上 下
14 / 18
天使と出逢った日 -Side Ghislain-

06.

しおりを挟む
「あぁっ……! あんっ、おっきぃ……! すごいの、じすらん……っ! きもちい……っ」
「これが、欲しかったんだろう?」
「うん……うんっ……もっと、して……じすらん、もっと……!」

俺の下で、ノエルは蕩け切った顔で喘ぎ、そして強請ってくる。
応えるように最奥を突き上げれば、華奢な身体が跳ねあがって一層高い声を上げた。

ノエルの中に入る直前、かろうじて残っていた理性でノエルの胎に魔法をかけた。
だから六月の間溜まりに溜まった欲望を遠慮なく吐き出して、ノエルの中も、肌も、全てを俺で満たして行った。


「は……はぁっ……じすらん、おみず、ほし………」

ノエルがくたりとシーツに沈みこんでそう訴えて来た。
まだ出たくはなかったが、ノエルの掠れてしまっている声にすぐに喉を潤してやらねばと自身をノエルの中から抜く。
と、ノエルが小さく身体を震わせて吐息のような声を漏らした。
その声と恥ずかしそうにしている様が可愛らしくて、俺はノエルの頬を撫でてからベッドを下りる。

室内のテーブルに置かれていた水差しを取って口移しで数度水を飲ませてやると、ノエルがほぅっと息をついた。
ベッドに戻ってノエルを抱き込むと、ノエルは甘えるように身を委ねてくる。 

「ジスラン……明日には帰っちゃう……?」
「いや、帰らない」
「ほんとう? うれしい……」

ふにゃりと笑ったノエルが愛らしくて、俺はまた自身が熱を持ったのを感じたが、それと同時にノエルの身体からことんと力が抜けた。

「ノエル……?」

小さく名を呼んでみたが、返って来たのは小さな寝息だけだった。
気が付けば外はすっかりと日が落ちて真っ暗になっている。
しまった、肉でも食わせてやるつもりだったのに逆に痩せてしまいそうな事をしてしまったと落ち込んだが、やってしまった事は仕方がない。
明日こそは朝から飯をたくさん食べさせようと誓いながら、腕の中のノエルを抱き締めて目を閉じた。


❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊

随分と久しぶりに穏やかな気分で目を覚ました。

一瞬幸福な夢を見たかとも思ったが、見慣れぬ室内と、何より腕の中の温もりが即座に夢ではなく現実だと教えてくれた。
そっと腕の中を伺ってみると、そこにはきちんとノエルが居て、そしてすやすやと可愛らしい寝息を立てている。

部屋の外の気配を伺えば、既に人が動き始めているようだ。
俺は寝る直前に誓った「ノエルに飯をたくさん食べさせる」を実践すべく、僅かな時間でも手放しがたい温もりから必死に手を離して、ノエルを起こさないようそっとベッドを抜け出す。

そうして手早く服を着込んで部屋を出ると、食堂を覗く。
丁度他の宿泊客へ配膳していたらしい女将が俺に気付いて、そしてニヤリと笑みを浮かべた。

「あー……すまないが、部屋で食事をとりたいのだが」

俺がそう切り出すと、女将はニヤニヤしたまま頷いた。

「あぁ、構わないよ。ノエルちゃんの分も用意させるから二人分持ってっとくれ──あぁ、でもその前に。ノエルちゃんはパン屋で働いているから、もし休ませるようなら早めに言いに行った方が良いんだけどね」

揶揄うような色を滲ませた女将の言葉に、俺ははっとなる。
俺のせいで無断欠勤などさせるわけにはいくまいと慌てて女将にパン屋の場所を聞くと、同じ通りの八軒ばかり先だと言う。
一っ走り伝えに行ってくるが、ノエルはまだ眠っているから食事は戻ってから俺が運ぶから起こさないでやって欲しいと伝えると、女将のニヤニヤがさらに深まった。

