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届かない想いに身を寄せて
手段
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「ちょ……待ってくれよ! もう少し冷静に判断を」
「これくらいの状況、乗り越えてくれなきゃ困るんだよね。だって、こっちも命がけだよ?」
僕は……世界を救う可能性があると言われていた。しかし、今は逆に世界を滅ぼすと言われていて、ディランさんは世界を救ったときに生きていない可能性が高くて、てことはその逆も同じで……?
ダメだ、訳が分からない。と、とりあえずこの状況を打破しないと……!
「ぼ、僕は……」
「…………」
「……抗っ、て……みたい……です…………」
虫の鳴くような震えた声でそう告げる。するとらジュノンさんはそっとナイフを首筋から遠ざけた。とたんに力が抜けて椅子から転げ落ちそうになったが、後ろからそっと支えられる。
「うん、そっかそっか。そう言ってくれてよかったよ。私らも人は殺したくないからね」
「まぁ個性の塊's、人間は殺してないもんね」
「殺してなーい! 半殺しー!」
「さくっと怖いことを言うな、アイリーン」
個性の塊'sのやり取りに笑いながら、ジュノンさんは椅子に再び腰掛け、お茶をすすった。
「……一つずつ説明する。まず、『自己犠牲』の勇気について。
知ってる通り自分の限界を越えたときに『勇気』は発動する。自己犠牲が世界を救うかもって考えてたのはね、」
「…………」
「自己犠牲は、自分を犠牲にして他を助けようとする。そうすると、実質的に世界を守ろうとして、自分を犠牲にすることになる……って思ったからね」
……じゃあ、逆に考えて、自己防衛が世界を滅ぼすって言うのは、じぶん一人を守ろうとして世界を犠牲にするから、っていうことか。
「……みんななんか、分かってる顔してるね。そうそう。
自己防衛は世界を犠牲にする。自己犠牲は自分を犠牲にする。そういう風に考えたらさ、二つの勇気がぶつかって、自己防衛が勝ったら世界が滅びる……って思わない? 自己犠牲が勝てば世界は助かるって」
「……確かに思っていた。違うのか? だから個性の塊'sは、ウタを擁護していたんじゃないのか? 自己犠牲で死なないように」
アリアさんが言う。……そう、この説明だと、世界を守ったとき、僕は生きていない。もちろん、ディランさんも。……まぁ、その逆も然りなのだが。
しかし説明が合わないのだ。個性の塊'sは、僕が『生きていたら』世界が滅びると言っていた。だから殺すのだと。今の説明の通りだと、ディランさんが生きていたら、が正しくないだろうか? 僕を殺したって、ディランさんは世界を滅ぼすのだ。
「……今までは、そうだったの」
ドロウさんが意味深に呟く。それに続くようにして、アイリーンさんが口を開いた。
「ウタくんは多分、誰も殺せないけどー、ディランさんが魔王に操られてるだけなら魔王だけ倒せるんじゃないかなーって。
で、フラフラになっても生きていればチョコレートあるし!」
「でも強すぎた。
例えばあの瞬間……本当にジュノンが鎌を振り下ろしていたとして」
テラーさんと目が合う。その続く言葉は、何となくわかっていた。
「ウタくんは、死んでたのかな?」
「…………と、思いますけど」
「まぁ死んだとして『女神の加護』で生き返るんだろうけどねー!」
「それはともかくだよ」
ジュノンさんが、その場を仕切り直す。……強すぎる。それがいけないということなのか。
「いずれ、二人はぶつかることになる。それがいつになるかは分からないけど、きっとぶつかる。
……そのとき、巨大すぎる二つの『勇気』が生じる力で、世界が滅びる。らしいのね」
「らしい?」
「神様が言うには、そうみたいってこと。……でもジュノンは、そうは思ってないんでしょ?」
「ウタたちが助かる方法……あるの? ウタたちが助かって、世界も終わらないなんて方法、あるの?」
「ない訳じゃないと思う。ただ、確率は低い」
僕らは、黙りこんた。……僕は、密かに思っていたのだ。
正直……僕が死ぬだけでアリアさんたちがみんな助かるなら、それでもいい。それでみんなが幸せになれるなら、それでいい。
……だけど、ディランさんを死なせたくない。ディランさんの思考は『世界を滅ぼす』ことに執着している。どんな結末になろうと、ディランさんが生きている確率は恐ろしく低い。それを……アリアさんは、どう思うのだろう。
「……あのとき」
不意に、アリアさんが呟く。
「目の前に現れたディランを見て……誰なのか、分からなかった。姿は、色を失ったディランだった。でも……雰囲気が、まるで違った。あれは私の知っているディラン・キャンベルじゃなかった」
「…………」
「……だけど、ウタがディランを庇った直後に見せた表情は、私の知っているディランだった」
……アリアさんがディランに寄せる想いは、僕もよく知っている。だからこそ、なのだろう。アリアさんがその次に発した、
「だから私は……もちろん、生きていてほしい。生きていて、ほしい、けど…………彼が彼でいられなくなるくらいなら……ディラン・キャンベルとして、死なせてやりたいと、殺してほしいと、思う気持ちもある」
というその言葉が、酷く重く、あたたかく感じたのかもしれない。
「これくらいの状況、乗り越えてくれなきゃ困るんだよね。だって、こっちも命がけだよ?」
僕は……世界を救う可能性があると言われていた。しかし、今は逆に世界を滅ぼすと言われていて、ディランさんは世界を救ったときに生きていない可能性が高くて、てことはその逆も同じで……?
