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05.
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「ユリアナ」
――生きてます
「ユリアナ、すまない」
――はい、それはもう何度もお聞きしました
「ユリアナ、大丈夫か?」
――大丈夫、ではないような、大丈夫なような……
エーヴァウト様の傷跡に触れた、その直後。
私は突然ものすごい痛みに襲われた。
あんまりにも痛くて恐くて混乱して泣く私に、エーヴァウト様はすまないと謝りながらも、もう無理だ、我慢出来ないなどと仰りながら痛い事を止めてはくれず――
あぁ、この痛みは私の身体がエーヴァウト様に暴かれたからなのだと理解したのは、痛みと混乱から上手く息が継げなくなってしまった私に気付いたエーヴァウト様がやっと動きを止めてくれた時。
何とか息が出来るようになった私に、エーヴァウト様はすまないと謝りながらもまた動き始めて。
ようやく痛みとは違う感覚を覚えるようになった頃、エーヴァウト様が私の中で果てた。
そうして今。
ぐったりとしている私をエーヴァウト様は抱き締めて離して下さらない。
「すまない」と「大丈夫か」を繰り返しているから、どうやら心配して下さっているようなのだけれど……
乱れに乱れていた息と心臓がようやく落ち着いた私がゆっくり瞼を持ち上げてエーヴァウト様を見上げると、すぐにアイスブルーの瞳とぶつかった。
「ユリアナ」
あまり表情は変わらないけれど、ほんの少し眉が下がってアイスブルーの瞳も揺れていらっしゃるから、きっと本当に心配して下さっているのだと思って私は小さく微笑む。
「最初はとっても痛かったのですが」
そう言ってみると、エーヴァウト様がぐっと唸った。眉間に皺が寄る。
「でも途中からは優しくして下さいましたから……大丈夫ですよ」
眉間の皺がぐぐぐっと深くなって、そしてまたすまないと抱き締められた。
――少し、分かった気がする。
エーヴァウト様の眉間の皺は、必ずしも怒りや不快や……そんなマイナスな感情ばかりではないのだと。
「エーヴァウト様、私たちこれで、夫婦……ですよね?」
神様への誓いだけをこなした名ばかりの夫婦でなく、名実共に。
そう確認してみたら、抱きしめられている腕にぎゅっと力が籠った。
――あぁ、もしかしたら、この方となら夢ではないかもしれない。
互いを思い合って、穏やかな情愛を育んで、きちんと家族になれるかもしれない。
そう思ったら嬉しくなって、私はそっとエーヴァウト様の背に腕を回して、囁いた。
「旦那様」
「――何?」
「ひっ!?」
途端に低い声が返ってきて、そしてエーヴァウト様の腕にさっきよりも強く力が籠って息が詰まった。
「今、なんと言った……?」
低い低い声でそう言われて、一瞬で私の身も心も凍り付いた。
「だ、だんな、さま……と……」
「だんなさま……」
あぁ、互いに思い合えるだなんて、穏やかな家庭を、だなんて、きっと全て私の勘違いだったのだ。
思い上がるなと放り出されたらどうしようと、私は慌てて謝罪を口にする。
「も、申し訳ありません、エーヴァウト様。私……」
「もう一度」
「……え?」
エーヴァウト様の腕が緩んで、そして今度は肩を掴まれる。
「もう一度、言ってくれ」
「え……? あ、申し訳、ありません……?」
謝罪が足りない?
もっと言葉を重ねないといけないのね、と「申し訳ありません」以外の謝罪の言葉を探し始めた私に、けれどエーヴァウト様は違うと首を振る。
「旦那様、と」
「え……」
「もう一度、旦那様、と」
「だ、旦那、さま……?」
混乱したまま、言われた通り口にする。
「……もう一度」
「旦那様……」
エーヴァウト様は、あぁ、と溜め息のような声を出すと、また私をぎゅうっと抱き締めた。
「夢のようだ……」
「え……?」
「ユリアナを妻にする事が出来て、その上旦那様と呼んでもらえるとは……」
エーヴァウト様がそっと身体を離した。
離れてしまった体温が、少し寂しい。
――生きてます
「ユリアナ、すまない」
――はい、それはもう何度もお聞きしました
「ユリアナ、大丈夫か?」
――大丈夫、ではないような、大丈夫なような……
エーヴァウト様の傷跡に触れた、その直後。
私は突然ものすごい痛みに襲われた。
あんまりにも痛くて恐くて混乱して泣く私に、エーヴァウト様はすまないと謝りながらも、もう無理だ、我慢出来ないなどと仰りながら痛い事を止めてはくれず――
あぁ、この痛みは私の身体がエーヴァウト様に暴かれたからなのだと理解したのは、痛みと混乱から上手く息が継げなくなってしまった私に気付いたエーヴァウト様がやっと動きを止めてくれた時。
何とか息が出来るようになった私に、エーヴァウト様はすまないと謝りながらもまた動き始めて。
ようやく痛みとは違う感覚を覚えるようになった頃、エーヴァウト様が私の中で果てた。
そうして今。
ぐったりとしている私をエーヴァウト様は抱き締めて離して下さらない。
「すまない」と「大丈夫か」を繰り返しているから、どうやら心配して下さっているようなのだけれど……
乱れに乱れていた息と心臓がようやく落ち着いた私がゆっくり瞼を持ち上げてエーヴァウト様を見上げると、すぐにアイスブルーの瞳とぶつかった。
「ユリアナ」
あまり表情は変わらないけれど、ほんの少し眉が下がってアイスブルーの瞳も揺れていらっしゃるから、きっと本当に心配して下さっているのだと思って私は小さく微笑む。
「最初はとっても痛かったのですが」
そう言ってみると、エーヴァウト様がぐっと唸った。眉間に皺が寄る。
「でも途中からは優しくして下さいましたから……大丈夫ですよ」
眉間の皺がぐぐぐっと深くなって、そしてまたすまないと抱き締められた。
――少し、分かった気がする。
エーヴァウト様の眉間の皺は、必ずしも怒りや不快や……そんなマイナスな感情ばかりではないのだと。
「エーヴァウト様、私たちこれで、夫婦……ですよね?」
神様への誓いだけをこなした名ばかりの夫婦でなく、名実共に。
そう確認してみたら、抱きしめられている腕にぎゅっと力が籠った。
――あぁ、もしかしたら、この方となら夢ではないかもしれない。
互いを思い合って、穏やかな情愛を育んで、きちんと家族になれるかもしれない。
そう思ったら嬉しくなって、私はそっとエーヴァウト様の背に腕を回して、囁いた。
「旦那様」
「――何?」
「ひっ!?」
途端に低い声が返ってきて、そしてエーヴァウト様の腕にさっきよりも強く力が籠って息が詰まった。
「今、なんと言った……?」
低い低い声でそう言われて、一瞬で私の身も心も凍り付いた。
「だ、だんな、さま……と……」
「だんなさま……」
あぁ、互いに思い合えるだなんて、穏やかな家庭を、だなんて、きっと全て私の勘違いだったのだ。
思い上がるなと放り出されたらどうしようと、私は慌てて謝罪を口にする。
「も、申し訳ありません、エーヴァウト様。私……」
「もう一度」
「……え?」
エーヴァウト様の腕が緩んで、そして今度は肩を掴まれる。
「もう一度、言ってくれ」
「え……? あ、申し訳、ありません……?」
謝罪が足りない?
もっと言葉を重ねないといけないのね、と「申し訳ありません」以外の謝罪の言葉を探し始めた私に、けれどエーヴァウト様は違うと首を振る。
「旦那様、と」
「え……」
「もう一度、旦那様、と」
「だ、旦那、さま……?」
混乱したまま、言われた通り口にする。
「……もう一度」
「旦那様……」
エーヴァウト様は、あぁ、と溜め息のような声を出すと、また私をぎゅうっと抱き締めた。
「夢のようだ……」
「え……?」
「ユリアナを妻にする事が出来て、その上旦那様と呼んでもらえるとは……」
エーヴァウト様がそっと身体を離した。
離れてしまった体温が、少し寂しい。
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