っていた。





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