一生分の恋 一生の愛

岡倉弘毅

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一矢

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 あれから五日。電話もラインもしていない。

 別れたくない……。

 気持ちはそう叫んでいるのに、心の中にある未練が言葉を詰まらせる。

 章吾は俺を信用していない。離れてしまえば別れが待っているだろう。

 人間は、遠くにいる愛する人よりも、近くにいるそこそこ好きな人に縋り付く生き物なのだ。

 ラインが届いた音に素早く反応する。

 章吾ではなかった。

『今晩来いよ。話がある』
 
 一矢からだった。今一番会いたくない男だ。

『八時に行く』

 それなのに答えはこの通り。自分の節操のなさにウンザリする。

 一矢は大学からの友人だった。

 ロシア系のハーフの一矢は、すれ違う人間誰もが振り返る美少年だった。緑の瞳に薄茶色の髪、白い肌……。

 二人の姉とお人形遊びで育った俺は、子供の頃から美しい物が好きだった。

 中でも一番のお気に入りは、緑の瞳と薄茶色の長い髪を持つ子。

 その子が人間になって、男になったらこんな感じ。と思った。

 俺はすぐに声を掛けた。モデルをして欲しい。と。

 一矢は軽く、良いよ。と答え、本当に、俺の作り溜めていたアクセサリーを飾って写真を撮らせてくれた。

 個人的なコレクションとして持っていたのだが、SNSがはやり始めた頃、投稿してみるとあっという間にフォロアーが増えた。ついでのように俺のアクセサリーも見て貰えるようになった。

 一矢は俺の理想だった。まるでおとぎ話の王子様のような容姿とは違って、肉食女好きだけど、そんなことはどうでも良かった。

 とにかく、俺は自分の性癖を隠して友人として付き合ってきた。

 章吾を愛しているのも本当。一矢に恋しているのも本当……。
 
 恋と愛を使い分けた理由が知りたくて、調べる。

愛……家族など互いに思い遣る理性的な気持ち。
恋……一時的で本能的な感情。

 意外な事に、恋の方が即物的な感情らしい。

 外はまだ明るいけれど、時計を見ると七時近かった。着替えてアパートを出る。

 途中コンビニでビールとつまみを買い、通い慣れたマンションへと向かった。


 「たまんねえよな! 最高だと思わないか? 今のプレー」

 この時期、一矢の楽しみはビール片手にプロ野球。脱ぎ散らかした服。容姿と違い一矢の中身は日本のオヤジそのものだ。

「わかんねぇ。俺、野球に興味ないし」

 知っているくせに……。

「野球に興味ないなんて、本当に男かよ」
 
 偏見もほどがある。

 とはいえ、社会に出れば年齢、役職を問わず野球は無難で盛り上がる話題だと聞く。普通に就職しなくて良かった……。

「そんなことより、話ってなんだ?」

 苦手なビールを舐めるように飲みながら、水を向ける。

「あぁ、俺な、結婚するわ」

 眩暈がした。

「彼女が妊娠したんだ」

 慣れないビールに酔ったのかもしれない……。
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