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届かない想いに身を寄せて
そんなに弱くない
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僕がブリスに向かって駆け出す。それとほぼ同時に、背後でアリアさんが闇を切り裂く気配を感じた。
……大丈夫、アリアさんはきっと帰ってくる。そんなこと、僕にはとっくに分かっている。だから、振り向かずにブリスに剣を向けることができた。
「闇を……?!」
「ウタ殿! ……アリア殿は」
ロインもドラくんも、アリアさんがあの中に入れたことに、少なからず驚いていた。でも、僕はそんなに驚いてはいない。どちらかというと……安心が強かった。
――なんだ、あの闇はアリアさんやレイナさんが抱いた本当の闇に比べれば、大したことないんだ、と。
「……入れたところでなんだ。出てこれなきゃ意味がないだろう?」
まるで、あの二人が出てこれるわけないと言うかのように、ブリスは笑う。……僕は、そのブリスの考えを全否定しながら、剣を振りかぶった。
「少なくともアリアさんは……あなたが思っているほど、弱くないです。レイナさんだって、弱くない。
常に誰かに支えられなきゃ生きていけない。自分の闇に飲み込まれる。生を否定して死ぬことを望む……。二人は、そんなに弱くない」
振り下ろした剣を、ブリスは黒い剣で受けとめた。しかしそれでは受け止めきれなかったのか、勢いに負けて後ずさる。
その力にわずかに驚いたような表情を見せたが、僕がブリスの前で『勇気』を発動させるのは初めてじゃない。すぐに冷静になって、僕に魔法を放つ。
「カプリチオ!」
「…………」
それとほぼ同時か、少し早いくらいで、僕は聖剣に光魔法を宿した。
……カプリチオ。もはや懐かしい。あのときの僕を、アリアさんを、止めようとしたミーレスの魔法。触れてしまえば、回復魔法はほぼ無力となる。
(……狙っているのは、僕だけ。なら)
それならば、触れずに斬ってしまえばいい。
光を宿した剣で、僕に襲いかかる魔法を、すべて切り裂いた。ついでのように襲ってくる操影は、軽く手を薙いだだけで消えた。
「……ブリス、悪魔っていうのは、人の心に闇を植え付けるものなの?」
「…………あ?」
苛立ったように、ブリスが僕の言葉に反応する。そして、小さく舌打ちして、殺意を込めた目で僕を睨み付けた。
「……あぁ……あぁそうさ! それこそが悪魔の指名であり生きざまだ! そうすることで、俺は、ずっと生きてきたんだ!
それの何が悪い? 俺を完全悪として、お前らは違うのか!? 骨の髄まで真っ白か! あぁそうかそうか。それが人間様の偽善ってやつか。……反吐が出るね」
「……そっか」
僕は、自分でもびっくりするほど、それを、冷静に受けとめた。だから、自分の口から出た一言に、酷く冷たいものも感じたのだ。
「ならお前は、僕らに勝てない」
「なぜそう言いきれる? マルティネス・アリアとレイナ・クラーミル。その二人があそこから出てきたときに闇に呑まれていないと、なぜ言いきれる? お前に何が分かっている?」
……僕からすれば、とても、簡単な話だった。例えば中に入ったのが、ポロンくんやフローラ、ドラくんだったら、僕はもっと心配してるだろう。力の強弱じゃない。心の強弱じゃない。『経験』だ。きっとアリアさん以外は、その『経験』をしていないから。
「アリアさんは……もうずいぶん前に、闇を受け入れているから」
「…………」
「だから、呑み込まれることはない。受け入れるための方法も、きっとちゃんと分かっている。だから、二人は無事に出てくる。僕はそう思うんだ」
あのときは……知らなかった。
アリアさんは、闇を受け入れて、次に進むための方法もなにも知らなかった。だから、簡単に呑み込まれて、声を失った。
でも、二度は同じことは起きない。
「……感情で揺さぶることが出来なくたってなぁ、力でねじ伏せることはできんだよ」
ブリスは、足元に魔方陣を展開する。……見たことがない形だった。それを見たドラくんが僕に叫ぶ。
「ウタ殿! 元の姿に戻る。いいな!?」
「……うん、ロインはこっちに来て! 手伝って!」
「わ、わかった……」
僕らは、アリアさんたちが戻ってくるまでの間、耐えれば良い。個性の塊'sが戻ってくるまでの間……。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「……よかったの、ジュノン?」
「なにが?」
「なにがって……あいつの提案、受け入れちゃってさー」
おさくの言葉を聞きながら、ジュノンは下を見下ろす。
広がった闇。悪魔と対峙する少年。城の入り口付近で屯する国民と、その侵入を防ぐ人の姿。
「良くはないけどさ、ある意味でこれは、裏を示すことになるんじゃないかなって」
「どういうこと?」
はてなを浮かべる他のメンバーに、ジュノンは告げる。
「あいつは、二人の力が私たちを越えるなら、世界が滅びるって言ってた。それって逆に、二人の力が私たちを越えないなら、世界は滅びないってことじゃない?」
ま、裏が真でも命題が偽とは限らないけどね、とジュノンは言いつつ、可能性は確かに感じていた。
