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第三章
いつの日か
しおりを挟む【錬金王】との挨拶が済んだところで、エリザベスから夕食を共にしましょうとのお誘いを受けたリーン達一行は準備が整うまでの間、城内を案内してもらう事になり、エリザベスの夫であるレオンとロイドに連れられて城の中を見て回っていた。
レオンはエリザベスにはガミガミと説教垂れていたが案外堅物ではなく陽気な人だった。話し方もかなり砕けた感じでエリザベスの入れ知恵を少々感じる。
勿論彼の態度に対してリーンサイドからは少し訝しげな表情で見られていたが、相変わらずこういう時の基準はリーンの対応次第で、リーンがレオンの態度に対して特に何か言うわけでないので黙って観察している。
ロイドはロイドで緊張しいで控えめ。話しかけるだけでも怖がられているように見受けられる。
勿論、リーンが怖がっている相手に対して遠慮なしに対応する訳もなく、レオンの誘導でついて回っているだけになっている。
「ここが食堂です。使用人の皆さんはこちらにてお食事を出させて頂きます。リーンハルト様のお食事に関してはお部屋にお持ちするようになっておりますが他にご希望があればぜひおっしゃって下さい」
「では、私も食堂でお食事を頂いても宜しいでしょうか?」
「あ、え?食堂で…ですか??あの、事前にお時間を教えて頂ければ…そのお時間に空けさせていただき…」
「アルドの方にも一度様子を見に戻るつもりですし、いつ食べるかお伝え出来ないので」
「…私が食堂からリーン様のお好きなものをお運び致します」
「…?」
「かしこまりました」
レスターの助け舟に安心した様子のレオン。
勿論彼はリーンのこの発言が冗談なのか、本気なのか計りかねていたのだ。単純に本気だとしても相手は神様だ、それなりには準備の必要がある。
しかしそうは言ってもリーンは気遣いで言っているのだとレスターは察し、とりあえず中間策を提示した形だ。
「此方がリーンハルト様のお部屋になります。このお部屋は直通の従者用個室を2室完備しておりますし、この階の全ての部屋を開けておきましたので、使用人の方々でご自由にお使いください。因みに【錬金王】のお部屋はこの階の下になります。私達も下の階におりますので何かあればお呼びくださいませ」
「この部屋はもしかして【錬金王】のお部屋だったのでは?」
「あぁ、流石にお分かりになりましたか?この階より上は有りませんし、我々が神より上にいるのは良くない事ですので、何もお気になさらず」
かなり整えられた部屋なのは認めるが、【錬金王】の趣味が反映されているので察するのは容易だった。
黒や赤が前面に押し出された部屋は落ち着きがあるのかないのかわからない。
壁に飾られた絵画は綺麗な風景がなのに壁一面が黒いので毒々しく感じてしまう。
ーーーコンコンッ
「夕食のご準備が整ったようです」
部屋の外からかけられた声にロイドが対応する。
晩餐用に整えられたのは食堂ではなく、ダンスも出来そうなくらいに広い大広間だった。
金や銀、宝石達が何処に視線を向けても目に入るくらいに態とらしく置かれている。
「少々お見苦しいかと思いますが、魔除けの陣を張る為の宝石です。食事は気兼ねなくゆっくりと味わいたいのですの。お許し下さいませ」
「構いません」
晩餐と言っても席につくのはエリザベスとその夫達、それからリーンだけだ。お互いの使用人達もズラリと並んでいるが、完全に壁の華状態。唯一リーンの近くで立っているのがレスターだ。
「貴方もお座りになったら?」
「いえ、私はリーン様の“ひしょ”ですのでお構いなく」
「あら、てっきり彼がリーンハルト様の伴侶なのかと思っておりましたわ」
レスターの鋭い視線がエリザベスを射抜くが彼女はそれを満面の笑みで返し、全く気にしていない様子だ。
「立場は弁えております。私はお側にいるだけで満足ですので」
「そうですの?でも、リーンハルト様?伴侶とはとても良いものですのよ?貴方様が望むものも手に入りましょう」
「私は結構です。今のままで十分満ち足りております」
「…そうですの?勿体無いわ、だって…」
「この身体は便利ではありますが、とても不便でもありまして。まぁ貴方はお分かりになっているでしょうけど」
「…えぇ。勿論存じ上げておりますわ。…でももし伴侶をとお思いにありましたらお知らせ下さいね。私も立候補したいと思っておりますので…」
エリザベスは明らかにリーンの後ろの方に目を向けてニヤリと笑う。当然の事だが、殺気にも似たオーラがビシビシと送られている。
「リーンハルト様は何故伴侶を望まれないのですか…?」
「私は望んではならない……いえ、ロイドさんにも私の心は見えませんでしたか」
「…え、えっと。ご存知…だったのですね」
ひたすらに無言に徹していたロイドが突然話し始めた事に驚くのはエリザベスサイドも同じだったようだ。普段からそうなのだろう。驚かないのはリーンとレスターだけでそのリーンは笑顔を向けるだけ。
「えぇ。エリーもここはあなたのおかげで安全だと言っていたので聞いて良いものだと思っていたのですが、ご迷惑でしたか?」
「い、いえ!迷惑など…全く…。あ、その、リーンハルト様のは全く見えません…」
「それは困りました」
「え?」
「心の中で話しかけてたのですが、独り言になってしまっていたのですね」
リーンのその言葉に途端に顔を赤らめるロイド。
レスターの咳払いにリーンは視線を移す。
まじまじと見つめられ眉を顰め困惑の表情をする。それでもひたすらに見つめられ続けレスターはいつものように額に手を当ててため息を吐く。
「…ロイド様にお困りの事があるのは我が主人も存じております。もし直す事をご希望でしたら今夜リーン様のお部屋にいらして下さい」
「…直せるのですか?」
「貴方次第でもありますが、可能です」
「…わたくしからもお願いしたしますわ、リーンハルト様。ロイドは散々苦しんできたのですわ。私は力不足でどうしてあげることも出来ませんでしたの。実際の所、彼はわたくしの正式な夫ではないのですわ。だからお気になさらずとも宜しくてよ」
此処でレスターが声をかけた意味をエリザベスも勿論理解している。リーンが直接声をかける事は此処では夜のお誘いになってしまうからだ。それだけでは無い。リーンの方が立場が上だとエリザベスの方からハッキリと示されているので、この場でリーンが言ったことは絶対となる。よって強制や脅しと取られてしまっても仕方がないことなのだ。
「…エリザベス様」
「良いのです、ロイド。貴方の為と思っての婚約でしたが私では貴方を救う事は出来なくて申し訳なく思っておりました。いつかはこの婚約を破棄しなくてはと思っていたのですよ。ただ今までは貴方を任せられる人が居なかっただけで…」
両手で包み込むように握り締めた彼の手に視線を落として真剣に話すエリザベス。それに寄り添うように肩を抱くレオン。ロイドの目には涙が浮かぶ。
エリザベスは彼の悩みを解決し、彼は自身の能力でエリザベスを守る、そんなところだろうか。
2人には何か密約が有ったのだろう。
ただエリザベスはその約束は果たす事が出来ていなかった。それでもエリザベスの立場なら彼の事を守ることも容易に出来たし、お互い有益な存在として成り立っていた。
それは彼が此処を離れなかった事が証明している。
彼のそれは愛ではなくともエリザベスを慕っていたのだろう。でなければ、約束を保護にしてしまったエリザベスの元にとどまる必要は無いからだ。
それでも以前のように部屋に籠らず、彼女の為に苦しみながらも守り続けた。
それは利害だけの関係とは言えないだろう。
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