386 / 387
それは一輪の花のように
最後の勇気
しおりを挟む
「……マルティネス・アリア……!」
魔王の表情が歪む。僕の隣に凛と立つアリアさんはどこまでも綺麗で……あの日のことを思い出させる。
「……遅いですよ、アリアさん。心配しちゃったじゃないですか」
「悪いな。ちょっとばかし話をしててな」
「話?」
「……ま、終わったら言うさ。まずは……分かってるな?」
「……はい」
魔王に視線を戻せば、嘲るような笑みを浮かべながら、魔王は僕らを見下ろしていた。……余裕の表情で、負けるなんて微塵も考えていないような顔だ。
「なるほど……確かに愚かな人間だ。大人しく闇に飲まれたままでいれば、楽に朽ち果てることができたというのに……わざわざ出てきて、余計に苦しもうとするなんて」
「余計に……? 余計なことだなんて思っていない。私たちは、お前を倒す。絶対に倒せるんだ、私たちなら、絶対」
「あまりに根拠のない自信だな、マルティネス・アリア。闇を打ち破ったその得たいの知れない『力』を信じるのか? いささか思い上がりすぎているような気もするな?」
「……羽汰」
アリアさんは、透き通った赤い瞳を、僕に向けた。じっと見つめられ、思わずはっと息を飲んだ。……不安げに揺れる瞳に、とりこまれそうになる。
「……私のこの判断が、合っているかどうか、分からないんだ。でも……信じて、ついてきてくれるか?」
「…………」
僕は、小さくため息をついた。
「アリアさんって、バカですよね?」
「……は?」
「バカですよね? めっちゃ大バカですよね!? だって、僕がいまさらアリアさんを疑うなんて、そんなことあり得ないことですからね!?」
「……羽汰」
アリアさんは、キョトンとしたような顔をして、それから、ぷっと吹き出した。それはまるで目の前に魔王なんていないような……それこそ、リビングで食事をとっているとき、些細なことで笑ってしまった……というような、そんな、柔らかい笑顔だった。
「お前っ……そんな、いつかみたいなこと言わなくていいんだぞ?」
「いつか……?」
「…………え、もしかして、気づいてないで言ってるのか? 羽汰お前……はじめてまともに戦ったときと同じこと言ってるぞ?」
「えっ……?」
「ほら、ドラくんと戦ったとき……私が羽汰に逃げろって言ったら、バカですよね? って言ってきただろ?」
……そういえば、そんなこともあった。あのときはただただ必死で、アリアさんを助けたくて……格上の相手に、ほぼ丸腰で立ち向かった。知識もなにもない状態で。
今のこの状況は……少しだけ、あのときと似ている。ただ一つ違うことがあるとすれば……僕もアリアさんも、逃げようとも、逃がそうともしていないことだ。
「……私が全力でサポートする、だから、お前は力の限り暴れればいい。絶対に負けることはない、だから、安心して剣を振るえ。いいな?」
「……はいっ!」
僕は剣に、光を宿す。そして、真っ直ぐに魔王に向かって駆け出す。
「……ふん、ダークネス」
闇が、視界を覆う。僕はそれを勢いよく切り裂いた。
「…………」
「僕はっ、絶対に負けない!」
「私たちは絶対に……この闇を消し去ってみせる!」
限界を越えろ――柳原羽汰!
(…………充希、今度こそちゃんと、僕の足で動くから。人のせいにはしない。だから……みててね)
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
私は、魔王をじっと見据えた。
……勝てる気がしない、あんなの。だって、あまりにもレベルが違いすぎる。私の攻撃なんて、簡単に弾き飛ばしてしまうだろう。
(……だけど、羽汰なら)
羽汰なら、きっとあの魔王を倒せる。その力がある。自己犠牲と自己防衛は反発するのだ。反発するその、大きな力を使えば……きっと、魔王をも打ち倒せるだろう。
しかし、反発するということは、羽汰にもダメージが入る可能性が高い。……最悪の場合、魔王を倒した瞬間、羽汰も……ということも、なくは、ない。
「…………」
母上が、その命を懸けて守り抜いた世界……。たくさんの人の、期待や希望を背負って立つ羽汰……。欲張りな私は、どちらも、失いたくない。
だから、守る。
(たくさんたくさん、守られてきたんだ……。少しくらい、私が守ったりしても、いいだろう? 羽汰……)
「……そうだ、いい忘れていた」
私は剣を抜き、魔王に向かおうとして、止まって、ゆっくりと振り向いた。何を言われるんだろうかとキョトンとした羽汰の顔が目に飛び込んでくる。
「アリアさん……?」
「大切なことだぞ」
羽汰は、いったい何を言われるのだろうとちょっとした緊張感のある顔で私のことをみる。……それど大したことではない。私にとっては、大切なことだが。
「……あのな、羽汰」
そして私は、この場でできるだけ明るく、笑ってみせた。
「たくさん、助けてくれてありがとう!」
「……アリアさん」
「また戦おう。……二人で!」
羽汰は、強く頷いて、差し出した私の手を、握り返してくれた。
「……助けられたのは、こっちの方です」
「…………」
「いきましょう!」
「あぁ!」
きっとこれが私たちの……最後の勇気。
魔王の表情が歪む。僕の隣に凛と立つアリアさんはどこまでも綺麗で……あの日のことを思い出させる。
「……遅いですよ、アリアさん。心配しちゃったじゃないですか」
「悪いな。ちょっとばかし話をしててな」
「話?」
「……ま、終わったら言うさ。まずは……分かってるな?」
「……はい」
魔王に視線を戻せば、嘲るような笑みを浮かべながら、魔王は僕らを見下ろしていた。……余裕の表情で、負けるなんて微塵も考えていないような顔だ。
「なるほど……確かに愚かな人間だ。大人しく闇に飲まれたままでいれば、楽に朽ち果てることができたというのに……わざわざ出てきて、余計に苦しもうとするなんて」
「余計に……? 余計なことだなんて思っていない。私たちは、お前を倒す。絶対に倒せるんだ、私たちなら、絶対」
「あまりに根拠のない自信だな、マルティネス・アリア。闇を打ち破ったその得たいの知れない『力』を信じるのか? いささか思い上がりすぎているような気もするな?」
「……羽汰」
アリアさんは、透き通った赤い瞳を、僕に向けた。じっと見つめられ、思わずはっと息を飲んだ。……不安げに揺れる瞳に、とりこまれそうになる。
「……私のこの判断が、合っているかどうか、分からないんだ。でも……信じて、ついてきてくれるか?」
「…………」
僕は、小さくため息をついた。
「アリアさんって、バカですよね?」
「……は?」
「バカですよね? めっちゃ大バカですよね!? だって、僕がいまさらアリアさんを疑うなんて、そんなことあり得ないことですからね!?」
「……羽汰」
アリアさんは、キョトンとしたような顔をして、それから、ぷっと吹き出した。それはまるで目の前に魔王なんていないような……それこそ、リビングで食事をとっているとき、些細なことで笑ってしまった……というような、そんな、柔らかい笑顔だった。
「お前っ……そんな、いつかみたいなこと言わなくていいんだぞ?」
「いつか……?」
「…………え、もしかして、気づいてないで言ってるのか? 羽汰お前……はじめてまともに戦ったときと同じこと言ってるぞ?」
「えっ……?」
「ほら、ドラくんと戦ったとき……私が羽汰に逃げろって言ったら、バカですよね? って言ってきただろ?」
……そういえば、そんなこともあった。あのときはただただ必死で、アリアさんを助けたくて……格上の相手に、ほぼ丸腰で立ち向かった。知識もなにもない状態で。
今のこの状況は……少しだけ、あのときと似ている。ただ一つ違うことがあるとすれば……僕もアリアさんも、逃げようとも、逃がそうともしていないことだ。
「……私が全力でサポートする、だから、お前は力の限り暴れればいい。絶対に負けることはない、だから、安心して剣を振るえ。いいな?」
「……はいっ!」
僕は剣に、光を宿す。そして、真っ直ぐに魔王に向かって駆け出す。
「……ふん、ダークネス」
闇が、視界を覆う。僕はそれを勢いよく切り裂いた。
「…………」
「僕はっ、絶対に負けない!」
「私たちは絶対に……この闇を消し去ってみせる!」
限界を越えろ――柳原羽汰!
(…………充希、今度こそちゃんと、僕の足で動くから。人のせいにはしない。だから……みててね)
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
私は、魔王をじっと見据えた。
……勝てる気がしない、あんなの。だって、あまりにもレベルが違いすぎる。私の攻撃なんて、簡単に弾き飛ばしてしまうだろう。
(……だけど、羽汰なら)
羽汰なら、きっとあの魔王を倒せる。その力がある。自己犠牲と自己防衛は反発するのだ。反発するその、大きな力を使えば……きっと、魔王をも打ち倒せるだろう。
しかし、反発するということは、羽汰にもダメージが入る可能性が高い。……最悪の場合、魔王を倒した瞬間、羽汰も……ということも、なくは、ない。
「…………」
母上が、その命を懸けて守り抜いた世界……。たくさんの人の、期待や希望を背負って立つ羽汰……。欲張りな私は、どちらも、失いたくない。
だから、守る。
(たくさんたくさん、守られてきたんだ……。少しくらい、私が守ったりしても、いいだろう? 羽汰……)
「……そうだ、いい忘れていた」
私は剣を抜き、魔王に向かおうとして、止まって、ゆっくりと振り向いた。何を言われるんだろうかとキョトンとした羽汰の顔が目に飛び込んでくる。
「アリアさん……?」
「大切なことだぞ」
羽汰は、いったい何を言われるのだろうとちょっとした緊張感のある顔で私のことをみる。……それど大したことではない。私にとっては、大切なことだが。
「……あのな、羽汰」
そして私は、この場でできるだけ明るく、笑ってみせた。
「たくさん、助けてくれてありがとう!」
「……アリアさん」
「また戦おう。……二人で!」
羽汰は、強く頷いて、差し出した私の手を、握り返してくれた。
「……助けられたのは、こっちの方です」
「…………」
「いきましょう!」
「あぁ!」
きっとこれが私たちの……最後の勇気。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる