チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

文字の大きさ
287 / 387
届かない想いに身を寄せて

その反対へ

しおりを挟む
「レイナ……っ!」


 アリアさんがその『闇』へ向かっていく。しかし、ドラくんでさえ弾かれてしまった闇だ。そう簡単に近づけるはずかない。


「ね、姉さん……! そんな、僕は」

「ロイン! ダメだよ、自分を否定しちゃダメだ! レイナさんにとって、ロインの存在は大きかった! 否定なんてしちゃダメだ!」

「ウタ……」


 僕は叫び、ドラくんに問いかけた。


「あの闇がなんなのか分かる?!」

「……アディーガのようだが、そうでもない。アディーガの先……すまない、詳しくは分からない。だが、あの中にいて良いことなどなさそうだ」

「そっか」


 ブリスが、嗤う。


「バカだなぁ! 俺は本当のことを言っただけだってのに、自己否定しちまうなんてなぁ。
 ……こいつは国民に信頼されてると思ってたのか? あぁ、バカだなぁ……バカだなぁっははっ!」


 そのとき僕の……そしてアリアさんの頭によぎったのは、あのときの、あいつの顔だった。そしてその後の絶望と、痛み。
 あのときのあいつだって……きっと、真実を語っただけだった。だけど……それが、どれだけアリアさんを苦しめたのか……僕にはよく分かっている。

 さんざん自分のせいだと言われ、倒れて、声も失って、人の善意を受けることすら恐ろしくなって。
 黒い魔法で貫かれて、何度も傷つけられて、自分が生きることすらも否定した。

 それを、僕は肯定した。


「…………」

「お? どうした? 諦めたのか?
 それが正しいな。あの闇から出るには自己否定をやめなきゃいけない。今のあいつには無理な話だ。一人であの中からなんて出てこれないさ。壊すのだって簡単じゃないぞ?」


 諦める……諦めるのは、簡単じゃない。自分の手の届かないところへ消え去ったとしても、諦めることなんてそう簡単に出来やしない。
 少し自分より強いからなんだ。有利なスキルがあるからなんだ。僕は……助けたいって、思ったんだ。頼りたいと言ってくれたなら、それに答えなきゃいけないって、思ったんだ。

 その僕の想いに、アリアさんもまた、答えてくれたのだ。
 雷を呼びよせ、窓を割り、鎖を引きちぎり、僕の前に立ったのだ。自分でさえ否定していた自分の『可能性』を、あのとき確かに、形にしていたのだ。
 レイナさんにだって、まだ、『可能性』があるはずだ。限界は、自分が思うよりも上にある。

 ブリスの挑発に笑い声……僕らは、その言葉に返さない。返さないまま目をそらさないまま僕は、そっと、アリアさんに声をかける。


「……アリアさん」

「どうした」

「僕は今……すごく、言いたいことがあります」

「奇遇だな……私も、言いたいことがある」

「……あはは、多分きっともしかして、思ってること一緒ですね」

「なに不確かなこと言ってんだ。もっと確かだろう?」

「……ウタ殿、アリア殿?」


 ドラくんの不思議そうな声を聞きながら、僕らは、ブリスをしっかりと見据えた。


「せーのでいくか」

「ですね。いきますよ……せーのっ!」


 僕らは、同時に飛び出した。その速さに、高さに、ブリスが驚いているのが分かる。でもそんなこと今はどうでもいい。
 僕らは振り上げた剣を勢いよく振り下ろしながら叫ぶ。


「お前の主観で!」

「レイナの価値や限界を決めるなっ!」


 振り下ろした剣。そこから放たれた魔法は勢いよく地面に叩きつけられ、床に穴を開ける。咄嗟に空中に体制を立て直したブリスだったが、それでも、一瞬の隙が生まれる。


「アリアさん!」


 僕がそちらを見ると、どこか覚悟を決めたようなアリアさんの顔があった。それを見て、僕はどこか安心して微笑んだ。


「……行け、ますよね?」


 ……闇は、心の傷は…………ちょっとやそっとじゃ埋まりはしない。アリアさんだって、例外じゃない。きっと、まだトラウマと言う名の傷が深く残っていて、かさぶたになっているかさえ怪しい。もしかしたら、まだ血を流しているのかもしれない。いや、もしかしたらじゃない。きっとそうなのだ。僕らを心配させまいと、アリアさんが隠しているだけで。
 それでもきっと、アリアさんならば大丈夫だと……僕は、思ったのだ。


「…………おいウタ殿、お主、まさかアリア殿に……」


 ドラくんがそこから先を言う前に、アリアさんは僕らに向かって柔らかく微笑んだ。


「……お前、本気でそれ聞いてるのか?」

「アリア姫…………?」

「――愚問だな」


 アリアさんは、剣をしっかりと握り直す。とたんに、その体から魔力が溢れる。あのとき見たような、強く光輝く魔力が、溢れて、目に見える。
 これが……アリアさんの『勇気』
 アリアさんにとっての自己犠牲。自分の恐怖を押し潰して誰かを助ける……それが、アリアさんの『自己犠牲』


「行けないわけないだろ? 私が。
 ……そっちは任せたぞ! 必ず戻る!」

「もちろんです!」


 アリアさんは、『闇』に向かって走る。僕は立て直したブリスに向き合う。
 きっとアリアさんは、ブリスや、僕や、アリアさん自身が思っているよりも簡単に、闇の中に入れるだろう。そして、帰ってくる。

 誰かが自己否定を続けるのなら、僕らはその反対へ。
 誰かの肯定を続けよう。今は、レイナ・クラーミル、その人の存在の肯定を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...