8 / 387
駆け出し転生者ウタ
これから
しおりを挟む
「はぁー! 疲れたー!」
初級魔法を一通り練習し終えた僕は、アリアさんに一つ部屋を貸してもらって、そのベッドの上に寝っ転がった。
ちなみにスライムは僕とアリアさんで世話することになった。スライムのご飯は水や氷。初級魔法の練習もかねて、しばらくは僕が面倒を見る。
「…………」
久しぶり――とは言っても半日程度――に一人になった僕は、ぼんやりと、あのスキルのことについて考えていた。
「……勇気、かぁ」
あのスキルが発動するための勇気は、嫌いな食べ物を食べるとか、そんな小さいことじゃない。それは直感で分かる。
……きっと、あの神様が僕の死に様を見て、勇気あるやつなんだと勘違いしたんだ。
でも、違う。
あのときだけなのだ。
スキルが発動することなんて、ないのかもしれない。
「……あー! ダメだダメだ! とうしてもネガティブになってしまう!」
「ぷるるっ?」
「でも……ずっと、アリアさんに頼りっぱなしな訳にもいかないしな」
話を聞いた限りでは、この国も、今はかなり大変なようだ。僕を受け入れるだけの余裕があるかどうかも分からないのに、こうして魔物から助けてくれて、部屋を貸してくれて、身を守るための稽古までつけてくれている。
……こんなの、いいのだろうか?
「これから、僕はどうするのが正解なのかな」
やはり、魔物を倒してレベルをあげて、旅をするっていうのがいいのかな? それとも、ここに残って、街の人たち手伝いをするのがいいのかな。
……それとも、
『 』
「……っ!」
「ぷるっ!」
忘れろ。考えるのをやめるんだ。向こうの世界で僕はもう、死んだんだ。関係ないんだ。あの世界と僕は。
ふと、軽いノック音がした。
「ウタ、私だ。入ってもいいか?」
「アリアさん!」
ドアの前まで小走りで移動すると、扉を開ける。
アリアさんはさっきまで着ていた鎧のような服を着替え、腰に大きな紺色のリボンがついた白いワンピースに着替えていた。
服装がシンプルになったがゆえに、金髪の中に見え隠れする、紫色の蝶が、よりいっそうキラキラ輝いて存在を主張した。
「どうか、しましたか?」
「なに、もう夜になる。飯にしようかと思ってな。呼びに来たんだ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「…………」
「……アリアさん?」
急に黙り込んだアリアさんをじっと見つめると、アリアさんはばっと顔をあげ、僕の目を見た。エヴァンさんと同じ、赤い瞳。心の内を、探られているようだった。
「……なにか、悩みでもあるのか?」
「え?」
「や、違うならいいんだ。ただ……そう見えただけで。気にしないでくれ」
……アリアさんは、僕の中にある迷いに気づいたのか? 僕の悩みに、気がついたのか?
「じゃあ食堂で」
「ま、待ってください!」
引き返そうとしたアリアさんの腕を、咄嗟に掴む。触れた肌はあたたかくて、細くて……ハッとするほどに、やわららかかった。
「……あの! き、聞きたいことがあって」
「……中で聞くよ。立ちっぱなしじゃお互いに疲れるだろう?」
僕は、小さくうなずいた。
部屋の中に入り、僕は備え付けられていた椅子、アリアさんはベッドに腰掛け、向き合った。
「……僕は、どうしたらいいと思いますか?」
なんの前置きもなく、僕はそう切り出した。またあきれられるかもしれない。しかし、アリアさんはそういった反応はしなかった。
「どうしたらっていうのは、あれか? ここに残るか、残らないか。働くか、冒険者にでもなるか、ここで世話になるか……とか、そんなことか?」
「……はい」
「そうか」
アリアさんの言葉が途切れる。僕は、すがるように次の言葉を待った。
「……自分の、好きなようにしていいんじゃないか?」
「好きなように?」
「そうだ」
好きなように……好きなようにって、どうすればいいんだろう?
ヘタレな僕は、自分で自分の道を決めてこなかった。高校も、勧められたところにそのまま入学した。
自分の意思が、わからない。
「……決まるまでは、ここにいてくれて構わないよ。私たちは迷惑なんかじゃない」
「でも、僕は弱いし、ヘタレだし」
「そうだな」
「アリアさんたちに、頼りっぱなしになっちゃいます」
「それならそれでもいいんじゃないか? お前の人生だ。せっかくここで会えたんだ。頼りたければ頼れ」
アリアさんは、僕の判断を待ってくれるという。しかし、しかしだ。本当にそれでいいのだろうか? 自分のわがままに、誰かを巻き込むなんて……。
「…………僕は……」
「ん?」
「僕は、あのスキルを、使えると思いますか?」
『勇気』発動条件は、自分の心が、恐怖や圧力に打ち勝つこと。ヘタレな僕にとって、これが一番の難題。
正直僕は、使えると思わない。使えない。だって……。
「…………」
黙り込んだ僕に、アリアさんは優しく言った。
「……私は、お前なら使えると思っている」
「え?」
「私はお前なら……ウタなら、この力を使えると、そう思っているよ」
「どうして……?」
「さぁな。でも、そう思う」
それから立ち上がると、ドアの前まで行き、僕の方を振りかえって笑った。
「ほら、飯だ! さっさと食堂に来いよ」
「…………」
…………。
「……はいっ! すぐ行きます!」
初級魔法を一通り練習し終えた僕は、アリアさんに一つ部屋を貸してもらって、そのベッドの上に寝っ転がった。
ちなみにスライムは僕とアリアさんで世話することになった。スライムのご飯は水や氷。初級魔法の練習もかねて、しばらくは僕が面倒を見る。
「…………」
久しぶり――とは言っても半日程度――に一人になった僕は、ぼんやりと、あのスキルのことについて考えていた。
「……勇気、かぁ」
あのスキルが発動するための勇気は、嫌いな食べ物を食べるとか、そんな小さいことじゃない。それは直感で分かる。
……きっと、あの神様が僕の死に様を見て、勇気あるやつなんだと勘違いしたんだ。
でも、違う。
あのときだけなのだ。
スキルが発動することなんて、ないのかもしれない。
「……あー! ダメだダメだ! とうしてもネガティブになってしまう!」
「ぷるるっ?」
「でも……ずっと、アリアさんに頼りっぱなしな訳にもいかないしな」
話を聞いた限りでは、この国も、今はかなり大変なようだ。僕を受け入れるだけの余裕があるかどうかも分からないのに、こうして魔物から助けてくれて、部屋を貸してくれて、身を守るための稽古までつけてくれている。
……こんなの、いいのだろうか?
