【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

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Ⅳ 白の国と白魔術

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 その晩、ジリスは考えた。

 ジリスはネモスと番になってしまっている。これは現実だ。それに、ジリスは王妃として白国に来た。ネモスと生涯をともにすることは、避けられない。

 だが、ネモスは変わらないだろう。ジリスはきっと生涯、苦しめられる。

 独り放置された発情期を思い出すと恐怖に身体が震えた。

 ただ、ジリスはこんな現実は納得できない。はいそうですか、と大人しくしているのは嫌だ。打開策を持つことが必要だ。

 ネモスに対して、何かしら対抗手段を持たなくてはいけない。そのために、アルは大切な存在だ。だから、アルと協力しあえる関係でなくてはいけない。アルと手を繋いでいられるように、絶対に恋仲になどならない。
 そう自分に言い聞かせた。

(そう。僕とアルは戦友だ。見ていろよ、ネモスめ! そうだな、まずは、白国の知識が欲しい。何事も知ることが一番大切だよな)

 今日一日で知った白魔術やカフェのことを考えると、ジリスの心がホワッとした。

(明日は白魔術の特訓だ! 僕は黒魔術上級者だぞ。白魔術も完璧に習得してやる)
 ジリスが白魔術を使いこなしたら、アルは驚くだろう。アルの反応を考えるとジリスの頬が緩んだ。

 今日の一日は楽しかった。ジリスは優しい気持ちで眠りについた。
 白一色の部屋だけれど、この白を味方に付けてやる、と自分自身に気合を入れた。

 楽しみに待った翌日。朝食の時間にアルが訪室した。


「ジリス様、おはようございます」
「おはよう」

 アルが入室すると良い匂いが広がった。アルが手にしている籠から匂いがしている。食欲をそそる甘い香りだ。ジリスの目が籠に釘付けになる。

「アル、なに持っているの?」
「ジリス様は甘いものがお好きなので、焼きたてクイニーアマンとアーモンドキャラメルパンをお持ちしました」
「凄い! 見たい、食べたい!」

興奮するジリスにアルが満足そうに微笑んだ。

「はい。もちろんです。すぐに黒茶を淹れましょう」

微笑みながらアルが籠の蓋を開けた。匂いが脳を充満する。思わず胸いっぱいに空気を吸いこんだ。程よく焼き色のついたパンがジリスの目に留まる。美味しそうだ。

「白じゃ、ないね」
テーブルには朝食に出された真っ白なパンがある。アルが持参したのは茶色のパンだ。見比べて、アルと顔を見合わせた。

「えっと、ですね。白国とはいえ、白だけと言うわけではないのです」

 言いにくそうに説明するアルを見てジリスは笑った。

「分かっているよ」
 諦めたように朝食を指さして肩をすぼめれば、アルは申し訳なさそうに下を向いた。そんなアルの両頬をムニっと手で挟んだ。アルがハッと驚いたように固まる。

「アルが悪いワケじゃないって」

 アルを覗き込むようにジリスが声を掛けた。すると、アルの顔は見る間に真っ赤になった。

「アル?」
 心配になり両頬を解放する。頬に触れてしまい苦しかったのかもしれない。

「ごめん、嫌だった?」
「いえ、とんでもありません。その、黒国では、スキンシップが多いのでしょうか。白国より、距離感が近いのですね」

 ジリスは首を傾げて考えた。

「僕は白国の普通が分からないよ。でも、僕は兄様に抱きついてスキンシップしていた。黒国では、親しければ触れ合うのは普通だよ」

 アルが真面目な顔で静止している。その瞳が残念そうな色を浮かべる。

「あ、これが、普通、なのですね……」
 声に張りが無くなった。どうしたのか聞こうとしたが、アルが微笑みを残してキッチンに入ってしまった。

 ジリスにはアルの態度の意味が分からなかった。
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