神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第三章

想いと思い

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「では、今言った通りに繰り返して下さい」

「はい」

 晩餐後、湯浴みを済ませ用意された部屋で寛いでいたリーンの部屋に約束通りロイドがやってきた。
 煌びやかに着飾っていた装いは改めてとても気楽なシャツ主体の服装だ。きっと普段はこっちなのだろう。
 キャラベリンドールの姿で待ち構えていたリーンを見てロイドは戸惑うこともなく跪き深々と頭を下げた。多分教会に定められた祝詞なのであろう、それをゆっくり丁寧に述べる。やはり自身が身を置いている神には他とは格別な思いがあるようだ。

 彼の悩みは深刻だ。
 お気づきの方もいるだろうが、彼は神導十家のホワイト家に準ずる者で、彼の能力は《サトリ》人の心の中を覗く能力。母より生まれた時から彼の《サトリ》の才覚は顕著に現れていたと言う。能力が低いと稀に強く思った時にのみ一言二言聞こえて来る程度なのだそうだが、彼は望む望まないに問わず、全ての人の全ての言葉がまるで話しているかのように聞こえているのだと言う。
 そう彼はまだこの能力をコントロールしきれず、全てを聞き取ってしまっているのだ。
 ずっと雑音まみれの世界にいた彼が壊れてしまったのはたった3歳の時だった。
 始まりは使用人達の噂話。とても3歳の子供が聞くような内容ではなかった。初めは視界の範囲。それがやがて部屋の外、屋敷全体、屋敷の外にまで彼の能力の範囲が及び、自身の兄弟達からの心なき嫉妬の嵐と幼馴染達が心を読む彼への恐怖の声を聞いていくうちに次第に彼は人を避けるようになってしまった。
 ご両親はとても良い人だったそうで、大変彼を気にかけて良く面倒を見ていたと言うが、それでも全ての心の中が聞こえてくる彼にとってそんな両親の心配する声ですら苦痛だったそうだ。
 それから部屋に引き篭もるようになり、親ですら彼の姿を見れたのは年に数回ほどだったと言う。
 それから引き篭もり続けた彼が12歳の時、エリザベスからの要望で彼はお城にやって来た。これにはご両親も大変希望を抱いていたと言う。その時までエリザベス自身も彼の力になれると思っていたそうだ。
 しかし、何度も何度もエリザベスの【錬金術】で作り出した魔道具を試したそうだが、【錬金王】の魔道具を持ってしても彼の中の雑音を消すことは叶わなかった。

 ロイドに提案した方法はとってもシンプルだ。彼は生まれながらに持ったマナ量とその濃度が濃く、膨大すぎるマナは使え切れずに身体から溢れ出してしまっていた。その溢れ出たマナが多過ぎるあまりにマナに触れた者の心の声を聞いてしまうのだ。
 なので、聖王国の教皇猊下捕縛時に使用したマナを吸い取る石、アメジストを使ったネックレスを手渡したのだ。
 アメジストはマナを吸い取ると黄色に変色していきシトリンとなる。聖王国の時は教皇に気づかれないよう少しずつ吸収させる為に敢えて残り容量の少ない変色後のシトリンを使用したが今回は溢れ出た以上のマナをガンガン吸収したかったのでアメジストを使用した。
 後は彼自身でマナのコントロールを覚える事さえ出来れば、今後は彼の意思で自由にスキルを使う事が出来るようになるだろう。

「…本当に…き、こえません」

「そう、それは良かった。慣れてくれば意識して自分が聞きたい声だけを拾えるようになってくる筈です。それでまだ私の心は聞こえませんか?」

「…じ、実は…お食事の時に少しだけ…」

 リーンはニッコリ笑って、彼はまた顔を赤らめる。先程からこの繰り返しだ。

「あれは、あのお言葉は本当ですか…?」

「えぇ、本心ですよ。お考え頂けますか?」

「…え、えっと…その…」

「では、また明日も此処で同じ時間で宜しいでしょうか?コントロールの練習は継続した方が良いと思いますよ」

「…あ、あの…宜しくお願いします」

 会話を遮ったレスターに恐る恐る、と言った感じだろうか。ロイドはゆっくりと頭を下げながら言う。
 微笑むリーンと目が合い、彼は再び顔を赤らめる。
 しかし、直ぐに刺すような視線が向けられているのに気付き青ざめる。
 お礼を言いながら頭を下げて足速で去っていくロイド。
 今この部屋に残っているのはレスターとイアンとキールだけだ。

