一生分の恋 一生の愛

岡倉弘毅

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独立

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 雨は思っていた以上に激しかった。いつもならお気に入りのカフェでランチを楽しむのだけど、外に出るのが面倒なほどの激しさで、諦めてスパゲティーを茹でる。お気に入りのソースを絡めれば、立派なランチのできあがりだ。

 天気のせいなのか、章吾の表情は浮かない。そう言えば夕べも口数がいつもより少なかった。疲れているのか、仕事でへまをしたのか。

「隆史さん……」

 いつになく思い詰めたような声に、不安が過る。そんな気持ちを誤魔化すために、俺は努めて明るい声で、なに? と答えた。

「僕、今の店辞めます。三ヶ月後だけど」

 驚きを通り越して何を言っているのか理解できなかった。

 高校を卒業してすぐ、地元の人気パティスリーに就職した章吾は、二年後、スキルアップを目指して上京してきたらしい。それから十二年。時々テレビでも取り上げられるパティスリーで、オーナーの片腕として活躍している。

 何があったのだろう……。

「実家にね、戻ることにしたんだ。うち、昔はそれなりに裕福でさ、藏があるんだ。それを改装して独立するつもり」

 俺はどう答えればいいのかわからず、黙っていた。心臓は破裂しそうなほど高鳴っている。

「ねえ、一緒に来て」

 離れたくはない……けど……。

「一緒にって、実家帰るのに男が一緒について来たら、お母さん驚くだろう」

 母一人子一人だと聞いた。

「母さんが、彼女はいないのかってうるさいから、彼氏ならいるって言ったんだ。そしたら、連れて来いって。驚きだよ。まさか、自分の母親が腐女子だったなんてね」

 章吾は無理をしたように笑った。

「ある程度の年齢になると、貴腐人って言うんだってさ」

 どうでも良い知識を披露して、誤魔化す。

「へえ、教えてあげよう。きっと喜ぶよ、同じくらいの年の腐女子友達が五人もいるらしいから。同好会がサロンになるんだろうな」

 離れたくは無い。

 俺の仕事はWi-Fiが繋がって、荷物を発送するためにコンビニがあればどうにかなるって知ってるから、章吾は言うのだろう。しかし、デザイナーとしては、トレンドの中心である東京を離れるのはリスキーだった。

「隆史さん、浮気をしていないって知ってる」

 妙な言い方をするな。と思った途端に背筋が寒くなるのを感じた。

「でも、心の中には誰かがいるのを、僕は気付いてる……でも、僕は隆史さんを愛しているから、離れたくない」

 いつから気付いていた? 

「体も、心も独り占めしたいんだ……」

 とは聞けなかった……。
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