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16.「ね。信じて?」
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「ソーン先輩、さすがにやりすぎです」
顔を上げると、怒りを抑えたカレンがトレイを持って立っていた。
ほら詰めて、と無理やり気味にエマを横に移動させ隣に座る。
教室で別れた後にカレンもこのカフェテリアに来ていた。
昼食のために混みあうこのカフェテリアを選択することなど普段ならありえない。
だがエマを連れ出したテオフィルスの様子に不審を感じエマの後を追ったのだ。
案の定、冷静なテオフィルスに似合わないこの痴態。
少し離れた所から繰り広げられる頓狂な光景を見ていたが、かなりヒートアップしてきたのを見逃すことが出来なくなり二人の間に割って入ったのである。
「お気持ちはわかりますけど。親友が困っていますわ。愛を語られるのなら、もっと考慮していただかないと」
「ヴァーノンさんか。見てたのか」
テオフィルスは苦笑した。
「しっかり拝見しました。私だけでなくこの学園の大部分の生徒も愉しんでいたのではないかしら? 堅物のテオフィルス・ソーンが女子と戯れているなんて、とても見ごたえがありましたもの」
口調に厳しいものが混ざる。
「あぁそういえば、かのお方も御覧になっていらっしゃいましたわ。面白い御顔をなさっておられました」
テオフィルスの瞳が一瞬鋭くきらめいた。
カレンは紅茶にミルクを注ぎティースプーンで混ぜると、ゆっくりと目線を上げテオフィルスを正面から見据えた。
そして低い声で呟く。
「……上出来ですわ」
「お褒めいただきありがとう」
テオフィルスは慇懃に礼を言い、
「ヴァーノンさん、言っておくけど俺のエマに対する気持ちにウソはないからね。真しかない」
「そんなこと百も承知です。むしろいい加減でしたら許さない。不義理なことなどなされないとは思いますけど、もしものときはご覚悟くださいませ。エマは私の大切な友達ですから」
二人の接点はエマの知る限り無いはずだ。なのにまるで旧友か戦友かのように示し合わせたかのようなやり取りをしている。
エマは違和感を感じた。
ん?
どういうこと?
カレンも何か知ってる?
自分の知らないところで何かが画策され動いているのか?
そうだとしたら気持ちが悪い。
そんなことはごめんだ。
問いたださなければ。
決して本心はいわないかもしれない。
――それでも。
「テオどういうこと?」
エマは違和感が確信に変わったと同時に怒りを覚えて、テオフィルスを強い批判を込め睨んだ。
気持ちが昂りすぎたせいなのか、それとも衝撃が大きかったせいなのか、空色の瞳から涙がこぼれる。
「やっぱり何か企んでいるの? 私を利用してる?」
「……ごめんね。詳しくはいえない。全部終わったら話すよ。でもエマの事、ほんとに好きだし誰にも渡すつもりも無いことは間違いないよ。俺がエマに触れたのも心底触れたかったから。そこは安心して?」
さらっと!!
さらっとまた言った!
もしかして遠慮するのやめたってこういうこと?!
「わけわかんない……」
パニックのあまりこんなときどんな顔をしてよいのか分からない。
一度流れだした涙はなかなかとまらず、頬を伝い下に落ちた涙はトレイの上のサンドイッチに染みをつくった。
テオフィルスはエマの頬を自らの手の甲でなで、親指で瞳からあふれる涙をぬぐう。
「泣くのやめよ? 俺を信じてほしい。ね?」
『わああああ……』
エマは声にならない声をあげ硬直した。
前世ではクソのような男しか知らなかった。
付き合った男からは一番ではなく二番目以下の扱いしか受けてこなかった。
現世にしても恋愛は片思いがデフォルトだった。
一方通行の恋しか経験がないのだ。
自分をただひたすら思ってくれる異性に関しては知識がない。
どう対応するのが正解なのか、この短い時間では答えがでなかった。
いや、前世云々とか、もうそのレベルじゃないよね。ここからは未知の領域……。
とりあえず……
テオフィルスが甘いのは分かった。
何かがあってこうしているのだろうが、返ってくる言葉がすべてチョコレートケーキに粉砂糖を1キロかけたくらいに甘すぎる。
胸焼けするほどの甘い言葉というのは本当にあったのだ。
甘い言葉とか態度とか、あこがれてたけど、あこがれてたけど!!
経験値不足でつらい。
エマはハンカチで涙を拭き、サンドイッチの付け合せのプチトマトを口に放り込んだ。
咀嚼し飲み込むまでに、必死に気持ちを落ち着かせようとする。
「テオの気持ちはわかったけど、なんか優しすぎてきもちわるい……」
カレンが噴きだし、「学園の至宝も形無しだわ」とカラカラと笑う。
「ひどいなぁ、エマ。俺これでもめっちゃがんばったんだけど?」
テオフィルスはエマの頭を軽くなでた。
エマは耳まで赤くなる。
必死に落ち着かせた努力も水の泡だ。
あぁもう限界です……。
顔を上げると、怒りを抑えたカレンがトレイを持って立っていた。
ほら詰めて、と無理やり気味にエマを横に移動させ隣に座る。
教室で別れた後にカレンもこのカフェテリアに来ていた。
昼食のために混みあうこのカフェテリアを選択することなど普段ならありえない。
だがエマを連れ出したテオフィルスの様子に不審を感じエマの後を追ったのだ。
案の定、冷静なテオフィルスに似合わないこの痴態。
少し離れた所から繰り広げられる頓狂な光景を見ていたが、かなりヒートアップしてきたのを見逃すことが出来なくなり二人の間に割って入ったのである。
「お気持ちはわかりますけど。親友が困っていますわ。愛を語られるのなら、もっと考慮していただかないと」
「ヴァーノンさんか。見てたのか」
テオフィルスは苦笑した。
「しっかり拝見しました。私だけでなくこの学園の大部分の生徒も愉しんでいたのではないかしら? 堅物のテオフィルス・ソーンが女子と戯れているなんて、とても見ごたえがありましたもの」
口調に厳しいものが混ざる。
「あぁそういえば、かのお方も御覧になっていらっしゃいましたわ。面白い御顔をなさっておられました」
テオフィルスの瞳が一瞬鋭くきらめいた。
カレンは紅茶にミルクを注ぎティースプーンで混ぜると、ゆっくりと目線を上げテオフィルスを正面から見据えた。
そして低い声で呟く。
「……上出来ですわ」
「お褒めいただきありがとう」
テオフィルスは慇懃に礼を言い、
「ヴァーノンさん、言っておくけど俺のエマに対する気持ちにウソはないからね。真しかない」
「そんなこと百も承知です。むしろいい加減でしたら許さない。不義理なことなどなされないとは思いますけど、もしものときはご覚悟くださいませ。エマは私の大切な友達ですから」
二人の接点はエマの知る限り無いはずだ。なのにまるで旧友か戦友かのように示し合わせたかのようなやり取りをしている。
エマは違和感を感じた。
ん?
どういうこと?
カレンも何か知ってる?
自分の知らないところで何かが画策され動いているのか?
そうだとしたら気持ちが悪い。
そんなことはごめんだ。
問いたださなければ。
決して本心はいわないかもしれない。
――それでも。
「テオどういうこと?」
エマは違和感が確信に変わったと同時に怒りを覚えて、テオフィルスを強い批判を込め睨んだ。
気持ちが昂りすぎたせいなのか、それとも衝撃が大きかったせいなのか、空色の瞳から涙がこぼれる。
「やっぱり何か企んでいるの? 私を利用してる?」
「……ごめんね。詳しくはいえない。全部終わったら話すよ。でもエマの事、ほんとに好きだし誰にも渡すつもりも無いことは間違いないよ。俺がエマに触れたのも心底触れたかったから。そこは安心して?」
さらっと!!
さらっとまた言った!
もしかして遠慮するのやめたってこういうこと?!
「わけわかんない……」
パニックのあまりこんなときどんな顔をしてよいのか分からない。
一度流れだした涙はなかなかとまらず、頬を伝い下に落ちた涙はトレイの上のサンドイッチに染みをつくった。
テオフィルスはエマの頬を自らの手の甲でなで、親指で瞳からあふれる涙をぬぐう。
「泣くのやめよ? 俺を信じてほしい。ね?」
『わああああ……』
エマは声にならない声をあげ硬直した。
前世ではクソのような男しか知らなかった。
付き合った男からは一番ではなく二番目以下の扱いしか受けてこなかった。
現世にしても恋愛は片思いがデフォルトだった。
一方通行の恋しか経験がないのだ。
自分をただひたすら思ってくれる異性に関しては知識がない。
どう対応するのが正解なのか、この短い時間では答えがでなかった。
いや、前世云々とか、もうそのレベルじゃないよね。ここからは未知の領域……。
とりあえず……
テオフィルスが甘いのは分かった。
何かがあってこうしているのだろうが、返ってくる言葉がすべてチョコレートケーキに粉砂糖を1キロかけたくらいに甘すぎる。
胸焼けするほどの甘い言葉というのは本当にあったのだ。
甘い言葉とか態度とか、あこがれてたけど、あこがれてたけど!!
経験値不足でつらい。
エマはハンカチで涙を拭き、サンドイッチの付け合せのプチトマトを口に放り込んだ。
咀嚼し飲み込むまでに、必死に気持ちを落ち着かせようとする。
「テオの気持ちはわかったけど、なんか優しすぎてきもちわるい……」
カレンが噴きだし、「学園の至宝も形無しだわ」とカラカラと笑う。
「ひどいなぁ、エマ。俺これでもめっちゃがんばったんだけど?」
テオフィルスはエマの頭を軽くなでた。
エマは耳まで赤くなる。
必死に落ち着かせた努力も水の泡だ。
あぁもう限界です……。
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