ダメだ、訳が分からない。と、とりあえずこの状況を打破しないと……!
「ぼ、僕は……」
「…………」
「……抗っ、て……みたい……です…………」
虫の鳴くような震えた声でそう告げる。するとらジュノンさんはそっとナイフを首筋から遠ざけた。とたんに力が抜けて椅子から転げ落ちそうになったが、後ろからそっと支えられる。
「うん、そっかそっか。そう言ってくれてよかったよ。私らも人は殺したくないからね」
「まぁ個性の塊's、人間は殺してないもんね」
「殺してなーい! 半殺しー!」
「さくっと怖いことを言うな、アイリーン」
個性の塊'sのやり取りに笑いながら、ジュノンさんは椅子に再び腰掛け、お茶をすすった。
「……一つずつ説明する。まず、『自己犠牲』の勇気について。
知ってる通り自分の限界を越えたときに『勇気』は発動する。自己犠牲が世界を救うかもって考えてたのはね、」
「…………」
「自己犠牲は、自分を犠牲にして他を助けようとする。そうすると、実質的に世界を守ろうとして、自分を犠牲にすることになる……って思ったからね」
……じゃあ、逆に考えて、自己防衛が世界を滅ぼすって言うのは、じぶん一人を守ろうとして世界を犠牲にするから、っていうことか。
「……みんななんか、分かってる顔してるね。そうそう。
自己防衛は世界を犠牲にする。自己犠牲は自分を犠牲にする。そういう風に考えたらさ、二つの勇気がぶつかって、自己防衛が勝ったら世界が滅びる……って思わない? 自己犠牲が勝てば世界は助かるって」
「……確かに思っていた。違うのか? だから個性の塊'sは、ウタを擁護していたんじゃないのか? 自己犠牲で死なないように」
アリアさんが言う。……そう、この説明だと、世界を守ったとき、僕は生きていない。もちろん、ディランさんも。……まぁ、その逆も然りなのだが。
しかし説明が合わないのだ。個性の塊'sは、僕が『生きていたら』世界が滅びると言っていた。だから殺すのだと。今の説明の通りだと、ディランさんが生きていたら、が正しくないだろうか? 僕を殺したって、ディランさんは世界を滅ぼすのだ。
「……今までは、そうだったの」
ドロウさんが意味深に呟く。それに続くようにして、アイリーンさんが口を開いた。
「ウタくんは多分、誰も殺せないけどー、ディランさんが魔王に操られてるだけなら魔王だけ倒せるんじゃないかなーって。
で、フラフラになっても生きていればチョコレートあるし!」
「でも強すぎた。
例えばあの瞬間……本当にジュノンが鎌を振り下ろしていたとして」
テラーさんと目が合う。その続く言葉は、何となくわかっていた。
「ウタくんは、死んでたのかな?」
「…………と、思いますけど」
「まぁ死んだとして『女神の加護』で生き返るんだろうけどねー!」
「それはともかくだよ」
ジュノンさんが、その場を仕切り直す。……強すぎる。それがいけないということなのか。
「いずれ、二人はぶつかることになる。それがいつになるかは分からないけど、きっとぶつかる。
……そのとき、巨大すぎる二つの『勇気』が生じる力で、世界が滅びる。らしいのね」
「らしい?」
「神様が言うには、そうみたいってこと。……でもジュノンは、そうは思ってないんでしょ?」
「ウタたちが助かる方法……あるの? ウタたちが助かって、世界も終わらないなんて方法、あるの?」
「ない訳じゃないと思う。ただ、確率は低い」
僕らは、黙りこんた。……僕は、密かに思っていたのだ。
正直……僕が死ぬだけでアリアさんたちがみんな助かるなら、それでもいい。それでみんなが幸せになれるなら、それでいい。
……だけど、ディランさんを死なせたくない。ディランさんの思考は『世界を滅ぼす』ことに執着している。どんな結末になろうと、ディランさんが生きている確率は恐ろしく低い。それを……アリアさんは、どう思うのだろう。
「……あのとき」
不意に、アリアさんが呟く。
「目の前に現れたディランを見て……誰なのか、分からなかった。姿は、色を失ったディランだった。でも……雰囲気が、まるで違った。あれは私の知っているディラン・キャンベルじゃなかった」
「…………」
「……だけど、ウタがディランを庇った直後に見せた表情は、私の知っているディランだった」
……アリアさんがディランに寄せる想いは、僕もよく知っている。だからこそ、なのだろう。アリアさんがその次に発した、
「だから私は……もちろん、生きていてほしい。生きていて、ほしい、けど…………彼が彼でいられなくなるくらいなら……ディラン・キャンベルとして、死なせてやりたいと、殺してほしいと、思う気持ちもある」
というその言葉が、酷く重く、あたたかく感じたのかもしれない。
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