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Ⅳ 白の国と白魔術
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「では、基本ですが、白魔術は自分にはかけられません」
「あ、黒魔術と同じだね」
「はい。自分以外の何かに、小さな幸福を願うものです」
「小さな幸福、ラッキーを願うんだね。昨日のアルの白魔術は、蝶々が止まれば良いな、というラッキーを願ったんだね」
「そうです。ラッキーが大きいほど、糧となる善行がたくさん必要です」
「じゃ、三十分の草取りは、どんなラッキーになるのかな」
「そよ風、でどうでしょう。ここにリボンのついた棒を立てますので、このリボンが風に揺れれば成功です」
「いいね。目に見えて分かるし」
芝生公園には優しい風が吹いている。ただ、棒についたリボンが泳ぐほどではない。ジリスはアルに向けてニカっと笑った。
「このリボン、すぐに揺らしてみせるから」
「楽しみにしております」
アルが優しく笑った。
『御神の御心よ、地からの願いに慈悲を与え、願いに恵みを注ぎたまえ』
何度目かになるジリスの詠唱が静かに消えていく。胸の前で組んだ手は光らない。アルが見本で見せてくれた時には、昼間でも分かる光が生じたのに。
「ねぇ、アル。善行が足りないってことは?」
「いえ、そんなことは……」
アルの眉がハの字になる。こんな顔をして欲しかったんじゃない。悔しくてジリスは唇を噛みしめた。
『御神の御心よ、地からの願いに慈悲を与え、願いに恵みを注ぎたまえ』
もう一度、心を込めて詠唱を唱えた。
ジリスはアルの笑顔が見たい。アルに『すごいですね』と言われたい。世話をしてもらってばかりのジリスじゃなく、役に立つと思われたい。胸の前に合わせた手に力が入る。
(御神よ。そよ風の恵みを。リボンを揺らす風を、ここに願います)
必死に神に願った。
次の瞬間。
ジリスの手が少しだけぼんやり光った。
「あぁ! 見た? ね、アル! 僕の手が光ったよ!」
「ええ、見ました! あ、ジリス様、リボンが」
アルの指さす先では、垂れ下がっていたリボンが少しだけ風になびいて、また地に落ちた。
その動きに見とれて、しばらく二人で静止した。
「……あはは」
「……ふはは」
「できた! アル、見た? 僕が白魔術を使ったんだ!」
ジリスは両手でガッツポーズを作った。
「はい! ジリス様、素晴らしいです! 白国に来て、白魔術を習得されるとは。白国の一員として、これほど嬉しいことはありません」
アルが丁寧にジリスに頭を下げた。
ジリスの心がポッと熱くなる。成功して嬉しいけれど、本当は完璧に白魔術を使いこなして、アルに認められたかった。
ささやかなリボンの揺れじゃなく、風の中を泳ぐリボンを見せたかった。悔しさに滲みそうになる涙を、ジリスはグッとこらえた。
「ジリス様のご努力に敬意を表します」
直立してから、アルが敬礼姿勢をとった。その機敏な動きにジリスは見惚れた。
いつもの柔らかい態度とは全然違う。アルは軍人として一流だ。そう思える一瞬だった。
「……ありがとう」
アルの敬礼に一言を返した。優しい秋風がジリスとアルの間を抜けていく。
アルの綺麗な瞳に涙が光っていた。ジリスは涙の意味を聞くのは止めた。何となく、聞いてはいけないアルの心だと思ったから。
それから毎日、善行と白魔術特訓をした。その合間に街の様子を見て、白の国は小さな幸せを常に願う国民性があると知った。
この人たちの幸せが守られる国であることは大切だと思った。アルが、自分の領地の民を守りたいと思う気持ちが分かった。
この国は、ネモスのような者ばかりじゃない。一日を大切に生きている国民がいる。人々の笑顔が溢れている。この笑顔も、白国のひとつだ。
アルがいてくれて良かった。この大切な事を教えてもらえた。
そして、ジリスは白魔術には向いていないことがわかった。頑張っても、そよ風はリボンがフワリと浮く程度。なかなか上達しない。徐々に自分には無理なのだと悟り始めた。
「ジリス様のご努力される姿が尊敬に値します」
アルはいつも微笑みを浮かべて優しくそう言ってくれる。その青い瞳がキラキラ綺麗で、もう少し頑張りたいと思っている。白魔術に向いていなくていい。実際に黒国の人間であるジリスには無理だったのだ。
でも、アルのキラキラした瞳が見たい。アルと一緒にやりたい。その思いで毎日、白魔術を教えてもらっている。
アルとの充実した日々に喜びを覚え、ジリスはすっかり忘れていた。
二回目の発情期が来るという現実を。
「あ、黒魔術と同じだね」
「はい。自分以外の何かに、小さな幸福を願うものです」
「小さな幸福、ラッキーを願うんだね。昨日のアルの白魔術は、蝶々が止まれば良いな、というラッキーを願ったんだね」
「そうです。ラッキーが大きいほど、糧となる善行がたくさん必要です」
「じゃ、三十分の草取りは、どんなラッキーになるのかな」
「そよ風、でどうでしょう。ここにリボンのついた棒を立てますので、このリボンが風に揺れれば成功です」
「いいね。目に見えて分かるし」
芝生公園には優しい風が吹いている。ただ、棒についたリボンが泳ぐほどではない。ジリスはアルに向けてニカっと笑った。
「このリボン、すぐに揺らしてみせるから」
「楽しみにしております」
アルが優しく笑った。
『御神の御心よ、地からの願いに慈悲を与え、願いに恵みを注ぎたまえ』
何度目かになるジリスの詠唱が静かに消えていく。胸の前で組んだ手は光らない。アルが見本で見せてくれた時には、昼間でも分かる光が生じたのに。
「ねぇ、アル。善行が足りないってことは?」
「いえ、そんなことは……」
アルの眉がハの字になる。こんな顔をして欲しかったんじゃない。悔しくてジリスは唇を噛みしめた。
『御神の御心よ、地からの願いに慈悲を与え、願いに恵みを注ぎたまえ』
もう一度、心を込めて詠唱を唱えた。
ジリスはアルの笑顔が見たい。アルに『すごいですね』と言われたい。世話をしてもらってばかりのジリスじゃなく、役に立つと思われたい。胸の前に合わせた手に力が入る。
(御神よ。そよ風の恵みを。リボンを揺らす風を、ここに願います)
必死に神に願った。
次の瞬間。
ジリスの手が少しだけぼんやり光った。
「あぁ! 見た? ね、アル! 僕の手が光ったよ!」
「ええ、見ました! あ、ジリス様、リボンが」
アルの指さす先では、垂れ下がっていたリボンが少しだけ風になびいて、また地に落ちた。
その動きに見とれて、しばらく二人で静止した。
「……あはは」
「……ふはは」
「できた! アル、見た? 僕が白魔術を使ったんだ!」
ジリスは両手でガッツポーズを作った。
「はい! ジリス様、素晴らしいです! 白国に来て、白魔術を習得されるとは。白国の一員として、これほど嬉しいことはありません」
アルが丁寧にジリスに頭を下げた。
ジリスの心がポッと熱くなる。成功して嬉しいけれど、本当は完璧に白魔術を使いこなして、アルに認められたかった。
ささやかなリボンの揺れじゃなく、風の中を泳ぐリボンを見せたかった。悔しさに滲みそうになる涙を、ジリスはグッとこらえた。
「ジリス様のご努力に敬意を表します」
直立してから、アルが敬礼姿勢をとった。その機敏な動きにジリスは見惚れた。
いつもの柔らかい態度とは全然違う。アルは軍人として一流だ。そう思える一瞬だった。
「……ありがとう」
アルの敬礼に一言を返した。優しい秋風がジリスとアルの間を抜けていく。
アルの綺麗な瞳に涙が光っていた。ジリスは涙の意味を聞くのは止めた。何となく、聞いてはいけないアルの心だと思ったから。
それから毎日、善行と白魔術特訓をした。その合間に街の様子を見て、白の国は小さな幸せを常に願う国民性があると知った。
この人たちの幸せが守られる国であることは大切だと思った。アルが、自分の領地の民を守りたいと思う気持ちが分かった。
この国は、ネモスのような者ばかりじゃない。一日を大切に生きている国民がいる。人々の笑顔が溢れている。この笑顔も、白国のひとつだ。
アルがいてくれて良かった。この大切な事を教えてもらえた。
そして、ジリスは白魔術には向いていないことがわかった。頑張っても、そよ風はリボンがフワリと浮く程度。なかなか上達しない。徐々に自分には無理なのだと悟り始めた。
「ジリス様のご努力される姿が尊敬に値します」
アルはいつも微笑みを浮かべて優しくそう言ってくれる。その青い瞳がキラキラ綺麗で、もう少し頑張りたいと思っている。白魔術に向いていなくていい。実際に黒国の人間であるジリスには無理だったのだ。
でも、アルのキラキラした瞳が見たい。アルと一緒にやりたい。その思いで毎日、白魔術を教えてもらっている。
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二回目の発情期が来るという現実を。
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