僕はまだ料理人ではないけれど異世界でお食事処を開きます。

佐間瀬 友

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5話 僕のあの時の涙を返してください

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明るい日差しの中から部屋の中にいきなり入ったので、一瞬真っ暗に感じる。
少しすると目が慣れてきて、外から見た時に想像していたよりも広い部屋が広がっていた。

今は誰もいなかったが、テーブルと椅子がいくつも並んでいて、奥にカウンターがある。
先に入っていったクローディアがカウンターで誰かと話していた。

「泊まり?食事?」

カウンターの向こうに立つ背の高い女性がクローディアに訪ねていた。

「食事だ。」

クローディアはそう答えると隅の方のテーブルを指してまた僕に手招きをした。
でも、僕は今度はそれには従わなかった。

何故なら、カウンターでクローディアと話をしていた女性の声に聞き覚えがあったからだ。半年ほど前までは毎日聞いていた声にそっくりだった。やっと、暗さに慣れてきた目でカウンター越しに立つ人間の姿をみる。

人間、驚きすぎると声が出ないというのは本当なんだ。
ありえない現実に頭がこれは夢だと否定する。

あー、でも魔女がいるという時点でこの世界は夢であってもおかしくないのか。

僕が固まって動けないでいると、女の方が先に動いた。アップにした髪の毛に、古風な足首まで隠れるスカート丈の服を着た女は無言で僕の所まで来ると僕をぎゅうっと抱きしめたのだった。

「叔母さん...。」

それで僕もやっとこの人が交通事故で死んだはずの叔母だと信じることができた。



「それで?」

僕と叔母とクローディアはテーブル席に3人で座っていた。
クローディアと叔母が横に並んで、僕が叔母さんと話しやすいように、向かい側に座っている。

「まさか、ここは天国とか?」
一応、恐る恐る聞いてみる。どうしよう、僕も実は死んでいるとか言われたら。

「いやいや、それはない!」

叔母が力強く否定してくれたので少しホッとする。

「じゃあ、どういうこと?僕、火葬場で叔母さんのお骨を拾ったけど?」

確かに棺の中に横たわっている叔母を見たし、叔父と一緒にお骨を拾って骨壺に詰めたのに。

「う~ん、それが私もよく分からなくて。気が付いたらこの世界にいたんだよねぇ。確かにトラックにぶつかってはね飛ばされた覚えはあるんだけど。」

叔母は昔からなんと言うか、飄々としているというかあっけらかんとしているというか、男らしいというか。顔立ちは身内の僕が言うのは何だけど、かなり綺麗だと思うんだけど。女性にしては背が高くてガッチリした体型だ。どちらかと言うと叔父の方が見た目も中身も繊細で細かいことに良く気がつく。
この夫婦を見ていると、人間てお互いに自分に無いものを求めるのかと思ったことがある。

でも、今は状況が状況だし僕は盛大にタメ息をついた。

「は~、何それ。とりあえず、足もあるし幽霊じゃなくて生きているんだよね?」
さっきも僕をがっしり抱き締めていたので、実体はしっかり在るみたいだ。

「そうだね。以前と何にも変わってないと思うけど。むしろ、こっちの世界に来てジャンクな食べ物を食べなくなったから健康かも。」

ハハハと叔母は笑う。

...何か、葬式での僕の涙を返して欲しくなってきた。

「こっちの世界って、ここはヨーロッパのどこかの国とかじゃないの?」

「ああ、違う違う。まあ、異世界っていうやつだね。全く時間の流れも違うし、空に出ている太陽も星も別物だし。」

時間を止めることができる魔女に連れてこられた時点で、何となく覚悟はしていたけど。
やっぱりそうなのか。

「えーっと。異世界だと、霊体も実体化する...とか?」
そうじゃなきゃ、死んだはずの人間がこんなに元気に同じ姿で生きているなんて。

「...それは、お前の叔母さんがこちらの世界の人間だからだ。」

今まで叔母の隣で山盛りの芋とビーフシチューのような物を黙々とを平らげていたクローディアがいきなり口を開いた。
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