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Ⅲ 世話係のアルファ
⑤
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「おいしぃ!」
久しぶりの濃い色の食事に夢中になった。けれど、万全な状態ではないジリスは思ったよりも食べられなかった。
悔しいような思いで食事を見つめた。すると、静かに食事を見守っていたアルがクスッと笑った。その笑いに、さすがに食事にがっつき過ぎたか、とジリスは後悔した。
「せっかくの黒料理なのに食べきれないなんて、勿体ないから」
ジリスは照れ笑いを浮かべた。
「またご用意します。お口に合ったようで安心しました」
食事に未練たらたらのジリスを、アルは優しく見守ってくれる。穏やかな青い瞳にジリスの心がフワッと温かくなる。
「うん。もう少ししたら、また食べられるかも。まだ片付けないで」
「では、食後のお茶を用意します。そして、お茶と一緒に、俺と少し話しませんか?」
「それは是非お願いしたい。僕はアルのことが知りたい」
ジリスはアルの方に意識を向けた。
「あはは。やっと食事から目が離れましたね」
アルに笑われると恥ずかしくなる。ジリスは王族らしくなかったかもしれない。
「……笑うなよ。意地悪だ」
久しぶりの黒料理と黒茶に歓喜しただけで、ジリスは決して食に卑しいワケではない。
「ははは。すみません。あまりに愛らしいので」
クスクス笑いをしていたアルが、とうとう声にだして笑った。しかし、すぐに真顔に戻ってしまった。
「っと、申し訳ありません。大変失礼いたしました」
ゴホンとわざとらしく咳をするアルの顔が真っ赤だ。これにはジリスがニンマリしてしまった。
「へぇ。白国騎士様は、未来の王妃に、愛らしいとか言っちゃうんだ。へぇぇ」
ジリスにイタズラ気分が湧き上がった。こんな楽しい気持ちは久しぶりだ。
「あ、いえ。申しわけ、ありません」
ごにょごにょと焦って謝罪するアルを、少しからかいたくなった。
ジリスが黒国で兄のカザルにしていたように、抱きついて笑い飛ばそうとしたが。席を立ったとたんにジリスがよろけた。まだ本調子ではないのに急に動いたせいだ。
(まずい! 倒れる)
床に転がる痛みを覚悟して目を閉じた、が。
「ジリス様!」
瞬時に身をひるがえしたアルが、ジリスを抱き留めてくれた。一瞬の速さに驚くとともに、アルの心臓がバクバク鳴り響いているのが伝わってきた。
「あ。ごめん、なさい」
「いえ。どこか、痛むところはありませんか? お怪我は、しておりませんか?」
真剣な顔のアルが、すぐにジリスの手足に目を向けた。骨や関節の動きを確認する動きを見て、訓練をしている騎士なのだと分かった。
「痛みはないよ。大丈夫。助けてくれて、ありがとう」
ジリスの声に、アルが我に返ったように動きを止めた。
「あ、申し訳ありません。つい、このようにか細いと、心配になってしまいまして」
アルの膝の上からジリスはそっと降ろされた。
「そっか。僕はか弱い、か。あはは。黒の国では、こんなものだと思うけどな」
自分で言ってジリスは虚しくなった。
白国のアルファは大きな体格で力強く、黒国のオメガは抵抗もできない弱い存在だ。か弱くて、組み敷かれる存在。そんな風に思うと、ジリスの心が一気に沈んだ。急にうなじがズキリと痛みを主張する。
「いえ、俺の言い間違えです。ジリス様がか細く美しいため、お怪我などさせてしまったら、俺は自分が許せないと思っただけです」
アルは、優しく背中を支えてジリスを椅子に戻してくれた。それにも礼を伝えて、アルは良い人だと改めて思った。
「そっか。僕はアルが世話係で嬉しいよ」
「勿体ないお言葉です」
アルと見つめ合って二人で微笑んだ。
「では、もう少しだけ、お話をさせていただけますか?」
アルが新たなティーセットをテーブルに運んでくれた。アルは斜め前の席に座った。
「ネモス殿下の狙いが、ジリスさまには分かりますか?」