「お客さん、やっぱりノエルちゃんの良い人かい? まぁ、朝まで出てこなかったんだからそうに違いないとは思ってたんだけどねぇ」

ムフフと笑った女将に、俺は慌てて首を振る。
これは確実にヤったと思われている──いや、実際何度もヤったわけだが、ノエルとはまだ話が出来ていない。
それなのに俺がノエルの『良い人』と思われるのは、もしかしたらノエルの迷惑になるかもしれない。

「いや、まだそういう関係では……これから口説こうと思ってはいるが」
「えぇ? じゃあ昨日は一体何をしてたんだい!?」

心底驚いた、という風に言われて、勿論ナニをしていた、などと答えられるはずもなく。

「その、久しぶりの再会だったから、色々と話を……しているうちに、眠ってしまったようで」

苦しい。
我ながら非常に苦しいが、遮音のおかげで身体で話し合っていたアレコレの音が聞こえなかったせいか女将は疑う事なく──むしろ何だかひどくガッカリした様子で「そうだったのかい」と頷いた。
ノエルが休む事を早めに伝えた方が良いだろうからと、俺は女将から逃げるように宿を出るとノエルが働いているというパン屋へと向かう。

近くならばそう時間もかからないだろうと思っていたが、俺は予期せぬ事態に遭遇する羽目になった。

数軒先の、開店準備をしていたらしい雑貨屋の女性店員から「あ! 昨日ノエルを担いでた人!」と叫ばれ「ノエルの彼氏? どこの人? ノエルとはいつどこで知り合ったの?」とものすごい勢いで詰め寄られ、「まだそういう関係ではない。詳しくは話せない」などと言っている間にも朝の散歩をしているらしき通りがかりのご老人二人組から「ノエルちゃんを頼むぞぉ」「泣かせたら儂らが夜な夜な枕元に立ってやるからのぉ」と若干恐ろしいようなそうでもないような脅しを貰い、改めてまだそういう関係ではないが、もし色よい返事を貰えた暁には一生大事にすると言えば「応援しとるぞぉ」と意外と力強い激励の平手打ちを数発、背中へ貰った。

パン屋に着いたら着いたで、店の前で立ち話をしていた数名の女性から「あぁ! 噂をすればこの人よ、ノエルちゃんを拐かした人!!」などと叫ばれ、「何だとぉ!? どこのどいつだツラ見せやがれぇぇ!!」と店の中から店主と思しき男性が猛然と駆け出してきたものだから、俺は慌てて拐かしてなどいないと弁明をして、そして店主に向けてこれから口説くから時間を貰いたいと頭を下げた。
パン屋の主人はしばらく無言で俺を観察していたかと思ったら、店へと踵を返した。
これは認めないという事か、と困惑していると、主人はすぐに出て来てずいっと袋を差し出して来た。

「ノエルは子供の頃からずっと俺のパン食ってんだ。持ってけ」

どうやら焼き立てのパンが詰まっているらしい温かなその袋を礼を言いながら受け取って、そしてもしも色よい返事を貰えた暁にはもう数日休みを貰いたいと言えば、店主は顔を真っ赤にして「ノエルに指一本触れるのは許さんぞぉぉ!!!」と父親のような事を叫び始めた。
その時店主の後ろから現れた女性が店主を店に放り込むと「ノエルちゃんは最近働きづめだったからしばらく休んで構わないよ」と笑った。
俺はその女性──パン屋の主人の奥方だろうか──に礼を言って頭を下げると、急いで来た道を戻ろうとして、新たな通行人から呼び止められては同じようなやり取りを繰り返した。

あの日ノエルが「目立ちたくない」と頑なに送らせてくれなかったのは、こういう目に遭うと分かっていたからなのかと遠い目になりつつもようやく宿に戻った俺は、女将がトレイに載せて置いておいてくれた朝食を受け取って部屋へと戻った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】愛するがゆえの罪 SS集

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:57

夜会に鳴く深紅の鳥

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:35

家電オムニバス短報(オムニバス、ショートショート)

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

なんの瑕疵もないおねえさんがショタ3人組にめちゃくちゃにされる話

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:36

聖獣のお世話は王妃の務め!?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:71

オール・オブ・アビリティ・オンライン

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:32

佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:16

闇の魔女と呼ばないで!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:124

処理中です...