69 / 387
怪しい宗教はお断りします
おつかいという名の
しおりを挟む
「おはようございます、みなさん」
「おはようフローラ、今日はよろしくな」
次の日、僕らは食堂で朝食をとり、それからフローラと出掛ける。
今は、宿の入り口の前でフローラと落ち合ったところだ。
「えっと、あの……」
「ん? どうしたんだ?」
「案内すると言っても、どこをどう案内したらいいのか……。サワナルの南側しか入れないので、広くはないんですけど、その、目的がないと……」
「あー、そっか。それもそうだよな」
確かに。例えば、海外から来た人に『日本を案内してくれ』って言われても、京都とかで八つ橋食べるのか、東京の秋葉原とかで買い物するのか、広島に行って原爆ドームを見るのか……価値は違うが、全部『案内する』ということだ。
「どうする?」
「んー……」
すると、僕らの後ろから聞き覚えのある声がした。
「あれ? みんなおそろいで。どうしたの?」
「あっ、テラーさん! 僕ら、これから街を案内してもらおうと思って。で、行き先を考えてたんです。
テラーさんこそ、どうしたんですか?」
「私は、果物と野菜のおすそわけに。……あ、そうだ。良いこと思い付いた」
「…………?」
テラーさんはポケットからペンとメモを取り出して、なにかをさらさらと書く。そしてそれをフローラに手渡した。
「おつかい、頼んでいいかな?」
「おつかい、ですか? 私は構いませんけど、その……」
「おいらたちだって大丈夫だぞ! な!」
「あぁ。そうだな。私たちはフローラについていって、気になったものがあったら教えてもらおう」
なるほど、おつかいと銘打って、それとなく行き場所を指定してくれたのか。う、うまくやりよる……。
「あ、お金! 渡すの忘れてた。えっと……これで足りると思うよ。足りなかったら立て替えておいてくれる?」
テラーさんがフローラに金貨を一枚手渡すと、フローラは少し笑ってうなずいた。
「はい、分かりました。というか……少し、多すぎませんか?」
うーん、確かに。なにをフローラが頼まれたのか知らないけど、おつかいに10万円は高い。ほぼ確実に余るだろう。
するとテラーさんは「小銭がなくって」と笑いながら、手をひらひらさせ、そして、僕らを見ていった。
「余ったら、なにか美味しいものでも食べな?」
「あっ……」
フローラがテラーさんを呼び止めようとしたが、さっさと宿の中に入っていってしまった。
……ちらっと見たテラーさんの右手の親指には、絆創膏が張られていた。回復魔法が存在するこの世界で、わざわざ絆創膏を使うなんて……。
「おい、テラーが指に巻いてるあれ、なにかわかるか?」
「えっ? 絆創膏ですけど……知らないんですか?」
「あぁ。なんだその……バンソウコウって」
アリアさんが知らない……ってことは、この世界には絆創膏はないのか?
と、ポロンくんが張り切ったように言う。
「んじゃ、おいらたちはフローラについていくか! なに頼まれたんだ?」
「あっ、えっと……コーヒーと紅茶、あと、小麦粉と本を一冊、ですね。それから最後に、花を摘んできて欲しいみたいです」
「花、か?」
「はい、南東の方に花畑があるんです。よく、砂糖漬けとかにしてお菓子に使ってるらしいんです。
じゃあ……小麦粉から、いきましょうか」
そうフローラは笑うと、メモをポケットにしまった。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
小麦粉を売っているというのは、ちょっとした商店だった。他にもお米や調味料とかが売られていたが、あまり品数は多くなかった。
「……メヌマニエのせいで街のほとんどが汚されて、食べ物を手に入れるのもやっとなんです。街で売ってる食料品のほとんどは、テラーさんが森で取ってきたり、他の街で買ってきたものですよ」
「……ん? 自分で買ってきて、店とかに売って、また自分で買うのか?」
ポロンくんが疑問を口にする。まぁ、僕にとってもそれは疑問だった。正直、損しかない。
「お金には余裕があるみたいですけど……あ、でも、色んなお店の人に『なにか』をいつも頼んでいますよ」
「なにか……?」
「教えてくれないんで分からないんですけどね」
僕にはひとつだけ心当たりがあった。あの絆創膏……。
この世界では、怪我をしても、絆創膏を張ることなんてないだろう。だって、回復魔法使えば良いんだから。
一方でテラーさんは、なんでか……あの、理由はわからないけど絆創膏が必要なようだ。
そして、なにはともあれ、そうだとすると辻褄は通る。だって、お互いに目的を果たせるんだから。
「じゃあ、次、いきましょうか」
小麦粉を買い終えたフローラがそういう。
そういえば……と、僕は辺りを見渡した。これもメヌマニエの影響かもしれないが……。
「女性が、見当たりませんね」
そもそも、あまり人はいないのだが、その中でも女性をただ一人として見ていないのだ。実際、いるのはアリアさんとフローラだけだし、そういえばここに来てから、女性と言えばフローラとテラーさんと、あの侍さんだけだ。
「……女は、メヌマニエに殺されますから、そうならないように、家の奥に隠れているんです。メヌマニエ教に見つかることを考えたら、簡単には出歩けません」
「そういうものなのか」
「そうですよ。だって、みんな自分の命はおしいですから」
そういうフローラの、前髪からのぞく目は暗く、どこか、すべてを諦めてしまっているような気がした。
……この目を、どうにかしたい。そんなことを、勝手に思っていた。
