神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第四章

引越し

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 気分は心機一転。
 交渉が終われば、デロス島の引っくり返し作戦が始まる。格好だけはしっかりとしなければ、と一番威厳が出そうな女神らしい刺繍たっぷりの白銀のローブドレスに身を包む。

「お待ちしておりましたぞ」

「お待たせして申し訳ありません」

 ラテの指示で今日はゾロゾロと使用人達を引き連れている。勿論リブリーの物語通りの展開なのでここから起こることも全て把握済みだ。

 謁見の間には各島々を束ねる長達が一堂に返していて、中には見慣れた兎族の長もいる。
 彼らからの期待の篭った強い視線を受けながら進む。

「女神ヴェルムナルドール様。我々はこの島の呪いが全て消え去ることを望みます」

「承知致しました。その願いを叶えましょう」

「「「「「…よろしくお願いします」」」」」

 島の未来を考えて深々と頭を下げる彼ら。

「ご準備は整っていらっしゃいますか?」

「はい、ですが…」

「分かっています。案内してもらえますか?」

 ガビロンがリーンに言いかけて止める。
 リーンはそのまま踵を返して入ってきたばかりの扉へと歩を進める。

「…バルロフ様のお部屋で御座います」

 中は信じられないほど重々しい空気が立ち込めている。厄災と言っていたが、そんな言葉では言い表せない。

「ヒッ…」

「呪い…ですね」

「えぇ」

 得体の知れない何かが、豪華で綺麗なベッドに横たわる青年に覆いかぶさっている。青年はまるで時間が止まってしまったかのようにピクリとも動かない。

「あの悍ましいものがもう何十年も…。バルロフ様がどのような状態なのかも分からず…」

「それはさぞ心配だったでしょう」

「…痛み入ります」

 確かにこんなものを見せられたら誰だって恐ろしくなって部屋に近づく事もしないだろう。彼は王の息子だからまだこのように世話されているが、これが一般の人ならば忌避されて家族は孤独になるだろう。

 この大陸に移り住んで来た者達は皆ドワーフに対して大きな恩を感じているから、寧ろどうにかしたいと皆こうして立ち上がっているが、これが人間の世界ならこうは行かない。
 亜人と言われる種族の者達は義理堅いのだろう。

「バルロフ様は私が運びます。お世話をしているのは?」

「わ、我がしております」

「ガビロン様が…成程。では一緒に参りましょう」

 リーンはガビロンの手を取って、物おじもせず青年に近づき、彼の手もそっと握る。リヒトも気にせずにリーンの肩に手を置いたのでリーンはフッと小さく笑って桃源郷へ飛んだ。

「なんと、珍妙な…」

「転移は初めてでしたか」

「我々は転移などせずとも何処へでも飛んで行けるゆえ」

 ガビロンは目の前の光景が信じられないのかキョロキョロと辺りを見回している。

「バルロフ様はここでお休み頂きますね」

「た、助かります」

 彼以外には青年の世話役は務まらなかったのだろう。
 此方で言う公爵位を持っているガビロンが侍従のような事をしている理由はそれ以外にない。

「わ、我は…バルロフ様に助けられたのだ。バルロフ様がいらっしゃらなければ、我はもう…この世には存在しておらぬ…。我は…我の命に変えてもバルロフ様をお助けせねばならぬのです…」

「ガビロン様。貴方の命を賭けずともバルロフ様は必ず目を覚まされます。ご安心ください」

「…女神ヴェルムナルドール…貴方に我の全てを捧げる」

 二人の間にある絆。これは神示を見たところで理解できる様な物ではなかった。ただ、ガビロンにとっては命を助けられた、という一点のみ。それだけで家族でもないのにこの見るに耐えない悍ましい呪いに立ち向かうほどの完全なる忠誠をこの青年に誓ったのだ。

 何に変えても。ガビロンの強い意志が伝わってくる。

「ガビロン様、リーンにはもうわたしが全てを捧げているので諦めて下さい」

「リヒト、今そんな冗談を言って…」

「なるほどですな…」

 リヒトも分かっているのだろう。いや、リヒトだから分かったのかも知れない。
 ガビロンは既にこの青年に全てを捧げているということを。今からリーンに全てを捧げるという事は彼の目覚めと同時にガビロンは彼の元から去るという事を意味している。
 それがどれだけ苦しい事なのかをリヒトは分かっているのだ。

「ガビロン様。此方のお部屋には侍従用の小さなお部屋しかありませんが」

「お気になさる必要はありません。確かに普段自身の城では元の姿で休んでおりますが、このままでも問題はありませんので」

「そうですか。…では、必要なものがありましたら此方のベルをお鳴らしください。直ぐに使用人が参りますので」

「…助かります」

 ガビロンはまだ心配そうな面持ちではあるが、これから半年はここに居てもらうのだから慣れてもらう他ない。
 部屋を後にしたリーンをまた当然のようにレスター達が待ち構えている。

「リーン様、他の方々もお連れしました」

「ありがとうございます。バルドゥル王はどちらに?」

「此方の館の貴賓室にお通ししてあります」

「レスターも着いてきてください」

「かしこまりました」

 外ではマダム・リコースが作った転移魔法陣を使って運ばれてきたデロス島の住民達が自身に当てがわれる家を見物している様でいつも静かな桃源郷が少し騒がしい。

「彼らからの要望には出来るだけ答えてあげて下さい」

「かしこまりました」

 彼らは災いが収まるならば有り難い、とこの提案に乗ってくれたが、此方側からすればこれがディアブロへの対抗手段の一つだっただけ。
 だから、住み慣れた家までとは行かなくてもここに半年は滞在して貰わなければならないのだからそれなりの配慮が必要だろう。


「おぉ、女神よ。こんなに素敵な場所を貸して頂けるとは本当に有り難い」

「バルドゥル王。会って頂きたい方がいます」

「私に?」

「レスター、お連れして下さい」

 リーンとリヒトは共に王の目の前に腰掛け、レスターは指示通り深々とお辞儀をして部屋を退出する。

「私に会わせたい人とはとても興味がありま…」

「呼んだか、リー…………そうか、やっとこの日が来たか」

 兄弟の感動の再会、とはいかない。
 呪いのせいなのは間違いないが、出る事が出来ないだけでデロス島に入ることは出来る。
 それでもガンロは島へは帰らなかった。
 心配してなかったわけじゃない。何かこの厄災を止める方法はないか、と探し歩いていただけだ。
 でも、後ろめたい気持ちがあることもまた事実。

「元気そうだな…」

「にいさんも無事で何よりだ」

「私がデロス島の改善をすることに決めたのはガンロの願いもあったからです」

「…そう、ですか。私はてっきり…」

「変な誤解がある事はお分かりになられましたでしょう。兄弟水入らず…ゆっくりとお話し合い下さい」

「…リーン。ありがとな」

「貴方はそう言う言い訳はしたくないと思いましたので」

 ガンロは頑固だ。どんなに誤解されようと、言い訳はしなかっただろう。でも、彼がデロス島の為にいろいろ尽くしていた事は嘘じゃない。
 ガンロから直接デロス島の改善について頼まれた訳ではない。彼はそう言うことも言わない。

「リーンは本当に素敵な人だ」

「…や、やめて」

「照れてるのも可愛い」

「だから、リヒト…!」

 なんだかんだで、もう日は沈み、外の騒がしさも落ち着いている。時間の経過というものはとても早い。

「…おいで」

「…」

 ベッドに腰掛けるリヒト。
 優しく落とされた声に考えるよりも先に身体が勝手に従っていた。










 
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