席に着いたアルは、凛とした顔をしている。そのピリッとした空気に、ジリスも背を正した。
久しぶりの濃い色の食事に夢中になった。けれど、万全な状態ではないジリスは思ったよりも食べられなかった。
悔しいような思いで食事を見つめた。すると、静かに食事を見守っていたアルがクスッと笑った。その笑いに、さすがに食事にがっつき過ぎたか、とジリスは後悔した。
「せっかくの黒料理なのに食べきれないなんて、勿体ないから」
ジリスは照れ笑いを浮かべた。
「またご用意します。お口に合ったようで安心しました」
食事に未練たらたらのジリスを、アルは優しく見守ってくれる。穏やかな青い瞳にジリスの心がフワッと温かくなる。
「うん。もう少ししたら、また食べられるかも。まだ片付けないで」
「では、食後のお茶を用意します。そして、お茶と一緒に、俺と少し話しませんか?」
「それは是非お願いしたい。僕はアルのことが知りたい」
ジリスはアルの方に意識を向けた。
「あはは。やっと食事から目が離れましたね」
アルに笑われると恥ずかしくなる。ジリスは王族らしくなかったかもしれない。
「……笑うなよ。意地悪だ」
久しぶりの黒料理と黒茶に歓喜しただけで、ジリスは決して食に卑しいワケではない。
「ははは。すみません。あまりに愛らしいので」
クスクス笑いをしていたアルが、とうとう声にだして笑った。しかし、すぐに真顔に戻ってしまった。
「っと、申し訳ありません。大変失礼いたしました」
ゴホンとわざとらしく咳をするアルの顔が真っ赤だ。これにはジリスがニンマリしてしまった。
「へぇ。白国騎士様は、未来の王妃に、愛らしいとか言っちゃうんだ。へぇぇ」
ジリスにイタズラ気分が湧き上がった。こんな楽しい気持ちは久しぶりだ。
「あ、いえ。申しわけ、ありません」
ごにょごにょと焦って謝罪するアルを、少しからかいたくなった。
ジリスが黒国で兄のカザルにしていたように、抱きついて笑い飛ばそうとしたが。席を立ったとたんにジリスがよろけた。まだ本調子ではないのに急に動いたせいだ。
(まずい! 倒れる)
床に転がる痛みを覚悟して目を閉じた、が。
「ジリス様!」
瞬時に身をひるがえしたアルが、ジリスを抱き留めてくれた。一瞬の速さに驚くとともに、アルの心臓がバクバク鳴り響いているのが伝わってきた。
「あ。ごめん、なさい」
「いえ。どこか、痛むところはありませんか? お怪我は、しておりませんか?」
真剣な顔のアルが、すぐにジリスの手足に目を向けた。骨や関節の動きを確認する動きを見て、訓練をしている騎士なのだと分かった。
「痛みはないよ。大丈夫。助けてくれて、ありがとう」
ジリスの声に、アルが我に返ったように動きを止めた。
「あ、申し訳ありません。つい、このようにか細いと、心配になってしまいまして」
アルの膝の上からジリスはそっと降ろされた。
「そっか。僕はか弱い、か。あはは。黒の国では、こんなものだと思うけどな」
自分で言ってジリスは虚しくなった。
白国のアルファは大きな体格で力強く、黒国のオメガは抵抗もできない弱い存在だ。か弱くて、組み敷かれる存在。そんな風に思うと、ジリスの心が一気に沈んだ。急にうなじがズキリと痛みを主張する。
「いえ、俺の言い間違えです。ジリス様がか細く美しいため、お怪我などさせてしまったら、俺は自分が許せないと思っただけです」
アルは、優しく背中を支えてジリスを椅子に戻してくれた。それにも礼を伝えて、アルは良い人だと改めて思った。
「そっか。僕はアルが世話係で嬉しいよ」
「勿体ないお言葉です」
アルと見つめ合って二人で微笑んだ。
「では、もう少しだけ、お話をさせていただけますか?」
アルが新たなティーセットをテーブルに運んでくれた。アルは斜め前の席に座った。
「ネモス殿下の狙いが、ジリスさまには分かりますか?」
席に着いたアルは、凛とした顔をしている。そのピリッとした空気に、ジリスも背を正した。
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