「おはようフローラ、今日はよろしくな」
次の日、僕らは食堂で朝食をとり、それからフローラと出掛ける。
今は、宿の入り口の前でフローラと落ち合ったところだ。
「えっと、あの……」
「ん? どうしたんだ?」
「案内すると言っても、どこをどう案内したらいいのか……。サワナルの南側しか入れないので、広くはないんですけど、その、目的がないと……」
「あー、そっか。それもそうだよな」
確かに。例えば、海外から来た人に『日本を案内してくれ』って言われても、京都とかで八つ橋食べるのか、東京の秋葉原とかで買い物するのか、広島に行って原爆ドームを見るのか……価値は違うが、全部『案内する』ということだ。
「どうする?」
「んー……」
すると、僕らの後ろから聞き覚えのある声がした。
「あれ? みんなおそろいで。どうしたの?」
「あっ、テラーさん! 僕ら、これから街を案内してもらおうと思って。で、行き先を考えてたんです。
テラーさんこそ、どうしたんですか?」
「私は、果物と野菜のおすそわけに。……あ、そうだ。良いこと思い付いた」
「…………?」
テラーさんはポケットからペンとメモを取り出して、なにかをさらさらと書く。そしてそれをフローラに手渡した。
「おつかい、頼んでいいかな?」
「おつかい、ですか? 私は構いませんけど、その……」
「おいらたちだって大丈夫だぞ! な!」
「あぁ。そうだな。私たちはフローラについていって、気になったものがあったら教えてもらおう」
なるほど、おつかいと銘打って、それとなく行き場所を指定してくれたのか。う、うまくやりよる……。
「あ、お金! 渡すの忘れてた。えっと……これで足りると思うよ。足りなかったら立て替えておいてくれる?」
テラーさんがフローラに金貨を一枚手渡すと、フローラは少し笑ってうなずいた。
「はい、分かりました。というか……少し、多すぎませんか?」
うーん、確かに。なにをフローラが頼まれたのか知らないけど、おつかいに10万円は高い。ほぼ確実に余るだろう。
するとテラーさんは「小銭がなくって」と笑いながら、手をひらひらさせ、そして、僕らを見ていった。
「余ったら、なにか美味しいものでも食べな?」
「あっ……」
フローラがテラーさんを呼び止めようとしたが、さっさと宿の中に入っていってしまった。
……ちらっと見たテラーさんの右手の親指には、絆創膏が張られていた。回復魔法が存在するこの世界で、わざわざ絆創膏を使うなんて……。
「おい、テラーが指に巻いてるあれ、なにかわかるか?」
「えっ? 絆創膏ですけど……知らないんですか?」
「あぁ。なんだその……バンソウコウって」
アリアさんが知らない……ってことは、この世界には絆創膏はないのか?
と、ポロンくんが張り切ったように言う。
「んじゃ、おいらたちはフローラについていくか! なに頼まれたんだ?」
「あっ、えっと……コーヒーと紅茶、あと、小麦粉と本を一冊、ですね。それから最後に、花を摘んできて欲しいみたいです」
「花、か?」
「はい、南東の方に花畑があるんです。よく、砂糖漬けとかにしてお菓子に使ってるらしいんです。
じゃあ……小麦粉から、いきましょうか」
そうフローラは笑うと、メモをポケットにしまった。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
小麦粉を売っているというのは、ちょっとした商店だった。他にもお米や調味料とかが売られていたが、あまり品数は多くなかった。
「……メヌマニエのせいで街のほとんどが汚されて、食べ物を手に入れるのもやっとなんです。街で売ってる食料品のほとんどは、テラーさんが森で取ってきたり、他の街で買ってきたものですよ」
「……ん? 自分で買ってきて、店とかに売って、また自分で買うのか?」
ポロンくんが疑問を口にする。まぁ、僕にとってもそれは疑問だった。正直、損しかない。
「お金には余裕があるみたいですけど……あ、でも、色んなお店の人に『なにか』をいつも頼んでいますよ」
「なにか……?」
「教えてくれないんで分からないんですけどね」
僕にはひとつだけ心当たりがあった。あの絆創膏……。
この世界では、怪我をしても、絆創膏を張ることなんてないだろう。だって、回復魔法使えば良いんだから。
一方でテラーさんは、なんでか……あの、理由はわからないけど絆創膏が必要なようだ。
そして、なにはともあれ、そうだとすると辻褄は通る。だって、お互いに目的を果たせるんだから。
「じゃあ、次、いきましょうか」
小麦粉を買い終えたフローラがそういう。
そういえば……と、僕は辺りを見渡した。これもメヌマニエの影響かもしれないが……。
「女性が、見当たりませんね」
そもそも、あまり人はいないのだが、その中でも女性をただ一人として見ていないのだ。実際、いるのはアリアさんとフローラだけだし、そういえばここに来てから、女性と言えばフローラとテラーさんと、あの侍さんだけだ。
「……女は、メヌマニエに殺されますから、そうならないように、家の奥に隠れているんです。メヌマニエ教に見つかることを考えたら、簡単には出歩けません」
「そういうものなのか」
「そうですよ。だって、みんな自分の命はおしいですから」
そういうフローラの、前髪からのぞく目は暗く、どこか、すべてを諦めてしまっているような気がした。
……この目を、どうにかしたい。そんなことを、勝手に思っていた。
0
あなたにおすすめの小説
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる