227 / 387
おばけ? 妖怪? 違います!
戻ってきた
しおりを挟む
「……ぃ…………にぃ……」
思考にもやがかかってハッキリとしない。頭がズキズキと痛む。なんなんだろう、この痛みは……。
「……たにぃ…………」
何があったっけ? 森に来ていて……ドラくんがマルティネスに……ポロンくんとフローラが、怪しい人影を追いかけて、僕とアリアさんとスラちゃんは…………。
……鼻の奥が、つんと痛くなる。これは、僕がよく知っている感覚。よく知っている感情。そして、スラちゃんがいつも和らげてくれていた感情。
「ウタ兄! ……起きてくれよ、ウタ兄……!」
「…………ポロンくん……」
僕は地面に横たわったまま、そっとポロンくんの頬に手を伸ばす。泣きはらした後なのか、鼻と目元は真っ赤で、それを見る僕の頬にも、つぅと涙が伝った。
「よかった……本当によかった…………!」
体を起こすと、またズキリと頭が痛む。そっと頭を抱えながら、横目で周りを見渡す。
少し離れたところにアリアさんが倒れていて、それをフローラが抱き起こしている。もう少し視野を広げると、警戒するように辺りを見渡すドラくんの姿があった。
そして、スラちゃんの姿はない。
「僕らは……なにが……」
「と、とにかく、一旦体を落ち着けてくれよ。おいらたちも何も分からないんだ。落ち着いて、思い出してくれ」
ゆっくりと記憶をたどる。あのとき……そうだ。二人が人影を追いかけていって、ワイバーンが現れて、なんとか倒して、そのあと足元に魔方陣が……。そしたら急に意識がなくなって、それで、スラちゃんの顔を見て……。
そこで、ハッとする。
あの魔法、スラちゃんには効いていなかった。
対象にされていなかったからか、または、そういう類いの魔法だったからか。どちらにせよ、ここにスラちゃんはいない。最初からスラちゃんを拐うのが目的だったとするならば……。
頭痛がする。思考がそこで途切れる。頭が回らない。どうするべきかが分からない。頭の中がぐちゃぐちゃになって、もう訳が分からない。
「うっ……」
かすかな呻き声がして、アリアさんが体を起こしたのが見えた。頭を抱え、その場にうずくまる。
なんとか助けないと――。そう思いつつも、頭が働かない。
「……何かの気配……人がいるのか?」
ドラくんが不意にそんなことを言う。すると、僕を守るように立ち上がったポロンくんは、懐からナイフを取り出して構えた。
「人……?! もしかして、さっきの」
「違うよー?」
戸惑い警戒する僕らの前に、木々の隙間から現れたのはアイリーンさんだった。
「アイリーン?! 何でおいらたちのこと」
「千里眼使えば、場所くらい分かるってー!」
たたたっと僕らに駆け寄ってきたアイリーンさんは、僕の口にチョコレートをねじ込む。
「んんんんっ?!」
「はーい、アリアさんもー!」
「わ……んんっ…………うまいな」
チョコレートの効果なのか、もやがかかっていた頭が、だんだんと晴れてくる。思考回路がしっかりとする。
一度ゆっくり目を閉じて、深く息を吸って、吐いて、また目を開ける。自分に余裕が出てきた僕はアリアさんの方を見た。
「アリアさん」
「大丈夫だ。チョコレートのおかげかな。お前は?」
「僕も大丈夫ですよ。……あの魔方陣、罠か何かだったんですかね」
「罠だよ」
アイリーンさんが断言する。その瞳の奥には、いつもとは違う光が燃えていた。
「グランス。水と闇、両方の属性を持ってる罠で、空気中の水蒸気に毒を混ぜることで一時的な麻痺を与えることと、相手の思考にもやをかけることができる。
水蒸気なんて空気中に星の数ほどあるからさー、ほぼ避けるのは不可能だね。何せ毒が回るのも超早いしー、継続時間は10分。10分も息止めたままって言うのはねー」
ちなみに、と、アイリーンさんが付け足す。
「水属性を含んでるから、スラちゃんにはほぼ無効、かなー」
そうか……だからスラちゃんは普通に動いていられたんだ。
そんな風に勝手に納得しつつ、僕は目の前のアイリーンさんをまじまじと見つめた。
「……なんで、アイリーンさんが…………?」
「なんでってー?」
「普段はおさくさんが……」
「……一人じゃー、説得力というか、量の問題で? 理解してくれないかもなーって。……直接的には言えないし」
それって、おさくさんが言っていた、『一歩引いて』の話だろうか。それは、スラちゃんとなにか関係あるのだろうか?
「おさくの跡を継いで、ゆっくり話そうと思ったのにー、思ったより動きが早いんだからなー、もー。
とにかく、まずはここでなにがあったのか教えてあげるねー」
そう言ってアイリーンさんは地面に座り、話始めた。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
……変な臭い。
頭が痛い。
ウタ……アリア……?
誰もいない。
「誰か!」……叫んでみたけど、聞こえない。
自分の頬に触れてみた。……冷たい。
足に触れてみた……もっと冷たい。
目の前に手を伸ばしてみた……何かに阻まれた。
暗い。怖い。
ウタ……。アリア……。
周りを、液体で満たされている。
息ができる不思議な液体。
その中に、違うものが溶けていくのが分かった。
また……戻ってきてしまった。
連れ戻された。
そう、確信した。
思考にもやがかかってハッキリとしない。頭がズキズキと痛む。なんなんだろう、この痛みは……。
「……たにぃ…………」
何があったっけ? 森に来ていて……ドラくんがマルティネスに……ポロンくんとフローラが、怪しい人影を追いかけて、僕とアリアさんとスラちゃんは…………。
……鼻の奥が、つんと痛くなる。これは、僕がよく知っている感覚。よく知っている感情。そして、スラちゃんがいつも和らげてくれていた感情。
「ウタ兄! ……起きてくれよ、ウタ兄……!」
「…………ポロンくん……」
僕は地面に横たわったまま、そっとポロンくんの頬に手を伸ばす。泣きはらした後なのか、鼻と目元は真っ赤で、それを見る僕の頬にも、つぅと涙が伝った。
「よかった……本当によかった…………!」
体を起こすと、またズキリと頭が痛む。そっと頭を抱えながら、横目で周りを見渡す。
少し離れたところにアリアさんが倒れていて、それをフローラが抱き起こしている。もう少し視野を広げると、警戒するように辺りを見渡すドラくんの姿があった。
そして、スラちゃんの姿はない。
「僕らは……なにが……」
「と、とにかく、一旦体を落ち着けてくれよ。おいらたちも何も分からないんだ。落ち着いて、思い出してくれ」
ゆっくりと記憶をたどる。あのとき……そうだ。二人が人影を追いかけていって、ワイバーンが現れて、なんとか倒して、そのあと足元に魔方陣が……。そしたら急に意識がなくなって、それで、スラちゃんの顔を見て……。
そこで、ハッとする。
あの魔法、スラちゃんには効いていなかった。
対象にされていなかったからか、または、そういう類いの魔法だったからか。どちらにせよ、ここにスラちゃんはいない。最初からスラちゃんを拐うのが目的だったとするならば……。
頭痛がする。思考がそこで途切れる。頭が回らない。どうするべきかが分からない。頭の中がぐちゃぐちゃになって、もう訳が分からない。
「うっ……」
かすかな呻き声がして、アリアさんが体を起こしたのが見えた。頭を抱え、その場にうずくまる。
なんとか助けないと――。そう思いつつも、頭が働かない。
「……何かの気配……人がいるのか?」
ドラくんが不意にそんなことを言う。すると、僕を守るように立ち上がったポロンくんは、懐からナイフを取り出して構えた。
「人……?! もしかして、さっきの」
「違うよー?」
戸惑い警戒する僕らの前に、木々の隙間から現れたのはアイリーンさんだった。
「アイリーン?! 何でおいらたちのこと」
「千里眼使えば、場所くらい分かるってー!」
たたたっと僕らに駆け寄ってきたアイリーンさんは、僕の口にチョコレートをねじ込む。
「んんんんっ?!」
「はーい、アリアさんもー!」
「わ……んんっ…………うまいな」
チョコレートの効果なのか、もやがかかっていた頭が、だんだんと晴れてくる。思考回路がしっかりとする。
一度ゆっくり目を閉じて、深く息を吸って、吐いて、また目を開ける。自分に余裕が出てきた僕はアリアさんの方を見た。
「アリアさん」
「大丈夫だ。チョコレートのおかげかな。お前は?」
「僕も大丈夫ですよ。……あの魔方陣、罠か何かだったんですかね」
「罠だよ」
アイリーンさんが断言する。その瞳の奥には、いつもとは違う光が燃えていた。
「グランス。水と闇、両方の属性を持ってる罠で、空気中の水蒸気に毒を混ぜることで一時的な麻痺を与えることと、相手の思考にもやをかけることができる。
水蒸気なんて空気中に星の数ほどあるからさー、ほぼ避けるのは不可能だね。何せ毒が回るのも超早いしー、継続時間は10分。10分も息止めたままって言うのはねー」
ちなみに、と、アイリーンさんが付け足す。
「水属性を含んでるから、スラちゃんにはほぼ無効、かなー」
そうか……だからスラちゃんは普通に動いていられたんだ。
そんな風に勝手に納得しつつ、僕は目の前のアイリーンさんをまじまじと見つめた。
「……なんで、アイリーンさんが…………?」
「なんでってー?」
「普段はおさくさんが……」
「……一人じゃー、説得力というか、量の問題で? 理解してくれないかもなーって。……直接的には言えないし」
それって、おさくさんが言っていた、『一歩引いて』の話だろうか。それは、スラちゃんとなにか関係あるのだろうか?
「おさくの跡を継いで、ゆっくり話そうと思ったのにー、思ったより動きが早いんだからなー、もー。
とにかく、まずはここでなにがあったのか教えてあげるねー」
そう言ってアイリーンさんは地面に座り、話始めた。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
……変な臭い。
頭が痛い。
ウタ……アリア……?
誰もいない。
「誰か!」……叫んでみたけど、聞こえない。
自分の頬に触れてみた。……冷たい。
足に触れてみた……もっと冷たい。
目の前に手を伸ばしてみた……何かに阻まれた。
暗い。怖い。
ウタ……。アリア……。
周りを、液体で満たされている。
息ができる不思議な液体。
その中に、違うものが溶けていくのが分かった。
また……戻ってきてしまった。
連れ戻された。
そう、確信した。
0
あなたにおすすめの小説
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる