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Ⅴ 黒魔術
①
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その日は朝から身体が熱っぽかった。
「ジリス様、お風邪ですか? 本日の予定は中止にしましょうか」
訪室したアルがジリスの額に手を伸ばした。大きな手が自分に触れることを想像し、ジリスは「んっ」と声を漏らした。アルがハッと手を止めた。
「ジリス様、これは……」
「アル、何? 触って、くれないの?」
アルが手を止める意味が分からない。ジリスはアルを見上げた。アルの眉が下がっている。青の瞳が悲しく揺れる。
「ネモス殿下をお呼びします。お待ちください」
「な、なんで! 嫌だ!」
ネモスのことを心が拒絶する。今は会ってはいけない。ジリスの頭の奥で警鐘が鳴る。
「ジリス様、発情期です」
――発情期。
その言葉がジリスの全身に響き渡る。
あの苦しい期間を思い出して、ジリスは顔から血の気が引くのが分かった。嫌だ。あんな苦しい思いは、二度としたくない。
「アル、嫌だ。もう、発情期は、嫌だ。怖い」
ガタガタ震えながらアルに縋ろうと手を伸ばした。アルが泣きそうな顔をする。
「ジリス様……」
その時、バタンと扉が開いてネモスが室内に入って来た。
「おい、黒オメガ! やっと二回目の発情期だな。待ったぞ! ほら!」
急に現れたネモスがジリスに近づいた。ジリスはネモスから目が離せなかった。
(僕の、アルファだ)
ネモスのフェロモンがジリスの神経をザワザワと刺激する。ネモスがジリスの腕を掴み、乱暴に椅子から立たせた。
その腕を掴まれた刺激にさえ、身震いするほどの興奮を覚えた。
ジリスはネモスの胸に抱き込まれた。急な刺激にジリスの心臓がドキッと動く。
自分の中のオメガの部分が反応して身体が熱い。
ネモスなど殴りたいほどに嫌いだ、と思いながら、そのアルファフェロモンを欲する自分がいる。
「はぁっ……」
切ない声がジリスの口から漏れた。ネモスの胸に顔をすり寄せて匂いを嗅いだ。陶酔するほどに良い匂いだ。
「はっ! さすが性欲獣だな。少し圧を出しただけで、このザマだ。面白いなぁ。おい、アル。見ていろ。そこを動くな」
ネモスが何か言っている。だが、ジリスはネモスの胸にしがみ付くことで頭がいっぱいだった。
「んぅっ」
急に口を塞がれた。無遠慮にジリスの口が蹂躙される。
濃厚なアルファの唾液が流れ込み、ジリスは必死でそれを嚥下した。
(きもち、いい。僕の、アルファ……)
番のフェロモンに包み込まれる喜び以外、何も考えられなくなった。
「ふう。いいだろう。上手く発情したな。アル、見ろよ。このだらしない顔。それに良い匂いだ。熟した果実の、エロい匂いだな。そうか、アルには分からんか!」
ネモスの言葉が分からず、ジリスはもっと満たして欲しくてネモスに抱きついた。
「もっと……、欲しい」
縋りついたが、急にネモスがジリスを突き放す。
「ジリス様!」
アルの声がした。ドン、と衝撃がジリスに走る。痛みにジリスの理性が戻る。
「え? ……アル?」
ジリスを抱きとめているのは、アルだ。アルなのに、身体が『違う! この人じゃない』と訴える。
本能でネモスを探した。ネモスに手を差し伸べるが、ネモスは背を向けていた。
「待って! 行かないで!」
ジリスは必死で叫んでいた。伸ばした手が震える。
「これ以上、オメガのフェロモンを嗅いだら、こっちがヤバいからな。この場は、アルに任せる。発情期の間、我が番を慰めろ。本番はするなよ。どこまで耐えられるか、見物だな」
「やだ、行かないでぇ!」
ジリスの悲鳴を消すように、高笑いを残してネモスが立ち去った。扉が閉まり、外からの施錠の音がした。ジリスは悲鳴のような泣き声を上げた。
「ジリス様……」
身体の熱と悲しみに泣き叫ぶジリスを、誰かがしっかり抱き締めてくれるのは分かった。
「ジリス様、お風邪ですか? 本日の予定は中止にしましょうか」
訪室したアルがジリスの額に手を伸ばした。大きな手が自分に触れることを想像し、ジリスは「んっ」と声を漏らした。アルがハッと手を止めた。
「ジリス様、これは……」
「アル、何? 触って、くれないの?」
アルが手を止める意味が分からない。ジリスはアルを見上げた。アルの眉が下がっている。青の瞳が悲しく揺れる。
「ネモス殿下をお呼びします。お待ちください」
「な、なんで! 嫌だ!」
ネモスのことを心が拒絶する。今は会ってはいけない。ジリスの頭の奥で警鐘が鳴る。
「ジリス様、発情期です」
――発情期。
その言葉がジリスの全身に響き渡る。
あの苦しい期間を思い出して、ジリスは顔から血の気が引くのが分かった。嫌だ。あんな苦しい思いは、二度としたくない。
「アル、嫌だ。もう、発情期は、嫌だ。怖い」
ガタガタ震えながらアルに縋ろうと手を伸ばした。アルが泣きそうな顔をする。
「ジリス様……」
その時、バタンと扉が開いてネモスが室内に入って来た。
「おい、黒オメガ! やっと二回目の発情期だな。待ったぞ! ほら!」
急に現れたネモスがジリスに近づいた。ジリスはネモスから目が離せなかった。
(僕の、アルファだ)
ネモスのフェロモンがジリスの神経をザワザワと刺激する。ネモスがジリスの腕を掴み、乱暴に椅子から立たせた。
その腕を掴まれた刺激にさえ、身震いするほどの興奮を覚えた。
ジリスはネモスの胸に抱き込まれた。急な刺激にジリスの心臓がドキッと動く。
自分の中のオメガの部分が反応して身体が熱い。
ネモスなど殴りたいほどに嫌いだ、と思いながら、そのアルファフェロモンを欲する自分がいる。
「はぁっ……」
切ない声がジリスの口から漏れた。ネモスの胸に顔をすり寄せて匂いを嗅いだ。陶酔するほどに良い匂いだ。
「はっ! さすが性欲獣だな。少し圧を出しただけで、このザマだ。面白いなぁ。おい、アル。見ていろ。そこを動くな」
ネモスが何か言っている。だが、ジリスはネモスの胸にしがみ付くことで頭がいっぱいだった。
「んぅっ」
急に口を塞がれた。無遠慮にジリスの口が蹂躙される。
濃厚なアルファの唾液が流れ込み、ジリスは必死でそれを嚥下した。
(きもち、いい。僕の、アルファ……)
番のフェロモンに包み込まれる喜び以外、何も考えられなくなった。
「ふう。いいだろう。上手く発情したな。アル、見ろよ。このだらしない顔。それに良い匂いだ。熟した果実の、エロい匂いだな。そうか、アルには分からんか!」
ネモスの言葉が分からず、ジリスはもっと満たして欲しくてネモスに抱きついた。
「もっと……、欲しい」
縋りついたが、急にネモスがジリスを突き放す。
「ジリス様!」
アルの声がした。ドン、と衝撃がジリスに走る。痛みにジリスの理性が戻る。
「え? ……アル?」
ジリスを抱きとめているのは、アルだ。アルなのに、身体が『違う! この人じゃない』と訴える。
本能でネモスを探した。ネモスに手を差し伸べるが、ネモスは背を向けていた。
「待って! 行かないで!」
ジリスは必死で叫んでいた。伸ばした手が震える。
「これ以上、オメガのフェロモンを嗅いだら、こっちがヤバいからな。この場は、アルに任せる。発情期の間、我が番を慰めろ。本番はするなよ。どこまで耐えられるか、見物だな」
「やだ、行かないでぇ!」
ジリスの悲鳴を消すように、高笑いを残してネモスが立ち去った。扉が閉まり、外からの施錠の音がした。ジリスは悲鳴のような泣き声を上げた。
「ジリス様……」
身体の熱と悲しみに泣き叫ぶジリスを、誰かがしっかり抱き締めてくれるのは分かった。
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