「これから、僕はどうするのが正解なのかな」
やはり、魔物を倒してレベルをあげて、旅をするっていうのがいいのかな? それとも、ここに残って、街の人たち手伝いをするのがいいのかな。
……それとも、
『 』
「……っ!」
「ぷるっ!」
忘れろ。考えるのをやめるんだ。向こうの世界で僕はもう、死んだんだ。関係ないんだ。あの世界と僕は。
ふと、軽いノック音がした。
「ウタ、私だ。入ってもいいか?」
「アリアさん!」
ドアの前まで小走りで移動すると、扉を開ける。
アリアさんはさっきまで着ていた鎧のような服を着替え、腰に大きな紺色のリボンがついた白いワンピースに着替えていた。
服装がシンプルになったがゆえに、金髪の中に見え隠れする、紫色の蝶が、よりいっそうキラキラ輝いて存在を主張した。
「どうか、しましたか?」
「なに、もう夜になる。飯にしようかと思ってな。呼びに来たんだ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「…………」
「……アリアさん?」
急に黙り込んだアリアさんをじっと見つめると、アリアさんはばっと顔をあげ、僕の目を見た。エヴァンさんと同じ、赤い瞳。心の内を、探られているようだった。
「……なにか、悩みでもあるのか?」
「え?」
「や、違うならいいんだ。ただ……そう見えただけで。気にしないでくれ」
……アリアさんは、僕の中にある迷いに気づいたのか? 僕の悩みに、気がついたのか?
「じゃあ食堂で」
「ま、待ってください!」
引き返そうとしたアリアさんの腕を、咄嗟に掴む。触れた肌はあたたかくて、細くて……ハッとするほどに、やわららかかった。
「……あの! き、聞きたいことがあって」
「……中で聞くよ。立ちっぱなしじゃお互いに疲れるだろう?」
僕は、小さくうなずいた。
部屋の中に入り、僕は備え付けられていた椅子、アリアさんはベッドに腰掛け、向き合った。
「……僕は、どうしたらいいと思いますか?」
なんの前置きもなく、僕はそう切り出した。またあきれられるかもしれない。しかし、アリアさんはそういった反応はしなかった。
「どうしたらっていうのは、あれか? ここに残るか、残らないか。働くか、冒険者にでもなるか、ここで世話になるか……とか、そんなことか?」
「……はい」
「そうか」
アリアさんの言葉が途切れる。僕は、すがるように次の言葉を待った。
「……自分の、好きなようにしていいんじゃないか?」
「好きなように?」
「そうだ」
好きなように……好きなようにって、どうすればいいんだろう?
ヘタレな僕は、自分で自分の道を決めてこなかった。高校も、勧められたところにそのまま入学した。
自分の意思が、わからない。
「……決まるまでは、ここにいてくれて構わないよ。私たちは迷惑なんかじゃない」
「でも、僕は弱いし、ヘタレだし」
「そうだな」
「アリアさんたちに、頼りっぱなしになっちゃいます」
「それならそれでもいいんじゃないか? お前の人生だ。せっかくここで会えたんだ。頼りたければ頼れ」
アリアさんは、僕の判断を待ってくれるという。しかし、しかしだ。本当にそれでいいのだろうか? 自分のわがままに、誰かを巻き込むなんて……。
「…………僕は……」
「ん?」
「僕は、あのスキルを、使えると思いますか?」
『勇気』発動条件は、自分の心が、恐怖や圧力に打ち勝つこと。ヘタレな僕にとって、これが一番の難題。
正直僕は、使えると思わない。使えない。だって……。
「…………」
黙り込んだ僕に、アリアさんは優しく言った。
「……私は、お前なら使えると思っている」
「え?」
「私はお前なら……ウタなら、この力を使えると、そう思っているよ」
「どうして……?」
「さぁな。でも、そう思う」
それから立ち上がると、ドアの前まで行き、僕の方を振りかえって笑った。
「ほら、飯だ! さっさと食堂に来いよ」
「…………」
…………。
「……はいっ! すぐ行きます!」
0
あなたにおすすめの小説
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる