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Ⅳ 白の国と白魔術
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「ジリス様……」
アルがジリスの頬を優しく拭ってくれた。
アルの顔が辛そうに歪んでいる。そんなアルを見ていると、涙が止まった。
アルの瞳がジリスを映している。青い瞳に映る自分は、悲しそうには見えなかった。そっと鏡に目を移せば、ジリスにはアルが寄り添っている。
(ひとりじゃ、ない。そうだよ。アルがいる)
ジリスの沈んだ心がフワっと浮上した。
「アル、おはよ。朝から、ゴメン」
「はい。おはようございます。前髪が短くなったせいでしょうか? 髪を結い上げていらっしゃるせいでしょうか? 今日は一段と、お美しいです」
ジリスが泣いたことには触れてこない。アルは、優しい。
「あはは。動きやすいようにしただけだよ。城下街にでるんだろ?」
ジリスも何も無かったかのように振る舞った。
「はい。ですが、朝食がほぼ残っておりますので、体調が悪ければやめましょうか?」
「いや、絶対に行く。食欲がわかないだけ。動けば食べれるよ。今日は外で食べて良いよね?」
「はい。夕刻四時までに戻れば大丈夫です。買いたい物があれば、何でも買ってかまいません」
「そっか。僕は部屋から出られるだけでも嬉しいよ」
ニカっと笑ってみせれば、アルは少し頬を染めて、ニコリと笑い返してくれた。
「是非、我が白の国を知ってください。このネモス殿下の離宮だけが白の国ではありませんから」
その通りだと思う。アルの言うことは信じてみたい。
「それから、こちらをどうぞ」
アルが手渡してくれたのは、濃紺の上着だ。袖や裾に金の刺繍が施されている。上品なデザインだ。
「黒は用意できなくて、すみません」
首元のスカーフ以外は真っ白になりそうだったジリスの肩に薄い生地の上着が掛けられる。
「うん。夜の闇みたいで綺麗だ」
「ジリス様、とてもお似合いです」
白に疲れていたジリスは身を包む紺色が嬉しくて、上着をギュッと抱きしめた。
「ありがとう」
感謝を伝えれば、アルはニッコリ笑ってくれた。
城から獣馬車を使い十分ほど移動した。ジリスとアルが乗っているのは、少人数用の王家専用獣馬車だ。それなのに、護衛は前後に近衛兵が二名ずつのみ。
「僕の存在価値の薄さが分るよ。未来の王妃のはずだけど」
王族護衛がこれほど手薄で良いわけがない。ジリスが入国したときには騎士団が護衛していた。それを考えると、今の手薄さはワザとであろう。
「そうですね。これもネモス殿下の作戦でしょう」
「は? どういうこと?」
ネモスの作戦と聞けば、簡単に作戦に引っかかるわけにはいかない。集中して話を聞こう、とアルに身体を向けた。
「俺たちが外出する時には、出来るだけ二人の時間を作り、自然と恋仲になるように、と。護衛は必要最低限にするよう指示を出しているのだと想像します」
ジリスは大きく息を吐いて身体の力を抜いた。
「バッカだねぇ。それこそ今、僕に何かあったら、王妃不在になって王位につけないのにな」
ネモスはまだ王太子だ。正式な王位継承をする時に、王妃となる番のオメガがいなくてはいけない。ネモスの番がジリスなのだから、ジリスを護衛しなくては自分が困るのに。
そんなジリスの考えを読んだかのように、アルがコクリと頷いた。
「はい。その通りです。ネモス殿下は欲が強くて、少し先の事に考えが至らないのが、残念なところです」
「ブッハ! 残念って言っちゃったよ」
ジリスが背を丸めて笑うと、アルが肩をすくめた。
「ココだけの話だから良いんです。正直、あの方が国政を担うとなると、頭が痛いのです。どうにか国の民が苦しまないように、と思うのですが……」
話し途中だったが、ガタンと獣馬車が停車した。コンコンとノック音に続いて、「到着いたしました」と侍従の声が聞こえた。
「おっと、この話しは、ここまでです。さ、ここからは、嫌な事は忘れて楽しみましょう」
爽やかな笑みを向けるアルに、ジリスも笑みを返した。
アルがジリスの頬を優しく拭ってくれた。
アルの顔が辛そうに歪んでいる。そんなアルを見ていると、涙が止まった。
アルの瞳がジリスを映している。青い瞳に映る自分は、悲しそうには見えなかった。そっと鏡に目を移せば、ジリスにはアルが寄り添っている。
(ひとりじゃ、ない。そうだよ。アルがいる)
ジリスの沈んだ心がフワっと浮上した。
「アル、おはよ。朝から、ゴメン」
「はい。おはようございます。前髪が短くなったせいでしょうか? 髪を結い上げていらっしゃるせいでしょうか? 今日は一段と、お美しいです」
ジリスが泣いたことには触れてこない。アルは、優しい。
「あはは。動きやすいようにしただけだよ。城下街にでるんだろ?」
ジリスも何も無かったかのように振る舞った。
「はい。ですが、朝食がほぼ残っておりますので、体調が悪ければやめましょうか?」
「いや、絶対に行く。食欲がわかないだけ。動けば食べれるよ。今日は外で食べて良いよね?」
「はい。夕刻四時までに戻れば大丈夫です。買いたい物があれば、何でも買ってかまいません」
「そっか。僕は部屋から出られるだけでも嬉しいよ」
ニカっと笑ってみせれば、アルは少し頬を染めて、ニコリと笑い返してくれた。
「是非、我が白の国を知ってください。このネモス殿下の離宮だけが白の国ではありませんから」
その通りだと思う。アルの言うことは信じてみたい。
「それから、こちらをどうぞ」
アルが手渡してくれたのは、濃紺の上着だ。袖や裾に金の刺繍が施されている。上品なデザインだ。
「黒は用意できなくて、すみません」
首元のスカーフ以外は真っ白になりそうだったジリスの肩に薄い生地の上着が掛けられる。
「うん。夜の闇みたいで綺麗だ」
「ジリス様、とてもお似合いです」
白に疲れていたジリスは身を包む紺色が嬉しくて、上着をギュッと抱きしめた。
「ありがとう」
感謝を伝えれば、アルはニッコリ笑ってくれた。
城から獣馬車を使い十分ほど移動した。ジリスとアルが乗っているのは、少人数用の王家専用獣馬車だ。それなのに、護衛は前後に近衛兵が二名ずつのみ。
「僕の存在価値の薄さが分るよ。未来の王妃のはずだけど」
王族護衛がこれほど手薄で良いわけがない。ジリスが入国したときには騎士団が護衛していた。それを考えると、今の手薄さはワザとであろう。
「そうですね。これもネモス殿下の作戦でしょう」
「は? どういうこと?」
ネモスの作戦と聞けば、簡単に作戦に引っかかるわけにはいかない。集中して話を聞こう、とアルに身体を向けた。
「俺たちが外出する時には、出来るだけ二人の時間を作り、自然と恋仲になるように、と。護衛は必要最低限にするよう指示を出しているのだと想像します」
ジリスは大きく息を吐いて身体の力を抜いた。
「バッカだねぇ。それこそ今、僕に何かあったら、王妃不在になって王位につけないのにな」
ネモスはまだ王太子だ。正式な王位継承をする時に、王妃となる番のオメガがいなくてはいけない。ネモスの番がジリスなのだから、ジリスを護衛しなくては自分が困るのに。
そんなジリスの考えを読んだかのように、アルがコクリと頷いた。
「はい。その通りです。ネモス殿下は欲が強くて、少し先の事に考えが至らないのが、残念なところです」
「ブッハ! 残念って言っちゃったよ」
ジリスが背を丸めて笑うと、アルが肩をすくめた。
「ココだけの話だから良いんです。正直、あの方が国政を担うとなると、頭が痛いのです。どうにか国の民が苦しまないように、と思うのですが……」
話し途中だったが、ガタンと獣馬車が停車した。コンコンとノック音に続いて、「到着いたしました」と侍従の声が聞こえた。
「おっと、この話しは、ここまでです。さ、ここからは、嫌な事は忘れて楽しみましょう」
爽やかな笑みを向けるアルに、ジリスも笑みを返した。
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