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声にならない声を聞いて
手がかり
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旅の続行をアリアさんが宣言した数十分後、僕らはお屋敷に戻っていた。というのも、やはり、あれだけの戦いをしたあとだ。僕もアリアさんも、かなり疲れてしまっていた。
自分の部屋に入り、ベッドに横になって伸びをする。今夜は、久しぶりにゆっくり眠れそうな気がする。というか、もうすでに眠い。
うつらうつらとしていると、不意に、扉がコンコンとノックされた。僕は、自分でもどうしてなのか分からないが、その音を聴いて、ベッドから起き上がり、無意識に言っていた。
「アリアさんですか?」
すると、ガチャッと扉が開く音がして、驚いた表情のアリアさんが入ってきた。僕は起き上がった体を横にして、ベッドに座る。
「なんか……もはやちょっと凄いを通り越してるな。お前は私の声だけじゃなくてノック音も分かるのか?」
「え? ……そういえば、そうですね。なんとなくアリアさんだなーって思って返事してました」
「ったく、お前ってやつは。どっかこう、抜けてるんだよな」
やれやれと言った感じで首を横に振ると、アリアさんは「隣いいか?」と言って、ベッドの上、僕のとなりに腰かけた。なんか、ちょっとだけドキッとしてしまう。
「なぁウタ。改めて言うことでもないんだろうけどさ……」
「はい?」
「助けてくれて、ありがとう」
あ、ヤバイ。今顔赤くなってるな。
そう分かるほど顔がカーっと熱くなって、鳥肌が立って、僕は言葉を失った。
「あ、え、えーっと……たた、助けたなんて、そんな滅相もないでござりまするー」
「どうしたウタ」
「どうもこうもしてないですよはい」
「どうもこうもしてるだろ、これ」
僕をからかうように笑ったアリアさんは、少し寂しそうに言った。
「本当はな……父上には悪いけど、ちょっとだけ期待していたんだ」
「期待?」
「ディランは……その、いいやつだ。父上が殺されたって事実を聞いたら、もしかしたら、戻ってきてくれるかもしれないって。困ってたら助けてくれるって、約束で……」
「…………」
でも、アリアさんのその予想は外れた。こんなことが起こっても、ディランさんは帰っては来なかった。このことを知らなかったのか? それとも、知ってても来なかったのか? もしくは……何か、来れない事情があったのか?
「分かりませんね……それらしき人は見ていませんし」
「少なくとも、私の目の前には現れていない。あいつだったら、100%気づく自信がある。
……私が本気で愛したやつなんて、片手で数えるくらいもいないからな」
「……そう、ですか」
やっぱり、ディランさんは来ていなかったのか。そう思ったとき、アリアさんの目が、何かに止まる。
「…………おい」
「はい?」
「ウタ…………」
アリアさんの声色が変わる。何かと思って、何も言えずに黙っていると、アリアさんはフラフラと立ち上がって、机の前に立った。
「……これ、どうした?」
「これ…………? あ、それは」
アリアさんが持っていたのは、小さな巾着袋。あの、金色の紐、紫色の布に、金色の糸で、ちょっと不格好な蝶の刺繍がされている、綺麗な袋だ。
「それは、貰ったというか、預けられたというか……」
「……どういうことだ?」
「えっとですね……。
アリアさんが拐われて、そのあと、ドラくんとか塊'sとかに助けられて、僕はまた追いかけたんですけど、その時に、森の中でうずくまってる人を見つけたんです」
「…………」
神妙な面持ちでその話を聞くアリアさん。……な、なんなんだろう。この袋、何かヤバイものなのかな?
「そ、それでですね、なんか放っておけなくて……声をかけたんです。そしたら大丈夫だからって言われて……。
あっ! 聖剣のこととかも教えてもらいましたよ!
そのあと、アリアさんを助けに行こうとしたら、それを持っててほしいって言われて……。言われるがままに受け取ったら、その人はもういなくて」
「…………そうか」
アリアさんはそこまで聞いて、ようやくそう、一言漏らした。僕はいい加減気になってきて立ち上がり、アリアさんの隣に行った。
「アリアさん、それで、これは一体どういう――」
僕は、そこで声を、言葉を失った。何を言ったらいいのか、さっぱり分からなくなってしまったのだ。
……目の前のアリアさんは、巾着を持ったまま、泣いていた。それも、声をあげてとかそういう感じじゃなくて、涙だけが、ただ溢れているような……。
「どどど、どうしたんですかアリアさん!? ぼ、僕、何か変なこと言いましたっけ!?」
「……あのな、」
アリアさんは涙をぬぐいつつ、ほんの少しだけ笑って、巾着を胸に抱いた。
「これは……私が、作ったんだ」
「え……?」
「私が、小さい頃に……お守りって言って、作って、ディランに渡したんだ……」
「え!? つ、つまり、僕が会ったのって……」
アリアさんはうなずき、困ったように笑いながら、手の中の巾着を見た。
「こんな……刺繍とかガタガタだし、不格好だし……こんな、こんながらくたみたいなやつ、まだ持ってたのか、あいつ…………」
ディラン・キャンベルさんは、マルティネスに帰ってきていた。僕が会ったのが、そうだったのだ。
エヴァンさんが殺され、やはり、アリアさんのことが心配だったのだろう。だから、戻ってきた。
しかし、僕が見たディランさんは、聞いていた容姿と全く違ったし、酷く弱っているみたいだった。それに、アリアさんに会わないで帰ったことを考えると……なにか、あるのだろうか?
