チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

文字の大きさ
379 / 387
それは一輪の花のように

救世主

しおりを挟む
「っ…………、……う、わぁ……」


 核に飛び込みゆっくりと目を開けば、そこは暗闇だった。伸ばした手の先さえ見えないような空間。しかし意識ははっきりしていて、他のみんながどこにいるのかは、なぜかハッキリと分かる。


「大丈夫か? みんな」

「おいら平気だよ!」

「ぼくも大丈夫!」

「私も大丈夫です。ドラくんと羽汰さんは?」

「問題ない」

「大丈夫だよ。……さて、ここからどうやってディランさんを見つけようか」

「ディランはこの『漆黒』の核として存在している。……ということは、中心部辺りにいるのだろうが……」

「そもそも、ここが『漆黒』のどの辺りなのか分からないね」


 この核の空気。今は大丈夫だが、おそらくこのまま留まれば、いずれ外に弾き出されてしまうだろう。それまでに何とか見つけなければ。


「……我に考えがある」

「ドラくん?」

「……『道標』」


 ドラくんが小さく詠唱する。すると、細い一本の光の道が現れた。同時に、あるものが目に飛び込んでくる。


「紫の、蝶……」


 蝶は、その光に照らされてようやっと見れるような淡い光を纏っていた。そして、その光の道に沿うようにしてヒラヒラと、先へ飛んでいくのだ。


「……アリアさん」

「……追いかけてみよう」


 蝶を追い、光の方へ。
 ゆっくりと歩みを進めていけば、道は途中でプツリと途切れた。ドラくんの力が切れたわけではない。それはすぐに分かった。
 なぜならその先に、一人の人が、倒れていたからだ。


「…………」

「……あれって…………」

「……でぃ、らん…………?」


 アリアさんはゆっくり、一歩二歩とディランさんに近づき、駆け寄り、抱き締めた。


「ディランっ、ディランなんだな!? ディラン、大丈夫か、返事を――」


 そして言葉が途切れる。それは、ディランさんの身体の『異変』を感じたからだろう。
 心臓辺りで仄かに光る黒い紋様。どこか毒々しい雰囲気を漂わせるそれに、僕らはみんな、言葉を失った。

 これが『自己防衛の勇気』だ。

 僕は瞬間的にそう察した。そしてその紋様は、ディランさんの命をゆっくりと蝕みながら脈打っている、ということに、否が応にも気づかされる。


「――――」


 アリアさんは、言葉を失っていた。それは僕もそうだ。なにせ……助ける手段が、思い付かないのだ。今のディランさんは、意思がないどころか、ただひたすらに力を奪い取られるだけの存在。


「どうすれば…………」

「…………」

「……光の意思」


 ふと、スラちゃんが呟く。その声に返事をするように、周囲が明るく輝く。その光は紋様に吸い込まれ、ほんの少しだけ、その色を薄くした。


「……はぁっ…………」

「スラちゃん!」


 ふらつき倒れかけたスラちゃんを抱き止める。困ったようにえへへと笑いながら、スラちゃんは僕をみた。


「疲れちゃった……えへへ」

「無理しすぎだよ……」

「…………ぅ……」


 小さな呻き声。ハッとしてそちらに目をやれば、その声が……ディランさんのものだと気づく。


「……ディラン? ディラン! 分かるか!? 私だ、アリアだ! ディラン……!」

「…………あぁ……アリア……なん、で」

「ディラン! 助けに来たんだ、もう大丈夫だからな、絶対に助け」

「アリア。……羽汰。お願いがあるんだ」

「……待て、やめてくれ、言うな!」


 そんなアリアさんの必死の願いも聞かずに、ディランさんは、優しく微笑んで……あまりにも残酷な言葉を、そっと紡いだ。


「僕を、殺してほしい」

「……っ、ディラン……! そんな、そんなの……出来るわけないじゃないかっ!」

「申し訳ないんだけど、僕のこの『勇気』は自己防衛。……自分を傷つけることができないんだ。だから、誰かに頼むことでしか、この命を終わらせることが、できない……」

「……終わらせなくたって、いいんじゃないですか?」

「いや……ダメなんだよ、羽汰」


 ディランさんはそう呟き、悲しそうに笑っていた。自分を抱き抱えるアリアさんの体をそっと押し返し、よろよろと立ち上がる。


「僕のこの体は、もう完全に『漆黒』にのみ込まれようとしてる。その前に、僕を殺してほしいんだ。今ならまだ、僕は自我がある。その攻撃を、甘んじて受けることができるんだ。
 でも、あと数分がたてば、それが出来なくなる。そうしたら僕は、暴れまわって、攻撃して、羽汰やフローラ、ポロン、スラちゃん、ドラくん……そしてアリア。きっとみんなを傷つけてしまう」


 だからそうなる前に、殺してくれ。
 ディランさんの瞳は、そう訴えていた、苧あまりにも悲しく、暗く、しかし決意のこもった願いだった。


「…………」


 僕はそっと、剣を抜いた。


「羽汰……?!」

「う、ウタ兄……!」

「まさか、殺さないですよね……? ウタさんっ!」


 僕はゆっくりと、一歩ずつ、ディランさんに近づく。どこか安心しきったような表情で、ディランさんは僕を見ていた。


「ウタっ!」

「ウタ殿! ダメだ、殺しては必ずお主が後悔する!」

「…………」


 僕は剣をゆっくりと振り上げ――


「……終わらせましょう」

「そうだね」


 勢いよく、振り下ろした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足、財政難、人手不足。 逃げ場のない没落領地を託された転生令嬢は、 “立て直す”以外の選択肢を持たなかった。 領地経営、改革、そして予想外の縁。 没落から始まる再建の先で、彼女が選ぶ未来とは──。 ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...