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闇夜に舞う者は
話
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夜中に、起こされた。
おばさんの気遣いで一人一部屋とってもらい、久々にアリアさんを気にせず眠れる日となったが……そっと肩を叩かれ、揺らされ、目を開くと目の前に、金色か二つ光っていた。
「ん…………ドラくん?」
「すまないな主君。色々と考えたのだが……どうしても今日中に話しておきたくてな。来てみたら鍵が空いていたもので、入ってきてしまった」
「大丈夫……ふぁ、ちょっと待ってね」
僕は電気をつけ、眠気を冷ますために、熱いお茶を二杯いれ、ついでに、おさくさんから買ったクッキーを開けて食べることにした。太る? 大丈夫、僕は痩せてるはずだから。
「はいこれ。紅茶。あっついから気を付けてね」
「すまないな、ありがとう」
僕はクッキーを開け、ひとつ口に運ぶ。……うん、ビックリするほどに普通のクッキーだ。なんの変哲もない。普通に美味しいけど、お茶は淹れて正解だった。水分が持っていかれる。
「……それで、話したいことって? 夜中に話すことなんだから、大切なことなんでしょ?」
「……あぁ」
ドラくんは、気持ちを落ち着かせるためかお茶を一口すすり、そして、口を開いた。
「……ウタ殿は」
「ん?」
「我がウタ殿のことを『お主』と言っても、怒ったことがなかったな」
「え……いや、なんでそれで怒るのか分からない……し? え、お主ってなんか変な呼び方なの?」
「本来は同等か、目下の相手に使う呼びだ。目上の者に使うのは間違っている。
……正直なところ、我は初めウタ殿のことは下に見ている節があったからな。自然とこうなったのだと思う。今は、同じ『仲間』として過ごしているから『お主』と呼んでるのであって、決して下に見ている訳じゃ」
「そんなに慌てなくても。僕は君の守戦ではあるけど、ドラくんのこと尊敬もしてるよ?
……ドラくん、いつも僕を守ろうとして、すぐに前に出てくれるよね? 僕は……いつもいつもそうは出来ないよ。下に見られてたって構わない程度には、尊敬してる。呼び名の意味を知ってたとして、そんなことで怒ったりしないよ」
本心だった。それが、ドラゴンとしての役目だったとしても、毎度毎度僕を守るために傷ついて、ボロボロになるドラくんは、とても優しくて……強く見えた。ステータスで上回っても、あのときたまたま勝てていても、やっぱりドラくんは強かった。
そもそも、ドラくんがいなければ越えられなかったようなことだってたくさんある。今さらだ。
「……そうか。いや実はな」
「うん」
「ドラゴンは自分より強いものに遣える……これは間違いないんだ」
「うん……ん?」
何を言おうとしているんだドラくんは。
「だが、遣えたあと、ドラゴンが主人を倒せば契約解消。再び自由になれる。つまり我は、嫌だと思えばすぐに自由になれたのだ」
「え、え、え? じゃあ……ドラくんは、わざわざ自分よりも弱い人に遣えてたってこと?」
「今はそうは思っていないがな」
待ってそれって……じゃあなんで、ドラくんは僕についてきてくれたんだろう。最初、あんなに不本意だって言っていたのに。
「……興味があったんだ、お主に」
「僕に?」
「死ぬかもしれない。むしろ死ぬ確率の方が高いのにも関わらず、我に挑んできた。しかもこの人間は、『勇気』という特殊な力を信じたから向かってきたのではなく、咄嗟に、反射的にそうした。女神の加護があるとはいえ、命を捨てる覚悟できた」
「…………自己犠牲」
「あぁ」
ドラくんは……初めから、僕の自己犠牲を理解していた。理解した上で、契約した。
「我が遣えていた前の人間は、お主と真反対だった。あいつには、人の心がなかった」
「前の……?」
「ニエルという男だ。いつも笑っていたが、目は死んでいた。今は58だろうか。結構な年だ。
30年ほど前に、我はそいつに遣えた。あいつは強かった。仕方なかった」
「…………」
「だがニエルは殺人鬼だった。何人も殺していた。我は人を殺すのを拒んでいたが、おかげで体はボロボロだった。やつは自分が上だと言い張り、『お主』と呼べば激怒した。そう呼ぶ度に、魔法が飛んでくるのだ。稀にある地獄、だったよ。
だから、三年前、やつを越える力をつけて、倒して、逃げた」
そう語るドラくんの口調は、暗かった。……今まで出会ったドラゴンの中で、ドラくんほど優しいドラゴンはいなかった。ニエルというその男に……その当時、心まで殺されていたのだと、手に取るように分かった。
「お主は……あいつとは、真逆だった。だからこそ、遣えたくなったのだと思う。お主ならば、力を正しく使ってくれるんじゃないかと思ったから」
正しく……なのかは、分からない。けど、僕には人を殺す気などこれっぽっちもなかった。それが……ドラくんにとっては、いいことだったのだろう。
「……こんなこと、急に話して驚くだろう?」
「まぁ、そうだね」
「二つ理由がある。一つは、やつの活動拠点は、これから行くパレルであること。もう一つは……」
ドラくんはお茶をすすり、僕の目を見た。
「……やつの殺り方には、決まりがある」
「決まり?」
「決まりだ。どんな状況どんな相手、どんな武器でも、この殺り方で殺す。
――一に右足、二に左足、三四が腕で、五に頭」
僕ははっとした。おさくさんがいっていたあれって……。
「……これを言ったあとに、その順に攻撃し、最後頭で仕留めるんだ。この情報をおさく殿が落としたということは、やつはまだ、パレルにいて、人殺しを続けている可能性が高い」
おばさんの気遣いで一人一部屋とってもらい、久々にアリアさんを気にせず眠れる日となったが……そっと肩を叩かれ、揺らされ、目を開くと目の前に、金色か二つ光っていた。
「ん…………ドラくん?」
「すまないな主君。色々と考えたのだが……どうしても今日中に話しておきたくてな。来てみたら鍵が空いていたもので、入ってきてしまった」
「大丈夫……ふぁ、ちょっと待ってね」
僕は電気をつけ、眠気を冷ますために、熱いお茶を二杯いれ、ついでに、おさくさんから買ったクッキーを開けて食べることにした。太る? 大丈夫、僕は痩せてるはずだから。
「はいこれ。紅茶。あっついから気を付けてね」
「すまないな、ありがとう」
僕はクッキーを開け、ひとつ口に運ぶ。……うん、ビックリするほどに普通のクッキーだ。なんの変哲もない。普通に美味しいけど、お茶は淹れて正解だった。水分が持っていかれる。
「……それで、話したいことって? 夜中に話すことなんだから、大切なことなんでしょ?」
「……あぁ」
ドラくんは、気持ちを落ち着かせるためかお茶を一口すすり、そして、口を開いた。
「……ウタ殿は」
「ん?」
「我がウタ殿のことを『お主』と言っても、怒ったことがなかったな」
「え……いや、なんでそれで怒るのか分からない……し? え、お主ってなんか変な呼び方なの?」
「本来は同等か、目下の相手に使う呼びだ。目上の者に使うのは間違っている。
……正直なところ、我は初めウタ殿のことは下に見ている節があったからな。自然とこうなったのだと思う。今は、同じ『仲間』として過ごしているから『お主』と呼んでるのであって、決して下に見ている訳じゃ」
「そんなに慌てなくても。僕は君の守戦ではあるけど、ドラくんのこと尊敬もしてるよ?
……ドラくん、いつも僕を守ろうとして、すぐに前に出てくれるよね? 僕は……いつもいつもそうは出来ないよ。下に見られてたって構わない程度には、尊敬してる。呼び名の意味を知ってたとして、そんなことで怒ったりしないよ」
本心だった。それが、ドラゴンとしての役目だったとしても、毎度毎度僕を守るために傷ついて、ボロボロになるドラくんは、とても優しくて……強く見えた。ステータスで上回っても、あのときたまたま勝てていても、やっぱりドラくんは強かった。
そもそも、ドラくんがいなければ越えられなかったようなことだってたくさんある。今さらだ。
「……そうか。いや実はな」
「うん」
「ドラゴンは自分より強いものに遣える……これは間違いないんだ」
「うん……ん?」
何を言おうとしているんだドラくんは。
「だが、遣えたあと、ドラゴンが主人を倒せば契約解消。再び自由になれる。つまり我は、嫌だと思えばすぐに自由になれたのだ」
「え、え、え? じゃあ……ドラくんは、わざわざ自分よりも弱い人に遣えてたってこと?」
「今はそうは思っていないがな」
待ってそれって……じゃあなんで、ドラくんは僕についてきてくれたんだろう。最初、あんなに不本意だって言っていたのに。
「……興味があったんだ、お主に」
「僕に?」
「死ぬかもしれない。むしろ死ぬ確率の方が高いのにも関わらず、我に挑んできた。しかもこの人間は、『勇気』という特殊な力を信じたから向かってきたのではなく、咄嗟に、反射的にそうした。女神の加護があるとはいえ、命を捨てる覚悟できた」
「…………自己犠牲」
「あぁ」
ドラくんは……初めから、僕の自己犠牲を理解していた。理解した上で、契約した。
「我が遣えていた前の人間は、お主と真反対だった。あいつには、人の心がなかった」
「前の……?」
「ニエルという男だ。いつも笑っていたが、目は死んでいた。今は58だろうか。結構な年だ。
30年ほど前に、我はそいつに遣えた。あいつは強かった。仕方なかった」
「…………」
「だがニエルは殺人鬼だった。何人も殺していた。我は人を殺すのを拒んでいたが、おかげで体はボロボロだった。やつは自分が上だと言い張り、『お主』と呼べば激怒した。そう呼ぶ度に、魔法が飛んでくるのだ。稀にある地獄、だったよ。
だから、三年前、やつを越える力をつけて、倒して、逃げた」
そう語るドラくんの口調は、暗かった。……今まで出会ったドラゴンの中で、ドラくんほど優しいドラゴンはいなかった。ニエルというその男に……その当時、心まで殺されていたのだと、手に取るように分かった。
「お主は……あいつとは、真逆だった。だからこそ、遣えたくなったのだと思う。お主ならば、力を正しく使ってくれるんじゃないかと思ったから」
正しく……なのかは、分からない。けど、僕には人を殺す気などこれっぽっちもなかった。それが……ドラくんにとっては、いいことだったのだろう。
「……こんなこと、急に話して驚くだろう?」
「まぁ、そうだね」
「二つ理由がある。一つは、やつの活動拠点は、これから行くパレルであること。もう一つは……」
ドラくんはお茶をすすり、僕の目を見た。
「……やつの殺り方には、決まりがある」
「決まり?」
「決まりだ。どんな状況どんな相手、どんな武器でも、この殺り方で殺す。
――一に右足、二に左足、三四が腕で、五に頭」
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