しかし僕らは、重要な手がかりを得たことに、変わりはなかった。
自分の部屋に入り、ベッドに横になって伸びをする。今夜は、久しぶりにゆっくり眠れそうな気がする。というか、もうすでに眠い。
うつらうつらとしていると、不意に、扉がコンコンとノックされた。僕は、自分でもどうしてなのか分からないが、その音を聴いて、ベッドから起き上がり、無意識に言っていた。
「アリアさんですか?」
すると、ガチャッと扉が開く音がして、驚いた表情のアリアさんが入ってきた。僕は起き上がった体を横にして、ベッドに座る。
「なんか……もはやちょっと凄いを通り越してるな。お前は私の声だけじゃなくてノック音も分かるのか?」
「え? ……そういえば、そうですね。なんとなくアリアさんだなーって思って返事してました」
「ったく、お前ってやつは。どっかこう、抜けてるんだよな」
やれやれと言った感じで首を横に振ると、アリアさんは「隣いいか?」と言って、ベッドの上、僕のとなりに腰かけた。なんか、ちょっとだけドキッとしてしまう。
「なぁウタ。改めて言うことでもないんだろうけどさ……」
「はい?」
「助けてくれて、ありがとう」
あ、ヤバイ。今顔赤くなってるな。
そう分かるほど顔がカーっと熱くなって、鳥肌が立って、僕は言葉を失った。
「あ、え、えーっと……たた、助けたなんて、そんな滅相もないでござりまするー」
「どうしたウタ」
「どうもこうもしてないですよはい」
「どうもこうもしてるだろ、これ」
僕をからかうように笑ったアリアさんは、少し寂しそうに言った。
「本当はな……父上には悪いけど、ちょっとだけ期待していたんだ」
「期待?」
「ディランは……その、いいやつだ。父上が殺されたって事実を聞いたら、もしかしたら、戻ってきてくれるかもしれないって。困ってたら助けてくれるって、約束で……」
「…………」
でも、アリアさんのその予想は外れた。こんなことが起こっても、ディランさんは帰っては来なかった。このことを知らなかったのか? それとも、知ってても来なかったのか? もしくは……何か、来れない事情があったのか?
「分かりませんね……それらしき人は見ていませんし」
「少なくとも、私の目の前には現れていない。あいつだったら、100%気づく自信がある。
……私が本気で愛したやつなんて、片手で数えるくらいもいないからな」
「……そう、ですか」
やっぱり、ディランさんは来ていなかったのか。そう思ったとき、アリアさんの目が、何かに止まる。
「…………おい」
「はい?」
「ウタ…………」
アリアさんの声色が変わる。何かと思って、何も言えずに黙っていると、アリアさんはフラフラと立ち上がって、机の前に立った。
「……これ、どうした?」
「これ…………? あ、それは」
アリアさんが持っていたのは、小さな巾着袋。あの、金色の紐、紫色の布に、金色の糸で、ちょっと不格好な蝶の刺繍がされている、綺麗な袋だ。
「それは、貰ったというか、預けられたというか……」
「……どういうことだ?」
「えっとですね……。
アリアさんが拐われて、そのあと、ドラくんとか塊'sとかに助けられて、僕はまた追いかけたんですけど、その時に、森の中でうずくまってる人を見つけたんです」
「…………」
神妙な面持ちでその話を聞くアリアさん。……な、なんなんだろう。この袋、何かヤバイものなのかな?
「そ、それでですね、なんか放っておけなくて……声をかけたんです。そしたら大丈夫だからって言われて……。
あっ! 聖剣のこととかも教えてもらいましたよ!
そのあと、アリアさんを助けに行こうとしたら、それを持っててほしいって言われて……。言われるがままに受け取ったら、その人はもういなくて」
「…………そうか」
アリアさんはそこまで聞いて、ようやくそう、一言漏らした。僕はいい加減気になってきて立ち上がり、アリアさんの隣に行った。
「アリアさん、それで、これは一体どういう――」
僕は、そこで声を、言葉を失った。何を言ったらいいのか、さっぱり分からなくなってしまったのだ。
……目の前のアリアさんは、巾着を持ったまま、泣いていた。それも、声をあげてとかそういう感じじゃなくて、涙だけが、ただ溢れているような……。
「どどど、どうしたんですかアリアさん!? ぼ、僕、何か変なこと言いましたっけ!?」
「……あのな、」
アリアさんは涙をぬぐいつつ、ほんの少しだけ笑って、巾着を胸に抱いた。
「これは……私が、作ったんだ」
「え……?」
「私が、小さい頃に……お守りって言って、作って、ディランに渡したんだ……」
「え!? つ、つまり、僕が会ったのって……」
アリアさんはうなずき、困ったように笑いながら、手の中の巾着を見た。
「こんな……刺繍とかガタガタだし、不格好だし……こんな、こんながらくたみたいなやつ、まだ持ってたのか、あいつ…………」
ディラン・キャンベルさんは、マルティネスに帰ってきていた。僕が会ったのが、そうだったのだ。
エヴァンさんが殺され、やはり、アリアさんのことが心配だったのだろう。だから、戻ってきた。
しかし、僕が見たディランさんは、聞いていた容姿と全く違ったし、酷く弱っているみたいだった。それに、アリアさんに会わないで帰ったことを考えると……なにか、あるのだろうか?
しかし僕らは、重要な手がかりを得たことに、変わりはなかった。
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