31 / 100
Ⅳ 白の国と白魔術
⑦
しおりを挟む
その晩、ジリスは考えた。
ジリスはネモスと番になってしまっている。これは現実だ。それに、ジリスは王妃として白国に来た。ネモスと生涯をともにすることは、避けられない。
だが、ネモスは変わらないだろう。ジリスはきっと生涯、苦しめられる。
独り放置された発情期を思い出すと恐怖に身体が震えた。
ただ、ジリスはこんな現実は納得できない。はいそうですか、と大人しくしているのは嫌だ。打開策を持つことが必要だ。
ネモスに対して、何かしら対抗手段を持たなくてはいけない。そのために、アルは大切な存在だ。だから、アルと協力しあえる関係でなくてはいけない。アルと手を繋いでいられるように、絶対に恋仲になどならない。
そう自分に言い聞かせた。
(そう。僕とアルは戦友だ。見ていろよ、ネモスめ! そうだな、まずは、白国の知識が欲しい。何事も知ることが一番大切だよな)
今日一日で知った白魔術やカフェのことを考えると、ジリスの心がホワッとした。
(明日は白魔術の特訓だ! 僕は黒魔術上級者だぞ。白魔術も完璧に習得してやる)
ジリスが白魔術を使いこなしたら、アルは驚くだろう。アルの反応を考えるとジリスの頬が緩んだ。
今日の一日は楽しかった。ジリスは優しい気持ちで眠りについた。
白一色の部屋だけれど、この白を味方に付けてやる、と自分自身に気合を入れた。
楽しみに待った翌日。朝食の時間にアルが訪室した。
「ジリス様、おはようございます」
「おはよう」
アルが入室すると良い匂いが広がった。アルが手にしている籠から匂いがしている。食欲をそそる甘い香りだ。ジリスの目が籠に釘付けになる。
「アル、なに持っているの?」
「ジリス様は甘いものがお好きなので、焼きたてクイニーアマンとアーモンドキャラメルパンをお持ちしました」
「凄い! 見たい、食べたい!」
興奮するジリスにアルが満足そうに微笑んだ。
「はい。もちろんです。すぐに黒茶を淹れましょう」
微笑みながらアルが籠の蓋を開けた。匂いが脳を充満する。思わず胸いっぱいに空気を吸いこんだ。程よく焼き色のついたパンがジリスの目に留まる。美味しそうだ。
「白じゃ、ないね」
テーブルには朝食に出された真っ白なパンがある。アルが持参したのは茶色のパンだ。見比べて、アルと顔を見合わせた。
「えっと、ですね。白国とはいえ、白だけと言うわけではないのです」
言いにくそうに説明するアルを見てジリスは笑った。
「分かっているよ」
諦めたように朝食を指さして肩をすぼめれば、アルは申し訳なさそうに下を向いた。そんなアルの両頬をムニっと手で挟んだ。アルがハッと驚いたように固まる。
「アルが悪いワケじゃないって」
アルを覗き込むようにジリスが声を掛けた。すると、アルの顔は見る間に真っ赤になった。
「アル?」
心配になり両頬を解放する。頬に触れてしまい苦しかったのかもしれない。
「ごめん、嫌だった?」
「いえ、とんでもありません。その、黒国では、スキンシップが多いのでしょうか。白国より、距離感が近いのですね」
ジリスは首を傾げて考えた。
「僕は白国の普通が分からないよ。でも、僕は兄様に抱きついてスキンシップしていた。黒国では、親しければ触れ合うのは普通だよ」
アルが真面目な顔で静止している。その瞳が残念そうな色を浮かべる。
「あ、これが、普通、なのですね……」
声に張りが無くなった。どうしたのか聞こうとしたが、アルが微笑みを残してキッチンに入ってしまった。
ジリスにはアルの態度の意味が分からなかった。
ジリスはネモスと番になってしまっている。これは現実だ。それに、ジリスは王妃として白国に来た。ネモスと生涯をともにすることは、避けられない。
だが、ネモスは変わらないだろう。ジリスはきっと生涯、苦しめられる。
独り放置された発情期を思い出すと恐怖に身体が震えた。
ただ、ジリスはこんな現実は納得できない。はいそうですか、と大人しくしているのは嫌だ。打開策を持つことが必要だ。
ネモスに対して、何かしら対抗手段を持たなくてはいけない。そのために、アルは大切な存在だ。だから、アルと協力しあえる関係でなくてはいけない。アルと手を繋いでいられるように、絶対に恋仲になどならない。
そう自分に言い聞かせた。
(そう。僕とアルは戦友だ。見ていろよ、ネモスめ! そうだな、まずは、白国の知識が欲しい。何事も知ることが一番大切だよな)
今日一日で知った白魔術やカフェのことを考えると、ジリスの心がホワッとした。
(明日は白魔術の特訓だ! 僕は黒魔術上級者だぞ。白魔術も完璧に習得してやる)
ジリスが白魔術を使いこなしたら、アルは驚くだろう。アルの反応を考えるとジリスの頬が緩んだ。
今日の一日は楽しかった。ジリスは優しい気持ちで眠りについた。
白一色の部屋だけれど、この白を味方に付けてやる、と自分自身に気合を入れた。
楽しみに待った翌日。朝食の時間にアルが訪室した。
「ジリス様、おはようございます」
「おはよう」
アルが入室すると良い匂いが広がった。アルが手にしている籠から匂いがしている。食欲をそそる甘い香りだ。ジリスの目が籠に釘付けになる。
「アル、なに持っているの?」
「ジリス様は甘いものがお好きなので、焼きたてクイニーアマンとアーモンドキャラメルパンをお持ちしました」
「凄い! 見たい、食べたい!」
興奮するジリスにアルが満足そうに微笑んだ。
「はい。もちろんです。すぐに黒茶を淹れましょう」
微笑みながらアルが籠の蓋を開けた。匂いが脳を充満する。思わず胸いっぱいに空気を吸いこんだ。程よく焼き色のついたパンがジリスの目に留まる。美味しそうだ。
「白じゃ、ないね」
テーブルには朝食に出された真っ白なパンがある。アルが持参したのは茶色のパンだ。見比べて、アルと顔を見合わせた。
「えっと、ですね。白国とはいえ、白だけと言うわけではないのです」
言いにくそうに説明するアルを見てジリスは笑った。
「分かっているよ」
諦めたように朝食を指さして肩をすぼめれば、アルは申し訳なさそうに下を向いた。そんなアルの両頬をムニっと手で挟んだ。アルがハッと驚いたように固まる。
「アルが悪いワケじゃないって」
アルを覗き込むようにジリスが声を掛けた。すると、アルの顔は見る間に真っ赤になった。
「アル?」
心配になり両頬を解放する。頬に触れてしまい苦しかったのかもしれない。
「ごめん、嫌だった?」
「いえ、とんでもありません。その、黒国では、スキンシップが多いのでしょうか。白国より、距離感が近いのですね」
ジリスは首を傾げて考えた。
「僕は白国の普通が分からないよ。でも、僕は兄様に抱きついてスキンシップしていた。黒国では、親しければ触れ合うのは普通だよ」
アルが真面目な顔で静止している。その瞳が残念そうな色を浮かべる。
「あ、これが、普通、なのですね……」
声に張りが無くなった。どうしたのか聞こうとしたが、アルが微笑みを残してキッチンに入ってしまった。
ジリスにはアルの態度の意味が分からなかった。
103
あなたにおすすめの小説
運命を知らないアルファ
riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。
運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!?
オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω
オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。
コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
陰日向から愛を馳せるだけで
麻田
BL
あなたに、愛されたい人生だった…――
政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。
結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。
ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。
自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。
「好きになってもらいたい。」
…そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。
それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。
いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。
結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…
―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…
陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。
よかったはずなのに…
呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。
◇◇◇
片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。
二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。
セリ (18)
南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵
ローレン(24)
北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵
◇◇◇
50話で完結となります。
お付き合いありがとうございました!
♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。
おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎
また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!
【完結】王のための花は獣人騎士に初恋を捧ぐ
トオノ ホカゲ
BL
田舎の貧村で暮らすリオンは、幼い頃からオメガであることを理由に虐げられてきた。唯一の肉親である母親を三か月前に病気で亡くし、途方に暮れていたところを、突然現れたノルツブルク王国の獣人の騎士・クレイドに助けられる。クレイドは王・オースティンの命令でリオンを迎えに来たという。そのままクレイドに連れられノルツブルク王国へ向かったリオンは、優しく寄り添ってくれるクレイドに次第に惹かれていくがーーーー?
心に傷を持つ二人が心を重ね、愛を探す優しいオメガバースの物語。
(登場人物)
・リオン(受け)
心優しいオメガ。頑張り屋だが自分に自信が持てない。元女官で薬師だった母のアナに薬草の知識などを授けられたが、三か月前にその母も病死して独りになってしまう。
・クレイド(攻め)
ノルツブルク王国第一騎士団の隊長で獣人。幼いころにオースティンの遊び相手に選ばれ、ともにアナから教育を受けた。現在はオースティンの右腕となる。
・オースティン
ノルツブルク王国の国王でアルファ。
大嫌いなアルファと結婚しまして
リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ
久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。
パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。
オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った
こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる