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Ⅲ 世話係のアルファ
⑦
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「はぁ? はぁ? そんな、そんなこと……」
「はい。それこそが、ネモス殿下のねらいです。邪魔な俺を排除でき、ジリス様を罪人として管理下に置けて、好き放題にできる、という魂胆です」
ジリスはワナワナと震えた。
「僕は、この国に来るのに、一生を王妃として国の安寧に捧げる決意で来たんだ。誰のためでもない、黒国と、白国と、御神のためだよ。けど、来たくて来たんじゃない。寂しい気持ちも、辛い別れも抱えて、ここに来たんだ。それなのに、それなのに……」
「はい。承知しております。あなた様を国境から護衛する間に、それを痛いほど感じました。ネモス殿下がお相手で申し訳ないと、何度も思いました」
再び、アルが深く頭を下げる。
「許していただこうなど、白国のアルファとしてとても言えません。ただ、少しでもジリス様が苦痛なく過ごせるよう、俺が全力でお世話します」
悔しさに唇を噛みしめて、ジリスはアルを見た。
「いいよ。アルのせいじゃない。それに、アルの立場上、ネモス殿下の暴走を止めることなど、出来ないはずだ」
「ジリス様のご聡明さに感謝します」
アルは貴族として王族の指示に背けない。
「国王陛下や、周囲の貴族は、気づかなかったのかなぁ」
「そのあたりは、ネモス殿下の、不思議に悪運が強いと言うか、要領が良いと言うか」
ため息をつくアルを見て、ジリスもため息をつきたくなった。二人で顔を見合わせた。
「現実には、僕はネモス殿下の番だ。これは、もう揺るがない事実だ」
首後ろに手を伸ばし、当てられているガーゼに触れた。
「はい。ここまでは、ネモス殿下の思惑通りです。ですが、ネモス殿下は、俺とジリス様の不義を狙って、俺を世話係に任命しているので、そこは絶対に思惑通りにしたくないと思っています」
ジリスはコクリと頷いた。
「僕だって、ネモス殿下の意のままなんて嫌だ。つまり、アルと僕は、同盟を組んでネモス殿下に立ち向かうってことだね」
「はい。その通りです。私たちは、決して不義の事実を作らない、つまり、性交をしないと誓い合いましょう。この部屋には白魔術で、不義の事実があれば証拠が残るように、仕掛けがされています」
「ええ? 見張られているの?」
ジリスは室内をキョロキョロ見渡した。
「いえ。見張ることなど白魔術では出来ません。ただ、不貞行為はすぐに通報される。それ以外のことは、見られていません」
ジリスは胸を撫でおろした。
「そっか。それで、入浴の時にも、直接は触れないって言ったのか」
「はい。自慰のお相手までは許される範囲です」
アルの言葉にジリスは顔が熱くなった。入浴時の行為を思い出してしまった。恥ずかしさにアルから顔を背けた。
「俺が不慣れで、不快な思いをさせてしまっていたら、申し訳ありません。なにしろ、番教育で学んだことしか知識にありません」
驚きの告白に、ジリスはアルを見た。
「え、っと。経験が、無いってこと?」
「はい。万が一、俺が王位を継承する時には、俺の全てを番のオメガに尽くせるように、相手だけを愛せるように、と思っていましたので」
その言葉を聞いて、どうしてジリスの相手はアルじゃなかったのかと、悔しさにこぶしを握り締めた。少しの沈黙が流れた。
「俺は、侯爵家の一人息子です。家督を継ぐのは自分だと昔から自覚しておりました。それがアルファと診断が出て、王位継承者に名が上がりました。我が侯爵家の領地の民は水害に悩まされ、決して豊かな領地ではなかったのです。それを父の代から治水を行い、やっと豊かな領地になりました。ですが、今、我が領地の豊かさに目を付けられています」
ジリスにも話が読めてきた。
「つまり、家督を継ぐアルが、未来の王妃と不貞をした犯罪者になり失脚すれば、お家断絶になる。豊かになった領地を国が没収できるってことだね」
「はい。そうすると、我が領地の民は増税に苦しむことになります。俺は、ここまで苦しんだ民がやっと得た生活を守りたいのです。俺は王位などどうでもいいのですが、自分の領地の民のために、ネモス殿下の策略に落ちるわけにはいかないのです」
まっすぐに見つめてくる青い瞳がジリスの心をキュンと刺した。
「だから、ジリス様とともに戦っていきたいのです」
ジリスはアルの思いが良く分かった。
「僕だって、ネモス殿下の思い通りにさせたくない。僕は、アルと手を繋ぐよ。アルに誓う。絶対に恋仲にならない。性的な関係は持たない」
そう誓いながら、ジリスはズキリと胸が痛んだ。ジリスの言葉に、アルの表情が一瞬悲しそうに陰りを帯びた。
「はい。俺も、ジリス様に誓います。そして、ネモス殿下の次の手を読んでいく必要があります。きっと何か仕掛けてきます」
「うん。一緒に、負けないように頑張ろう」
「はい。ジリス様がご聡明な方で嬉しく思います。さすが未来の王妃様です」
褒めてもらったのだが、ジリスは寂しいような切ない思いを必死で心に隠した。
