神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第三章

淑女の鏡

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 相も変わらず煌びやかな城。
 見るからに高そうな壺や絵画は訪れるものを圧巻させる。それらが飾られているのは白大理石の壁で煌びやかなはずなのにそれがとても寒々しい印象を与える。
 大きな窓から沢山の太陽の光が差し込んでいるはずなのにこの謁見の間にずらりと並ぶ臣下達の雰囲気は災厄で俯く者も多い。

「此処に呼ばれた理由は分かっているな、グランドール、アーデルハイド」

「「「はい。皇帝陛下」」」

 真っ赤な絨毯に跪き、頭を下げるリヒト、ポール、ライセン。その受け答えははっきりとしていてこれから惨劇が起こるはずなのに妙に落ち着いていて、それが皇帝陛下の機嫌を悪くさせる。

「其方らの父や母は本当に可哀想だ。出来損ないの息子達のせいで家がなくなるのだから」

「「「…」」」

 皇帝陛下の当然の暴走にその場の殆どの人間がこの事態を飲み込めていない。

「発言宜しいでしょうか」

「良い、申してみよ。アーデルハイド卿」

「詳しい罪状をお聞かせ頂くことは出来ますでしょうか」

「…何、そんな事も伝えていなかったのか?」

「いえ、愚息より話は聞いております。しかし、通常貴族の不正行為ないし、断罪は正式な場を持って捌かれるはずです。勿論、過去現在に至るまで謁見の間にて捌かれたものはおりません」

「…卿は不服があると申すのか」

「はい、弁論の機会もなく公平に捌けるとは思いません」

 アーデルハイド卿とも言い、ノーランの発言に謁見の間に響めきが沸き起こる。皇帝陛下に対しての発言としてはかなりギリギリの物で一歩間違えれば不敬に当たる。

「彼等の罪状は皇族に対する侮辱罪である。その他にも多数余罪があった為、此処まで伸びてしまったが事前に通達は行っていた筈だ」

「はい、その通達も読ませていただきました。しかし、おかしな点がありまして。何でも我がアーデルハイド家で保護していた他国のご令嬢を我が家へ話を通す事もなく、城へ強制的に連行し、しかも牢に繋いでいたとか」

「それは其方の誤解だ。城へは連れてきておらぬし、当然牢にも入ってはいない」

「それは可笑しいですな」

「ほう、其方も不服があると?グランドール」

「いや、私の部下がそのご令嬢を乗せた皇室紋章入りの馬車を通したと申しておりますが」

「それも見間違いであろう」

 明らかに証拠があるのに全く聞く耳を持たず、全てを揉み消そうとしているのは明らかで、これまで皇帝側についていた家臣すら疑いの目を向け始める。

ーーートンッ

 突然、謁見の間に降り注ぐ光。
 あの寒々しい大理石で出来た天井から光が溢れているのだ。その光の中から現れたのは見目麗しい少女。

「何が見間違いだと?」

 再び響めきが起こる。
 数人見た事のある顔もある。マロウの入学祝いパーティーの時だったろうか。その彼らにニッコリと微笑み軽く会釈をする。

「何者だ!」

 その少女は叫ぶ皇帝陛下を完全に無視して第2王子とその母親の前へ行き跪く。
 とても優雅で清廉された一挙手一投足は見るものの心を奪う。はらりと舞った髪がいつもの場所に落ち着くとその薄く小さな唇から漏れ出す声は思わず目を閉じて聞き入りたい程に耳障りが良い。

「ご無沙汰しております皇太子殿下。初めましてエイプリー様」

「ご無沙汰、してます」

「は、初めまして…」

 動揺を隠せない2人に対してわざとらしい満面の笑顔を返す。
 
「そこの娘。皇帝ある私に挨拶するのが先だろう。それに皇太子は此処にいる第一王子のアランだ。知らなかったでは済まない、これは不敬だ。その者を捕らえろ」

 控えていた騎士達がリーンの周りを取り囲む。手には槍が握られており、直ぐにでも攻撃出来る体制を取る。
 たかだが小さな少女に何をそこまでと思うほどの仰々しい対応。ただそれは自身の立場を無くすほどの存在だと元々理解しての行動で突発的な対応ではない。事前にこの様な事態も想定していなければ此処迄は出来ないだろう。