「お休みになられますか?」

「はい、その前にラテを呼んで下さい」

「かしこまりました」

 レスターはイアンに視線を向けて呼びにいくように合図する。何も言わずに従うのはリーンがレスターを必要としたあの夜を思っての事だろう。
 あれからリーンがレスターにあの日のように願うことは無かったが、ラテを呼ぶと言うことの意味をイアンも理解しているのだ。

「ハルト様。不躾な質問になりますが、伴侶を選ばないと言うのは永遠にないのでしょうか」

「…キール。ごめんなさい。でも私は貴方を幸せにはしてあげられない。勿論貴方だけではなく誰も…幸せに出来ないのです」

「差し出がましい事を申しますが、お許し下さい。私は自分の幸せは自分で決めたいと思っております。私の幸せは死を迎えたその先も永遠に貴方のお側にいる事。決して以前のように兄の為に、ラテやストック、モニカの為にと思ってのことではありません」

「それが本当に幸せとなるならば、私も受け入れる事を考えなくてはなりません。しかし、そうはならない。…彼は幸せだと思っていないから」

「彼とは誰の事ですか」

「…キールやめなさい」

「レスター様には本当に宜しいのですか!!」

 普段よりリーンには愚か誰にも声を荒げる事のなかったキールの訴えにはとてつもない想いが篭っている。それを分からないリーンではない。好意は嬉しい。ただ自分は無理だ、とどうしても一線を引いてしまう。

「【錬金王】様が仰っていた通り、私もハルト様がご自身の家族を望んでいることは分かっておりました。それがただの願望とならぬよう、自身を磨き望まれるように努めてきたつもりです。レスター様もそうでしょう!」

「私は…リーン様の望むものは…私では足りないと理解しているだけです。だから側に在ることを選んだのです。そしてリーン様はそれを許して下さいました。だから私はリーン様が引いた線を越える事はない」

「…理解しているだけ?笑わせないで下さい。レスター様はそれで越えてないつもりなのですか?誰よりもハルト様を独占しておいて良くそんな事を言えますね。もう“ひしょ”の範疇越えてるでしょ」

 これがただの喧嘩ではないと流石のリーンも分かっている。それでもキールの想いに応えられないからには何も言うことは出来ない。

ーーーコンコンッ

「失礼します」

「…ラテ。お前は分かっていたのか?分かってて望んだのか?」

「勿論。ハルト様の望むものもその未来も見えてるのだから」

 勿論、と言うラテの声色はとても穏やかでありながらとても冷たいものだった。まるでキールを攻めているかのように。

「でも、お前の見る未来は確定じゃない。いつだって変えてきただろ?」

「そうね。貴方を犠牲にして、ね」

「…」

「そうよ、頭の良い貴方ならちゃんと分かるでしょ?ハルト様の思いを犠牲にしてまでこの未来を変える必要はない。だから私もレスター様と同じくただ側に在る事を望んだ。それだけよ」

 レスターもラテも己の立場を理解した上で今の立ち位置を希望した。キールもきっと頭では分かっていたのだろう。でも理性だけではその想いを留めておくことは出来なかったのだ。

「ハルト様、大変お見苦しいものをお見せしてしまいました。キールは頭の良い子です。きちんと理解しております。宜しければこの子にもハルト様の“思い”を教えても宜しいでしょうか?」

「お願いしますね、ラテ」

「はい。…それとお耳に入れておきたい事があります。如何やらオーガスターはリヒト様達の領地に騎士を送ったようです」

「分かりました。…その時が近いですね」

「はい」

 さっきまでの威勢を失ったキールの手を引いて部屋から出ていったラテに手を振って見送る。

「キールには悪い事をしました」

「仕方がない事です。あの子は要領が良い分頭が回る。でも、まだ子供です。まだ理性は完璧には抑えられないのでしょう。リーン様のせいではありません」

「私は受け入れてはならない」

 その言葉は重く、2人きりの部屋はとても静かだった。


 








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