異世界に行ったら記憶がなくなってここがどこだかわかりません。

シンカイ

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知らない人は命の恩人

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 さて、戦いは終わった。そしてその安心感と共に抗えぬ睡魔がゆっくりと、着実に近づいて来ていた。意識は保っていたとしても、やはり痛みに長時間耐えていたのが祟ったのだろう。俺は襲い来る睡魔に抗うことなくその心地よい眠気に身を委ねた。


 「──オイ」

 ?

 「──オーイ」

 何だ?俺を呼んでる?

 「オイ!」

 強烈な一喝に慌てて飛び起きた。寝惚けた顔で辺りを見回す。そこは何処かの家屋の一室だった。
 広さは今俺が寝ているベッド3つ分位だろうか。明るい色の木材を基本にして作られた部屋に、それに釣り合うシンプルで簡素だが物足りなさを感じさせないデザインの棚や机と椅子がそれぞれ設置されていた。

 ──気のせいか?

 だが、そこには声を発する生物の気配はいまのところ一切なく、辺りの静寂はここには俺以外の生物が存在しないことを物静かに告げていた。
 色々追及したい状況に置かれている俺だが、この場は体の疲労を取り払うことが先決だと考え二度三度辺りを見回した後、再び横になる。すると即座に睡魔がやって来たのでまた身を委ねる。

 「うぉい寝るんじゃねぇ!」

 再び声が聞こえる。だが今度は敢えて無視をした。俺がまた本気で寝たと思ったのだろう。やや慌てたような声が飛んできた。

 「ちょ、ちょおいおま、マジで寝てんの?」

 はい無視無視。

 「え、ええ…マジかよ。んーしょうがない、気は進まねぇけどベットでもひっくり返してみっか?」

 何かトンでもない案を実行しようとしている。そしてその案が実行に移されれば俺は確実に確かな被害を被ることになるだろう。

 「まぁ、とりあえずやるか!」

そんな 妙に清々しい声でそう誰にともなく呟き、片腕をグルグルと回して慣らしながらこちらに近づいて来る。

 ──ヤバい。

 本気でそう感じた俺は不自然さをなるべく感じさせないようにゆっくりと、目元を擦りながら体を起こす。

 「フゥンン~…、あら、あ、あ~、お、おはようございます?」

 ──どうだ!?

 「お、おぅ!目ぇ覚めたか?」

 ──よし!上手くいった、かな?

 「ええ、まぁ…ところで、ここは一体…?」

 「ああ、ここは俺の家だ」

 「あ、そうなんですか」

 「ああ」

 ──……やべぇ、会話が続かねぇ。

 俺の前に立っている人物もきっと俺と同じようなことを考えているのだろう。頭に軽く手をあて、俯いている。

 ──何か話題…話題……。あ!そうだ!まだ聞くこと残ってるじゃないか!

 そうと決まれば早速──!

 「そういえば、貴方の名前はなんでしょうか?」

 そう、俺はまだこの人の名前を知らなかった。

 ──だって見たことないし。完全に知らない人だし。

 俺はこんな顔の知り合いに心当たりはない。それどころか先ず俺には記憶がないのだ。もし知っているとすれば、俺は記憶があるということになる。だが、目の前の人物を爪先から頭の先までじっくりと観察しても見覚えのあるものはなかった。

 「ああ、俺の名前はアリウスだ、よろしくな」

 あちら─アリウスが名乗って来たのでこちらも名乗り返す。

 「自分の名前は慎一です。アリウスさんこちらこそよろしくお願いします」

 「何だよ随分かてぇ挨拶だな、もっと砕けてもいいんだぜ?」

 ニカッと笑いながらこちらに近付いてくる。

 「いや、でも初対面ですし…」

 「んなの気にすんなよ!それに堅苦しいとな、息が詰まっちまうんだよ。だから、な?」

 「え、え~と…わ、分かった、よ、よろしくたの、む」

 何とかタメ口で話してみる。慣れていないせいか結構つっかえてしまった。そんな辿々しい言葉にアリウスは──

 「おう!」

 再びこちらに笑顔を向けて返事をした。

 「さーってぇ?自己紹介もすんだし、え~とシンイチ?もう動けるか?」

 言われて軽く体を捻ったり伸ばしたりして異常がないか確認する。

 「はい、あ…、ゴホンッ、あ、ああ、問題ない」

 「クククッ、ああ、そうか!じゃあちょっと俺についてこい」

 含み笑いを若干漏らしつつ、そう告げる。

 ──あんまり笑わんでくれ~!

 は、恥ずかしい!まるで羞恥プレイのようだ!ホントに笑うのだけは勘弁してほしい!
 そんな俺の切実な思いは伝わるのだろうか。目の前で未だにアリウスが笑っているのが窺えるのできっと届いてはいないんだろう。
 とりあえず羞恥心を何とか落ち着かせて、ベッドから降りてアリウスの後ろから言われたとおりついていく。
 部屋から出た。すると人がすれ違うことが出来るくらいの通路へと出た。アリウスはそこから右側へと歩き出す。俺もそれに習った。少しあるくと階段があるのが見えた。シンプルな木造の階段だ。キシキシと音をたてながら降りていく。
 階段が終わるとそこには程よい広さの空間があった。中央に机と椅子が4つほど置かれている。
 記憶を失った俺にとってはそんな些細なものでさえとても価値のあるものに見えていたので、色々なものに好奇の視線を送っていると、

 「どうした?何かおかしなものでもあったか?」

 と、前方のアリウスがこちらに声をかけてきた。よっぽどその様がおかしいものだったのだろう。押さえきれない笑顔が滲み出ていた。

 「いや、何か不思議なくらい皆とても価値のあるようなモノに見えたんだ。……そんなにおかしかったですかね、自分の行動は」

 「そうだな…、強いていうなら[小動物が周りを警戒するような動き]、だな。こんな感じで、首を、左右に忙しなく、振っていたな」

 小動物、というのはよくわからない。だがアリウスの自分の真似を見て確かに面白い、と思った。赤面しつつ話題を迅速に変えるために、

 「そ、それよりどこか向かうところがあるんじゃないのか?」

 「おっと、そうだった」

 つい今まで忘れていたかのような反応が返ってきた。

 「悪い悪い、ちょっとシンイチを目覚めたら連れてくるように、って言われてたんだ」

 ──連れてこいって?一体誰が?

 俺の頭にはひたすら疑問が浮かぶ。

 「え、一体誰に?」

 「ん?門兵」

 「門兵、とは?」

 「んー、門の見張り役みたいな人だな」

 「ほー」

 ──そんな人が一体俺に何の用が?

 その疑問はアリウスによって解決した。

 「シンイチは身分を証明できるようなものは持っていたか?」

 「いや、持っていない」

 ──お、何かタメ口に慣れてきたな。

 「そうか。実はな、普通街に入るときはどんな人物でも基本的に身分証が必要なんだがシンイチは何も持ってなかっただろ?」

 「そうだな」

 「でもその時お前は怪我していてとても放っておけるような状態じゃなかったからな、代わりに俺がお前が回復して身分証を獲得するまで、お前の一時的な身元保証人になった、って訳だ」

 「なるほど」

 「だから今から先ずは門兵に会って事情を説明してから身分証を発行してもらう。分かったか?」

 「分かった」

 「よし、ならとっとと済まそうぜ!」

 「ああ」

 こうして事情を聞いたことにより幾分かスッキリした俺はまたアリウスの背中を追っていった。
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