チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

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声にならない声を聞いて

足音

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「……っ…………」


 目を覚ましたその部屋は、不覚にも、『綺麗だ』と思ってしまうような場所だった。
 淡いベージュの壁、白いレースカーテンの大きな窓、その側に置かれている大きなベッド。木の机と椅子。……私が目を覚ましたのは、そのベッドの上だった。

 さっき……といっても、気を失う前だから、どれくらい前のことなのかは分からないが、さっきまでいた場所は日の光も通らないような場所だったから、地下かなにかだったんだと思う。そうすると、寝ている間に移されたのか……。
 服は汚れているが、ベッドのシーツは綺麗なようだ。体が痛くないことを確認して起き上がる……すると、両手が鎖で繋がれていることに気がついた。動くとじゃらじゃら音がする。


(……あいつ、)


 ミーレスのことが、ほんの少し、少しだけわかってきた。無論、理解なんて出来ないけれど……。

 あいつが、私を愛しているというのは……幸か不幸か、本当のようだ。この部屋だって、あいつが使うには可愛すぎる。私のための部屋なのだろう。私のためだけに、つくった部屋なんだろう。
 そんな通常の愛と同時に、あいつの『特殊な愛』が私を完全に蝕んでいた。体も、精神も。

 初めてあったときから思ってはいたが、『血』だ。それがあいつを狂わせ、私を苦しませる。……それがなければいいってことでもないが、楽にはなったはずだ。

 ……そして、あいつは、目的のためならば手段は選ばない。簡単に人も殺すし、逆に、簡単に自分自身を投げ出す。


(……王都は、大丈夫なのかな? ウタはどうしてるんだろう。エマは? エドは? アキヒトは?
 ポロンもフローラもスラちゃんも。ドラくんは、無事なのかな)


 ……あぁ、思い浮かぶのは大切な人のことばかり。この現実から逃げるための材料。
 結果、私は自分勝手だ。逃げたいんだ、結局。


 そのとき、足音がした。
 一歩ずつ、階段を上っているようだ。そしてだんだんと、私に近づく。

 ……あいつだ。体がグッと硬くなる。

 ゆっくりと扉が開き、予想通りの人が入ってくる。と同時に、扉の向こうでなにかの咆哮のようなものが聞こえる。


(……今のって、なに?)

「おっと、起きてたんだね」

「――! ――――!」

「あ、そういえばね、今ウタくんが下で五体のワイバーンと戦ってるよ」

「――?!」

「まぁ、レベル2000の彼には足止めくらいにしかならないだろうけど。
 それでいいんだ。時間がほしかったんだから」


 そういうと、ミーレスは扉を中から閉め、指でその扉をなぞり、魔方陣を描く。


「知ってる? この魔法」

(……グライド……有名な、罠だ)

「知ってるかな、まぁ。この扉を彼が開けたら罠が発動して、捕らえたうえで、闇魔法を使って、根本から染めてあげるよ」


 そんなのダメだ。父上も母上もおらず、今、何かあったときに国をさえられる人はエドとエマ、そしてウタくらいだろう。
 しかし無情にも罠はまんまと完成し、ウタを待ち受ける。


「罠があると分からない状態で回避するには、絶望的なものだよね、これ。
 ねぇ、アリアはどう思う? 血に染まった彼は美しいかな?」

「…………」


 きっと……美しくはない。私がそれを見て、泣き叫ぶくらいには。


(……あぁ、そっか。声がでなきゃ、それも出来ないんだ)


 それからしばらく経ち、私は息をするのも忘れて、扉の外に耳をそばだてた。


(…………あ)


 階段を駆け上がる足音が一つ。


「――――っ!」


 私の声は、届いたのか。それとも……。
 扉は勢いよく開け放たれ、罠が発動する。黒い霧は視界を奪い、神経を麻痺させる。

 勝ち誇ったようなミーレスの首に、闇を切り裂くように現れた銀色の剣の切っ先が突きつけられる。突然のことに避けきれなかったのか、彼の頬をかすった。


「……そんな……どうして分かった!?」


 そこには、左手で口を覆い、無傷で立つウタがいた。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 ワイバーンに囲まれ、まずいと思っていたのだが……。


「……あれ?」


 彼らはただ大人しくその場にいるだけだった。


「えっと……大丈夫? どこか痛くない?」


 試しにそう聞いてみると、首を横にブンブン振る。そして、優しくすり寄ってきた。ちょっとくすぐったい。


「わわ! 分かった! 分かったからさ!」


 ドラくんたちとは違って、言葉は喋れないみたいだ。でも、動きに理性が見える。どうやら、ちゃんと闇は払われたようだ。


「……ここ、通してもらえる?」


 僕が声をかけると、ワイバーンたちはすっと道を開けた。


「ありがとう」


 僕が言うと、首で背中を押して、『早く行け』と急かしてくる。視線は、あの部屋にあった。


「……うん、ありがと」


 僕は一気に階段を駆け上る。なかなか段数は多かったけど、そんなの問題じゃない。そして、扉の前に来て、開けようとドアノブに手をかける。


「――――っ!」


 ――アリアさん?
 …………分かりました。それなら……。

 僕は勢いを弱めることなく扉を開いた。黒い霧が僕の動きを封じようと襲いかかる。
 でも、分かっていた僕にはたいした問題じゃない。

 左腕を口の前に。黒い霧を吸わないようにしながら、僕は剣をミーレスの首に突きつける。……避けられたようだが、少しは手応えがあった。


「……そんな……どうして分かった!?」


 ミーレスのその言葉を聞きながら、僕はアリアさんの前に立ちふさがる。


「アリアさんが、教えてくれましたから」
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