――アルが番相手なら、幸せな番生活になっただろうな。ネモスよりアルがいい。
苦しい考えがジリスの奥でくすぶった。
「はい。それこそが、ネモス殿下のねらいです。邪魔な俺を排除でき、ジリス様を罪人として管理下に置けて、好き放題にできる、という魂胆です」
ジリスはワナワナと震えた。
「僕は、この国に来るのに、一生を王妃として国の安寧に捧げる決意で来たんだ。誰のためでもない、黒国と、白国と、御神のためだよ。けど、来たくて来たんじゃない。寂しい気持ちも、辛い別れも抱えて、ここに来たんだ。それなのに、それなのに……」
「はい。承知しております。あなた様を国境から護衛する間に、それを痛いほど感じました。ネモス殿下がお相手で申し訳ないと、何度も思いました」
再び、アルが深く頭を下げる。
「許していただこうなど、白国のアルファとしてとても言えません。ただ、少しでもジリス様が苦痛なく過ごせるよう、俺が全力でお世話します」
悔しさに唇を噛みしめて、ジリスはアルを見た。
「いいよ。アルのせいじゃない。それに、アルの立場上、ネモス殿下の暴走を止めることなど、出来ないはずだ」
「ジリス様のご聡明さに感謝します」
アルは貴族として王族の指示に背けない。
「国王陛下や、周囲の貴族は、気づかなかったのかなぁ」
「そのあたりは、ネモス殿下の、不思議に悪運が強いと言うか、要領が良いと言うか」
ため息をつくアルを見て、ジリスもため息をつきたくなった。二人で顔を見合わせた。
「現実には、僕はネモス殿下の番だ。これは、もう揺るがない事実だ」
首後ろに手を伸ばし、当てられているガーゼに触れた。
「はい。ここまでは、ネモス殿下の思惑通りです。ですが、ネモス殿下は、俺とジリス様の不義を狙って、俺を世話係に任命しているので、そこは絶対に思惑通りにしたくないと思っています」
ジリスはコクリと頷いた。
「僕だって、ネモス殿下の意のままなんて嫌だ。つまり、アルと僕は、同盟を組んでネモス殿下に立ち向かうってことだね」
「はい。その通りです。私たちは、決して不義の事実を作らない、つまり、性交をしないと誓い合いましょう。この部屋には白魔術で、不義の事実があれば証拠が残るように、仕掛けがされています」
「ええ? 見張られているの?」
ジリスは室内をキョロキョロ見渡した。
「いえ。見張ることなど白魔術では出来ません。ただ、不貞行為はすぐに通報される。それ以外のことは、見られていません」
ジリスは胸を撫でおろした。
「そっか。それで、入浴の時にも、直接は触れないって言ったのか」
「はい。自慰のお相手までは許される範囲です」
アルの言葉にジリスは顔が熱くなった。入浴時の行為を思い出してしまった。恥ずかしさにアルから顔を背けた。
「俺が不慣れで、不快な思いをさせてしまっていたら、申し訳ありません。なにしろ、番教育で学んだことしか知識にありません」
驚きの告白に、ジリスはアルを見た。
「え、っと。経験が、無いってこと?」
「はい。万が一、俺が王位を継承する時には、俺の全てを番のオメガに尽くせるように、相手だけを愛せるように、と思っていましたので」
その言葉を聞いて、どうしてジリスの相手はアルじゃなかったのかと、悔しさにこぶしを握り締めた。少しの沈黙が流れた。
「俺は、侯爵家の一人息子です。家督を継ぐのは自分だと昔から自覚しておりました。それがアルファと診断が出て、王位継承者に名が上がりました。我が侯爵家の領地の民は水害に悩まされ、決して豊かな領地ではなかったのです。それを父の代から治水を行い、やっと豊かな領地になりました。ですが、今、我が領地の豊かさに目を付けられています」
ジリスにも話が読めてきた。
「つまり、家督を継ぐアルが、未来の王妃と不貞をした犯罪者になり失脚すれば、お家断絶になる。豊かになった領地を国が没収できるってことだね」
「はい。そうすると、我が領地の民は増税に苦しむことになります。俺は、ここまで苦しんだ民がやっと得た生活を守りたいのです。俺は王位などどうでもいいのですが、自分の領地の民のために、ネモス殿下の策略に落ちるわけにはいかないのです」
まっすぐに見つめてくる青い瞳がジリスの心をキュンと刺した。
「だから、ジリス様とともに戦っていきたいのです」
ジリスはアルの思いが良く分かった。
「僕だって、ネモス殿下の思い通りにさせたくない。僕は、アルと手を繋ぐよ。アルに誓う。絶対に恋仲にならない。性的な関係は持たない」
そう誓いながら、ジリスはズキリと胸が痛んだ。ジリスの言葉に、アルの表情が一瞬悲しそうに陰りを帯びた。
「はい。俺も、ジリス様に誓います。そして、ネモス殿下の次の手を読んでいく必要があります。きっと何か仕掛けてきます」
「うん。一緒に、負けないように頑張ろう」
「はい。ジリス様がご聡明な方で嬉しく思います。さすが未来の王妃様です」
褒めてもらったのだが、ジリスは寂しいような切ない思いを必死で心に隠した。
――アルが番相手なら、幸せな番生活になっただろうな。ネモスよりアルがいい。
苦しい考えがジリスの奥でくすぶった。
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