【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

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Ⅰ 黒のオメガ

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 なぜジリスが白国に嫁いだのかといえば、『神の掟』を守るためだ。

 ジリスが生まれた黒の国(黒国)は黒魔術を使う国であり、黒や暗黒を好む。黒を神聖として、黒とともに生きている国だ。
 そして黒国にはオメガが生まれる。

 オメガは発情期があり、男性でも妊娠ができる特殊な体質を持つ。そしてアルファにうなじを噛まれることで番いになり、番相手にしかフェロモン反応をしなくなる。

 一方、白の国(白国)は白魔術を使う国であり、白や明るい輝きを好む。
 そして白国にはアルファが生まれる。

 アルファは全てにおいて卓越し、あらゆる分野で才を発揮できるが、オメガに惹かれ、オメガを求める体質がある。

 そして、この世界には『神の掟』が存在する。そのひとつが、両国ともに王と王妃はアルファとオメガの番であること。これを守らなければ神の怒りに触れ、神の罰を受ける。

 黒国、白国ともに神の恩恵を魔術で受ける国であり、『神の掟』を何より重んじている。互いに相容れない二国であるが、王妃を嫁がせ合う風習は途絶えること無く続いている。

 そのために黒国の第二王子であるジリスは、白国王家に嫁ぐと幼少期から決められていた。

 しかし最近では、オメガでなければ白国に嫁ぐことは無かったのに、と悔しく思うことがある。

(兄様は良いよなぁ。同じオメガでも黒国で生きていけるのだから)

 白ばかりの苦しい現実に卑屈な思いが浮かび、ジリスは一人ため息をついた。


 そっと目を閉じれば母の明るい笑顔が浮かんだ。

『母様! 母様、見て。ほら、チューリップが咲いたんだよ』

 花を母に見せたくて幼いジリスは母に駆け寄った。
 
 黒系の服を着る黒国で白いドレスに身を包む母は際立っている。城内にいれば遠くても母を見つけられた。

 ジリスが呼び止めると、いつも母は屈んでくれる。そうしてもらえると、母の瞳が間近に見えてジリスは嬉しい。母が大好きだと思える瞬間だった。

『まぁ、綺麗なピンク。これはジリスが育てたのね』

 いい匂いがする、とチューリップの香りを二人で楽しんだ。母の好きなピンク色が笑顔をくれる。
 興奮して早口になるジリスの言葉を母は優しく聞いてくれた。

 その内に兄も父も来て、一緒になって笑い合った。
 毎日が温かさで満ちていた。


 幼い頃の無邪気な記憶にジリスの頬が緩んだ。
 黒国王妃として白国から嫁いだ母は幸せそうだった。同じアルファでも、ジリスの夫である王太子とは全く違う。

 意地悪で傲慢で、最悪な番相手を思い浮かべると、頭痛がひどくなった。

 現実逃避をしたくてジリスは再び目を閉じた。そのまま過去の記憶に意識を向けた。
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