「許可?何故貴方から許可が必要なの?」

「その言葉使いも不敬だぞ。私はこの国の皇帝である。当然の事ではないか?」

 そう言いながらも心のどこかで恐怖を感じている。
 小刻みに震えている手を見て、案外馬鹿ではないのだと少し感心していた。

「不敬…?皇帝…?誰が?」

「これだけ言っても分からぬのか?」

 皇帝がゆっくりとその震えている手を挙げると同時に剣を握る騎士達の手にも力が入る。

「騎士様方。やめておいた方が身の為です。死にますよ?」

「…済まない、命令なのだ」

「仕方がないですね。……『おやすみ』」

 リーンはゆっくりと目を瞑り、静かに言葉を紡ぐ。
 再び目を開くと周りの騎士達は握り込んでいた槍を落とし、スースーと大きな寝息を立てながらその場に倒れ込んだ。

「な、なんだ?何がが起こった…」

「一つ訂正しておきます。貴方は皇帝ではありません」

「何をふざけた事を」

「ふざけても何も有りません。この場で前皇帝の血を引いているのはエイプリー・フォビオット様とその御子息アシュレイ・オーガスター皇太子殿下ですよね?あ、でも一応エイプリー様の伴侶だから皇帝だと言う事は正解ですかね?ただの婿養子さん」

 騒然。その言葉に尽きる。
 突然現れた得体の知れない少女が皇帝陛下に不敬を働いたかと思えば突然彼は本当の意味での皇帝ではないと言い出したのだ。
 とても自身ありげのその表情に本当なのでは?と臣下達が騒めきたつ。

「…君はご実家に帰られたのではなかったかな?」

「実家?と、その前に…」

 明らかにリーンがエルムダークから離れた事を確認しての行動だったとわかる発言に更に臣下達は不審感を強める。
 リーンの事を知らない人達は誰なのだ、とコソコソ話し始める。そして一様にその姿に対して思い当たる人物を導き出す。

「何処かでお会いした事ありました?」

 かなり遠回しの言い方だ。
 彼は“それは其方の誤解だ。城へは連れてきておらぬし、当然牢にも入ってはいない”と初めに断言した時点でリーンの存在を知っていて、尚且つアーデルハイドでお世話になっていた事も知っていると肯定したことになる。
 その念押しとして彼は“ ご実家に帰られたのではなかったかな?”とリーンに告げた。
 安易に考えれば存在は知っていたし、庇護も承知していて、それに対して手を出さず見守っていた、と言いたいのだ。
 でも、此処で一つ疑問が生まれる。
 リーンは皇太子だと言い張り、第二王子に“ご無沙汰しております”と挨拶し、王子も“ご無沙してます”と返した。
 あった事があると王子が認めた点が引っ掛かる。
 何故ならアーデルハイドに庇護されているのにそのアーデルハイドに何の仲介もなく二人は会っていたことになるからだ。
 では、いつ会った?何処で会った?
 そうそう王子に会える訳がない。城勤めの臣下達でさえ殆どないのだから。
 この場にいるのは曲がりなりにも貴族。相手の言葉の裏を見る彼らにとってその言葉の真意を理解する事は容易かった。

「い、いや。勿論初めましてだ」

 理解こそしていないが空気感から察したのだろう。勘のいい人だと感心しつつもリーンは一瞬たりとも皇帝から目を離さない。

「確か、高位の存在が挨拶した場合だけですよね?下位の者が話しかけられらるのは」

 含みのある言い方、声のトーン、表情、全てに気圧されてもうそれ以上下がれないのに、身を引く動作を繰り返す。

「仮にもエイプリー様に皇帝にさせて貰ったんだだから、ルールくらい守らないと」

 低く、落ち着いた声が、地を這うように責め立てて来る。ゾクゾクと背筋を凍らせるその声に身を捩るだけで逃げ出さないのだから、彼は意外にも芯の強い人間なのだと更に感心する。

「…我らの親愛なる偉大なる光に心からのご挨拶を申し上げます」

 皇帝が座る台座を飾り付けるように垂れ下がっていた天幕の影から年老いた1人の女性が姿を表し、両膝をつく全身全霊の敬意を表して言う。

「は、母上!お助け下さい!」

「お黙りなさい!」

 声を荒げてはなりません、と言い出しそうな程に完璧な淑女である女性が、思わず声を荒げてしまうほどに焦っているのだと伝わってくる。

「神よ。ご顕現誠に感謝致します。…ですが、この者は何も知りません。自らの言葉で伝える事をお許し頂けませんでしょうか」

 彼女は決して震えることも無いし、恐れをなすことも無い。この言葉で自身に何があっても良いと覚悟まで決めている。

「良いでしょう」

 彼女はリーンに懺悔するように、これまでの過ちとその行い、そして彼の産まれた経緯をゆっくりと語り始めた。





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