112 / 188
第三章
十師家
しおりを挟むそろそろ外遊を始めて半月と云った所だろうか。外遊生活にも慣れ始めたのはリーン達だけではなく、ポートガス一行も同じだった。
何となくリーンの好みも掴み始めて、街案内の質も上がりお互いに楽しく過ごしていた。
1ヶ月と云う長い旅路も半分まで来たが、やはり立ち寄った街はとても綺麗で栄華を極めていた。
特に何か特産品がある町は街並みも景観も美しく、やはりナイシャールの様に建物に統一感を持たせていた。
「リーン様、お疲れ様でした。此方はヌーヌーという街です。この街では一子相伝で守られて来たヌーという伝統工芸品がとても有名でとてもしなやかなこの生地は我が大陸に伝わる王族の冠婚葬祭の際にも使われる伝統衣装“ヌイナ”にも使われている大変貴重な物で御座います。更に、先日訪れたナイシャールにも引けを取らない鉱山があり、そこでとれた宝石が“ヌイナ”にあしらわれています」
「“ヌイナ”ですか。伝統衣装、さぞ美しいのでしょうね」
「“ヌー”を一反ではありますが現物を用意しておりますのでよろしければご案内させて頂きます」
「はい、是非拝見したいですね」
「リーン様、ヌーは“きぬ”とは如何違う物なのでしょうか?」
「…ミモザ」
止まりかけの車内は一瞬にして凍りつく。“絹”はハロルド経由で仕入れた糸をアリアとジェシーの努力の賜物で出来上がった生地の事をそう呼んでいるのだが、実はこのヌーと言うものと同一の品である。その事を察知したレスターはリーンが敢えて知っている事を言わなかったので口を継ぐんだのだが、ミモザは流石にそこまでは分からなかった様だ。
正直言ってそれを理解したレスターが凄いだけでミモザは何にも悪くはない。リーンも勝手に“ヌー”の事を“絹”と呼んでいたので“絹”が“ヌー”と同一な物とは誰も思わないだろう。
ただレスターがミモザを静止した事で全員がこれらが同一の物なのだと理解してしまった。
そしてその大変貴重な織物を売れるほどに大量に生産出来、実際に数点ではあるがダーナロ王国にて販売の実績もある。服ではなくベッドカバー、枕カバーとしての販売だ。絹で作るなんてとても贅沢な品なのは世界は違えどリーンも感じる。現時点の技術では簡単な縫い合わせしか出来ないため、衣類はリーンだけの物となっている。
勿論それを隠し立てするつもりは無いが、態々言う必要も無いと思っていた。しかし、この状況だと勘づかれるのも時間の問題かもしれない。
「ミモザ、“絹”は私が勝手にそう名付けただけで普通の布なのです。まぁ製法が他と違いますから別の名前にするのは別におかしくは無いですが」
「アレはアリアとジェシーが開発した物だ。普通の糸でも滑らかな仕上がりになる様工夫している。そんな物があるとしれたらどうする。此処には伯爵しか居ないから良かったものの…」
如何やらレスターはリーンの意図に気付いたようだ。一瞬凍りついた車内は何とか持ち直したのだ。
例えこれが嘘だとバレたとしても製法が違うので“ヌー”と同じにはならない、と安易に伝えた形だ。そして、凍りついたのは情報漏洩を危惧したためであって決して同じものだった事の肯定ではない、と言う事に話をすり替えたのだ。
ミモザもようやっとそれを理解した様できっと心の中ではかなり落ち込んでいるだろうが流石一流のメイド。それを顔に出す事は無かった。
「アリアがこの場にいたらさぞ喜んだでしょう」
「そうですね、もし余剰分がありましたら買って帰りましょう」
「いえ、それには及びません。その一反はリーン様ように大陸一番の機織り職人に織らせた物ですので、是非其方をお持ちください」
「いえ、タダと言う訳にはいきません」
リーンは目の前のレスターに視線を送り、レスターは直ぐ様アリアとサーベル、ガンロが共同開発し完成した革でできたトランクを膝の上に置き、中からベロア調の箱を手渡す。
ベロア素材が高級感を引き出し、蝶番で止められた箱は開閉もスムーズ。ご存知の通りリングケースだ。
この世界には紙幣は無い。全てコインでの取引となる。なので金銭の授受の際、殆どが布袋で味気ないし、手渡しはしたない。そこで思い付いたのがこのリングケース。実際にはコインが入るようになっていて、差し込み口が10箇所程ある仕様だ。