もし、二人の力が自分達を越えることが、ただの一瞬もないのなら……そもそも世界を滅ぼすだけの力は持ち合わせていないということになるのだから。
そして、もう一つ。……女神はあぁ言っていたが、個性の塊'sを『勇気』が越えるなら、二人はほぼ確実に世界を滅ぼすということではないか、と。
自分達でさえ、殺せない相手なのだから。
……大丈夫、アリアさんはきっと帰ってくる。そんなこと、僕にはとっくに分かっている。だから、振り向かずにブリスに剣を向けることができた。
「闇を……?!」
「ウタ殿! ……アリア殿は」
ロインもドラくんも、アリアさんがあの中に入れたことに、少なからず驚いていた。でも、僕はそんなに驚いてはいない。どちらかというと……安心が強かった。
――なんだ、あの闇はアリアさんやレイナさんが抱いた本当の闇に比べれば、大したことないんだ、と。
「……入れたところでなんだ。出てこれなきゃ意味がないだろう?」
まるで、あの二人が出てこれるわけないと言うかのように、ブリスは笑う。……僕は、そのブリスの考えを全否定しながら、剣を振りかぶった。
「少なくともアリアさんは……あなたが思っているほど、弱くないです。レイナさんだって、弱くない。
常に誰かに支えられなきゃ生きていけない。自分の闇に飲み込まれる。生を否定して死ぬことを望む……。二人は、そんなに弱くない」
振り下ろした剣を、ブリスは黒い剣で受けとめた。しかしそれでは受け止めきれなかったのか、勢いに負けて後ずさる。
その力にわずかに驚いたような表情を見せたが、僕がブリスの前で『勇気』を発動させるのは初めてじゃない。すぐに冷静になって、僕に魔法を放つ。
「カプリチオ!」
「…………」
それとほぼ同時か、少し早いくらいで、僕は聖剣に光魔法を宿した。
……カプリチオ。もはや懐かしい。あのときの僕を、アリアさんを、止めようとしたミーレスの魔法。触れてしまえば、回復魔法はほぼ無力となる。
(……狙っているのは、僕だけ。なら)
それならば、触れずに斬ってしまえばいい。
光を宿した剣で、僕に襲いかかる魔法を、すべて切り裂いた。ついでのように襲ってくる操影は、軽く手を薙いだだけで消えた。
「……ブリス、悪魔っていうのは、人の心に闇を植え付けるものなの?」
「…………あ?」
苛立ったように、ブリスが僕の言葉に反応する。そして、小さく舌打ちして、殺意を込めた目で僕を睨み付けた。
「……あぁ……あぁそうさ! それこそが悪魔の指名であり生きざまだ! そうすることで、俺は、ずっと生きてきたんだ!
それの何が悪い? 俺を完全悪として、お前らは違うのか!? 骨の髄まで真っ白か! あぁそうかそうか。それが人間様の偽善ってやつか。……反吐が出るね」
「……そっか」
僕は、自分でもびっくりするほど、それを、冷静に受けとめた。だから、自分の口から出た一言に、酷く冷たいものも感じたのだ。
「ならお前は、僕らに勝てない」
「なぜそう言いきれる? マルティネス・アリアとレイナ・クラーミル。その二人があそこから出てきたときに闇に呑まれていないと、なぜ言いきれる? お前に何が分かっている?」
……僕からすれば、とても、簡単な話だった。例えば中に入ったのが、ポロンくんやフローラ、ドラくんだったら、僕はもっと心配してるだろう。力の強弱じゃない。心の強弱じゃない。『経験』だ。きっとアリアさん以外は、その『経験』をしていないから。
「アリアさんは……もうずいぶん前に、闇を受け入れているから」
「…………」
「だから、呑み込まれることはない。受け入れるための方法も、きっとちゃんと分かっている。だから、二人は無事に出てくる。僕はそう思うんだ」
あのときは……知らなかった。
アリアさんは、闇を受け入れて、次に進むための方法もなにも知らなかった。だから、簡単に呑み込まれて、声を失った。
でも、二度は同じことは起きない。
「……感情で揺さぶることが出来なくたってなぁ、力でねじ伏せることはできんだよ」
ブリスは、足元に魔方陣を展開する。……見たことがない形だった。それを見たドラくんが僕に叫ぶ。
「ウタ殿! 元の姿に戻る。いいな!?」
「……うん、ロインはこっちに来て! 手伝って!」
「わ、わかった……」
僕らは、アリアさんたちが戻ってくるまでの間、耐えれば良い。個性の塊'sが戻ってくるまでの間……。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「……よかったの、ジュノン?」
「なにが?」
「なにがって……あいつの提案、受け入れちゃってさー」
おさくの言葉を聞きながら、ジュノンは下を見下ろす。
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もし、二人の力が自分達を越えることが、ただの一瞬もないのなら……そもそも世界を滅ぼすだけの力は持ち合わせていないということになるのだから。
そして、もう一つ。……女神はあぁ言っていたが、個性の塊'sを『勇気』が越えるなら、二人はほぼ確実に世界を滅ぼすということではないか、と。
自分達でさえ、殺せない相手なのだから。
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