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第三章
進言
しおりを挟む青白い壁が煌々と照り付ける日を跳ね返し、まるでここには日陰なんてないかの様に明るい。周りは草木が生い茂り、その対比が美しいのだ。
その中にいるリーンの光り輝くシルバーパールの髪にほんのり青みがかかり、青く透き通るような虹彩が日の当たり方によって濃くも薄くも見えるのがとても神秘的で誰が見ても神々しい神である。
「突然の訪問申し訳ありません」
「いえ、我らが神にこのような田舎町にお越し頂けたことを心より嬉しく思います。私はこの神殿の神殿長をしておりますマフティフと申します。マフティフとお呼びください。以後お見知りおきを」
「マフティフ神殿長殿。お久しぶりで御座います」
「久しいですな、ポートガス卿」
一様の上下関係は神殿長の方が上のようだ。横で同じく頭を下げるセントフォールが立派な貴族に見えたぐらいには偉い立場にいる人なのだろう。
神殿内を案内すると言うマフティフに連れられて、庭や祈りを捧げる大規模な礼拝堂から司祭達の生活区域まで本当に隅々まで案内してくれた。
正直神示を使えるので全て分かっているも同然なのだが、それはリーンだけなので敢えて口を挟まないでいた。
「そしてこちらが炊き出し等にも使われる食堂で、こちらの壁が全て扉となっており、炊き出しの際は取っ払って解放しております。明日は丁度炊き出しの日なのでここは今夜にでも解放されます」
「明日ですか、そんなにこの土地は貧しいのですか…?」
恐る恐る聞くアンティメイティアにマフティフは笑顔で首をゆっくり振った。その穏やかな姿勢は教会人故なのか、彼の本質なのか、とても不思議な雰囲気を纏った人だった。
「この大陸は大変ありがたい事に、神からのお恵みも多く肥沃な土地が広がっておりますし、現皇帝【錬金王】が即位されてからはその手腕とお力によってより豊かになりました。この炊き出しは施しや神の恵みと言うよりは地域住民との交流会のようなものです。 我々は皇帝より治外法権を認めて頂いているのでこの大陸唯一の独立国家のようなものです。ここに住む住民達のおかげで今日も明日も変わらず神にお祈りを捧げられるのです」
「素晴らしいお考えです」
リーンの素直な褒め言葉に嬉しそうに微笑むマフティフは小さくお辞儀をした。
「もし宜しければこの後聖職に挨拶の機会を頂けませんでしょうか」
「リーン様は長旅で疲れてらっしゃる、今日は…」
「勿論存じております。なので礼拝堂に一同を待機させて少し祭壇にお立ち頂ければと」
そこまで準備をするのなら、とレスターはリーンに視線を向ける。
正直この体になってから疲労と言うものはあまり感じていない。長旅の疲れといえば心身的なものだ。それすらあまり感じていない。
ただ人前に立つ事はあまり好きではない。やらなくても良いならやらない。それにやらなくてはいけない理由もリーンにはよく分からない。
準備の為と応接室のような部屋にリーン達を通してマフティフは部屋を後にした。
「リーン様、ひとつお耳に入れておきたい事が御座います」
「ポートガス卿。この国の事情をお話になられるならご遠慮頂きたい。リーン様は国同士の諍いではなく世界を救うために行動されているのです」
「…そうですね。ただ、ここにいる間はお気を付け下さい。マフティフ神殿長は信頼に値する人物ではありますが、そのマフティフ神殿長を監視する者がおりますので…」
「ポートガス卿。全て存じ上げております。ご安心を」
リーンがにこりと笑うとクロードはまたそうですね、と安心したようで肩を撫で下ろした。
この大陸の中心であり、唯一の治外法権であり、更に国教であるベリン教と大陸統一を果たした【錬金王】信仰と国がチグハグなので国民も完全な2分とは行かないが別れているのは確かなのだ。
発展した快適な生活を送れると云う目に見えて成果のある【錬金王】と昔から神への信仰を守って来て国民からの信頼も厚いベリン教。
目に見えるような対立はしていないが、それでも諍いが全くない訳ではないのだ。
ただこれはかなり一方的な諍いで、ほんの一部の熱狂的な信者達の集まりによって引き起こされており、それが分かっている【錬金王】は何をされても遣り返さず、見事に往なして告発も罪にも問わずにいるから対立が表面化しないだけなのだ。
これがリーンがこの大陸の統一を果たし、そしてこの大陸の頂点に立つ【錬金王】と会うことを決めた一番の理由だった。
勿論エルムにいる時から【錬金王】の存在を知っていて唯一の“神の使い”と呼ばれる彼女と話して見たいと思っていた。
それは単純に彼女の存在、努力のお陰でこの世界がほんの少しずつでも成長しているからだ。
それは本当に些細な変化だ。
大陸同士の繋がりが少ないのも原因のひとつで、その為に彼女は帆船を作り上げた。しかし帆船での航海は危険が付き物で高貴な身分の人間は倦厭する。交易以外でわざわざ死ぬ思いをしてまで渡る必要を感じないからだ。
なので彼女は船旅を少しでも安全に他大陸との外交もできるようにと帆船改良を今も進めているのだ。
「個人的に私は【錬金王】の事を好いているので」
「主人も喜びます」
和やかな雰囲気の部屋にノックの音が響く。
「準備が整いました」
呼びに来たマフティフは少し困ったような表情でクロードは何かを察して眉間に皺を寄せる。
それはレスター達も同じで折角和やかになっていた雰囲気を一気にぶち壊してしまった。
勿論リーンは露程も気にしていない。
強いて言うならこの場にリヒトがいたのなら同じく和やかなままだっただろう、と言うくらいだ。
「では参りましょうか」
「よろしくお願いします」
ここに来てからマフティフは一度もリーンの名を呼んでいない。どう呼べば良いのか迷っているのか、はたまた信仰上呼ばないのかは知らないがリーンに取っては初めての経験だった。
最近では勝手に人を除くことはしていなかった。特に気にするような事が無かったからだ。
「マフティフ神殿長殿。姿を変えましょうか?」
「いえいえ、申し訳ありません。困っていたのはその事ではないのですよ」
「分かっております。ただ彼らを治める為の手段として目の前で変われば意見も変わるかと」
「…なるほど」
要はこの世界の人々は神が5柱いると思っていて、其々違う神を信仰しているからこそ、この国のチグハグを理由に【錬金王】にも突っかかる。なら根底である5柱が本当は1柱だと理解させてあげれば、信仰するキャラベリンドールと【錬金王】を授けたコートバルサドールどっちがどっち、などと言う問題は関係が無くなるのでは?と言う提案なのだ。
「ミモザ服の用意を」
「かしこまりました」
ミモザは直ぐに用意を始めて、レスターやイアンはその後起こり得る問題を纏めていた。
「リーン様」
「はい、ラテ如何なさいましたか」
「リーン様…あの、決して煩わせようとか、困らせようとか…そういったことはないのですが…」
「大丈夫ですよ」
「…キャラベリンドール様になるのは…その今は辞めた方が宜しいかと…その…後でなら…」
「そうなのですね、なら上だけ着替えていきましょう」
「「「「…?」」」」
リーンはラテにお礼を言い、ラテはリーンが有無を言わずに信じられた事に驚きつつも、報酬のように頭を撫でたリーンの手が離れていくまで堪能した。
言葉の通りゆったりとしたデザインのブラウスに着替えたリーン。首元の白いリボンが歩くたびに優雅に揺れる。明らかに女物のブラウスでボトムが細身のパンツでなければ見間違うのも仕方ないかも知れない。ただやはりリーンが着るとそれすらも決まってしまうのだからこの場いる皆が見惚れていても文句は言えない。
「では今度こそ参りましょうか」
「はい、ご案内致します」
マフティフが優しく笑うのでリーンもそれに習い微笑む。勿論ラテの言葉を鵜呑みにしたような状態に若干の混乱はあったもののそれこそ再三言うようにリーンのやる事を邪魔する者はここには1人も居ないのだ。
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