「これは…?」
「私たちは“コインケース”と呼んでいます。大金が収まるに相応しいとリーン様がお考えになられました」
「“こいんけーす”ですか、何とも美しい品ですね。是非とも私も使ってみたいものです」
流石に中身がコインだと分かったからかクロードは中を確認しない。幾らであろうとそれはリーンの言い値で良いという事なのは間違いないだろう。
レスターならきっと目一杯入れた事だろう。お金は有り余る程では無いにしてもそれなりに持ち合わせている。こう言う貴族の嗜み的な物事は多少の煩わしさを感じなくも無い筈なのだが、リーンは呑気に中身は大金貨かなー?、と考えているだけだった。
何とか無事に取引きも“絹”と“ヌー”についても纏まったので一安心だが、実は次に向かう土地は少々厄介な所なのだ。一見見せ掛けはとても優美な街なのだが、それ故に独特な雰囲気を持っている街でもある。
何故ならそこレオレアにはこの大陸唯一の治外法権を謳うコートバルサドール神を祀るバルサ教会があるからだ。
ベンジャミンがコートバルサドールと出会った場所と言われているこの土地はこのヴェルスダルム大陸の丁度真ん中に位置しており、各地に広がる教会の総本山に当たる教会だ。その為教会の規模は聖王国の王城にも匹敵する程に大きく煌びやかで神々しい場所だ。
何となく気付いている人も居るだろうが、このヴェルスダルム大陸には少しチグハグな所がある。それが祀りあげる神が“ コートバルサドール”【大魔術師】を授けた神であるのに対してこの大陸の中心地帝国ウェールズの王がこの大陸統一を成し遂げた偉大なる皇帝であり【錬金王】その人なのだ。
リーンの身体が勝手に変わったダーナロ王国は隣国と共にアポロレイドールを祀るレイ教を国教に据えているので、勿論アポロレイドールになった訳である。
実際リーンは神との会話が無ければきっと今頃はコートバルサドールの姿だったのであろう。しかしながら自在に変われる様になった今、特に理由はないのだが、どちらの姿も何となく晒さしていなかった。
「ヌーヌーでは1人ご紹介したい人物が居ます」
「伯爵、勝手な真似をするものでは有りませんよ」
「ラテ嬢…申し訳ありません…。確かにそのご意見はごもっともで御座いますが…」
「ラテ、分かっているから気にしないで大丈夫ですよ。ポートガス伯爵、その代わりと言っては何ですが1つ頼まれて下さいますか?」
「えぇ、勿論で御座います。何なりとお申し付けください」
リーンは少し楽しそうに笑うといつものようにレスターに耳打ちをして、レスターもまたいつものように頷いた。
ヌーヌーもまた綺麗な街並みだ。
石畳みで舗装された歩道。商店街、居住地、工業地帯などは石垣を組んでしっかりと区画整理されている。
街入り口から入って右手側にはそれは立派な山が聳え立っていて、左手側には先が見えない程大きな森が広がっている。
「その方とはこの先のレストランで待ち合わせをしております」
「はい」
歩き易いようにする為にこれだけの技術と作業量。
この街の領主の采配と資金力が伺える。
「…伯爵。そちらの方が…」
「初めてまして、リーンハルトと申します」
窶れた男が近づいて来た。
窶れたといってもそれがわかるのはリーンくらいで彼は上手く隠している。クロードが“その方”と表現したあたりクロードよりも上の立場の人なのだろう。
この手の相手に初対面で正しい対応するのは難しい。リーンのこれまでの経験上笑顔で乗り切るのが1番手っ取り早い。
「ジェニファー様」
「申し訳ありません。私はこのヌーヌーの統括管理者兼第8騎士団の団長を務めていますジェニファー・フローレンスと申します」
少し慌てたように姿勢を直して挨拶してくれたジェニファーに改めて笑顔を向けた。
0
あなたにおすすめの小説
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです
忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる