生まれる前から一緒の僕らが、離れられるわけもないのに

トウ子

文字の大きさ
9 / 25

しおりを挟む


僕らの自粛は、一週間足らずで強制終了となった。
ナガヤの関連グループから、次々と依頼が来るのだ。
断れるはずもない、依頼が。

僕らが断ったら、きっと矛先は事務所へ向かう。
これまでお世話になってきた社長や、スタッフ、タレントの仲間たちを、僕らのせいで苦しませるわけにはいかなかった。

僕らの、冗談のような短さの活動自粛は、ますます世間を笑わせた。



「悠と瞬って活動自粛するんじゃなかったっけ?」
「なんか新しいCMやってるけど、どういうこと?」
「自粛って、一週間だけなの?短すぎてビビる」
「てか一貫性なさすぎてウケる」
「言ったことには責任もとーよー」
「お子様すぎるでしょ」



聞きたくもないのに、あちらこちらからそんな声が聞こえて来る。

周りが敵だらけに思えて、救いを求めてファンの声を探しにネットの海に飛び込めば、当然のように更なる毒が僕を蝕むことになった。

「……うそ」

僕は息を呑んで奥歯を食いしばる。

「な、んで……」

そこでは、とうとう僕だけではなく、僕ら二人に対しての批判と侮蔑、憎悪と怒りが煮えたぎるようになってしまっていたのだ。
SNSの閲覧をするなと、社長が厳命していた理由を理解するしかなかった。



「悠だけじゃなくて、瞬もなんか、ダメダメだよね」
「わがまま放題のオニイチャンを黙らせることもできず、切り捨てることも出来ないんだもんね」
「一人でやっていく自信ないんじゃない?」
「昔のインタビューで良く言ってたもんね。二人で一つ、一緒じゃないと無理ぃって」
「うわキモ」
「もう十八じゃなかった?大人じゃん」
「いいトシして引くわ」
「天使チャンたちの我儘に振り回される周りの人かわいそー」
「需要なんてもうないのに、なんでこんなゴリ押しされてんの?」
「必死にマクラでもしてんじゃない?」
「ありうるわー、顔が綺麗な分、やることはえげつなさそう」
「もう飽きられてるんだし、早く消えればいいのに」



「あはは……ボロクソ……」

読んでいると、いっそ笑いが込み上げる。
どうして彼らは、他人のはずの僕らに、これほど悪感情を抱けるのだろう。
僕は顔を覆って項垂れた。

「ひどい、せかい」

悪意が禍々しく渦を巻いていて、世界は全て敵だらけだ。
多分瞬だけが、本心から、こんな僕を守ろうと戦ってくれている。
こんな僕を。
瞬にとっては、お荷物にしかならない僕を。

僕は、僕こそが瞬を苦しめてばかりいるのではないかと、気づき始めた。








形のない悪意の集合体に加えて、もうひとつ。
僕らをひどく苦しめたものがあった。

「まだ降参しないのか?」とでも言うように、予告なく現れる雪那だ。

「やぁ、お仕事は順調?」

僕らの……いや、瞬の前に現れた雪那は、いつもひどく楽しそうに、瞬に声をかける。
僕の存在は見えていないかのように、華麗にスルーだ。

「しぶとい瞬くんも、そろそろ根を上げる頃かなと思ったんだけど、どうだい?」

わざとらしく振りまかれる、濃厚なフェロモン。
僕ですらフラリと鼻を焼かれるそれを、瞬は血の滲むほどに唇を噛み締めて振り切り、背を向ける。

「降参なんて、するわけがない」

振り絞るように吐き捨てて、歩き去るのだ。
真っ赤に火照った顔で、カタカタと震えながら。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

記憶の代償

槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」 ーダウト。 彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。 そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。 だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。 昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。 いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。 こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

起きたらオメガバースの世界になっていました

さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。 しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

処理中です...