長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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秘密 三

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 「令嬢の部屋に入るなど、とんでもないことだとは思いませんか?」

「そんなに堅苦しく考えることかしら」

「どうして映子さんの部屋に行かなければならないのですか?」

「私が来てほしいと思っているからだわ」

 永遠に抜け出せぬ堂々巡りが始まってしまいそうだ。映子の行動に理論は必要ない。大事なのは、自分がどうしたいのか。だけなのである。

 映子の言うなりになるのは癪である。しかし、断れば絶対に教えてはくれまい。常識と意地と怒り、ないまぜの気持が胸に渦巻く。

「三時のお茶の後、来て頂戴。絶対よ」

 これ以上なにを聞かれようとも答えぬとばかりに、映子は口を閉じ、厭な色気を振り撒きながら、圭の前を横切る。

 人工的な花の匂いがした。

 お茶の時間は、重苦しいものとなった。彬子はもちろん、圭もほとんど口を開かず、開けば紅茶を啜ることに専念した。

 秘密だと言った。なにか目論見があるに違いない。悔しいけれど、乗るしかないのだ。浅はかな映子のこと、嵌められはすまい。と、圭は自分を慰めた。

 嵌められたりはしない。自信はあるが、保険はかけておくに限る。

 書庫に戻った圭は、一冊の本を取り出すと、目当ての頁を開き、閉まらないように固定した。万が一に備えて、隼人にはわかるように。

 本を仕掛けると、圭は、拗ねる自分を宥めながら、扉に向かった。

 足音を忍ばせる。

 圭の心配は、映子との関係を疑われることだけ。

 金目の物を盗みに入ったと疑われるならまだしも、映子を求めて忍び込んだと思われるくらいなら、考えが古風かもしれないが、死んででも潔白を証明してみせる。と、はなはだ飛躍した覚悟を持って階段を下り、左脇に存在する扉に手を掛けた。

 圭を待っていた扉は、容易く開いた。

 が、外の明るさとは対照的な薄暗さに、圭は更に心が曇るのを感じた。

 なにを考えているのだ? この部屋の主は、花も恥じらう乙女ではないのか?

 少なくとも、部屋に存在する三面鏡、ニ竿の箪笥等は、部屋の主を乙女だと知らせるのだが……。

 寝台に座っていた映子は、静かに立ち上がると、圭を通り過ぎ、扉に近づいた。

「こちらに向いては嫌よ」

 頼まれても向いてやるものか。

 心の中で毒づく。

 苛立ちは募る。
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