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Ⅵ 避難路
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「よし! まずは確認だ!」
意を決して、ジリスは床の動く部分を持ち上げた。
「げほっ! げほっ!」
床板は簡単に持ち上がったが、舞い上がるホコリにむせて、ジリスは後ずさった。
服を口に当てて、換気のために窓を開けた。ヒヤリとした空気が室内を抜ける。
しばらくして床に目を向ければ、暗い闇が見えた。一人がやっと通れる幅の、石造りの階段だ。
「すっご……」
上からのぞいて、階段の先が気になった。行ってみたいが、戻れなかったら困る。それに、室内からジリスの気配が消えたら、ネモスに知らせが行くかもしれない。
ジリスは目を凝らして奥を覗いた。指を舐めて風の確認をする。無風だ。
これは、火災が起きた時に、火や煙が入らないように工夫された造りなのだろう。
とすると、安全に逃げるために出口はどこになっているのか。
高鳴る心を落ち着けて、ジリスは床板をもとに戻した。
明日から、必要な物を揃えなくてはいけない。
闇は好きだが、真っ暗では目が見えない。闇を照らす灯りが必要だ。
それに建築の本を見て、白国の避難路のことを調べたほうが良い。
やるべきことは思いつくが、ジリス一人では困難だ。心がズキリと痛む。
(巻き込みたくないけれど、やっぱりアルを頼るしかないかなぁ)
悶々と考えながらジリスは眠りについた。
翌日はソワソワしてアルを待った。
「おはようございます」
穏やかに入室するアルを見ると、相談すべきか迷ってしまい、アルから目を逸らした。
「おはよう」
「ジリスさま? ご体調が悪いのですか?」
「どうして?」
「目の下にクマができています」
起きた時には気が付かなかった。本当にクマが出来ているのだろうか。
疑問に思い首を傾げると、大きな手がジリスの額に触れた。
「熱は、ないですね。今日は室内で静かに過ごしましょう」
アルに顔を覗き込まれた。
「や、ちょっと待って! 行きたい所があって」
「行きたいところ?」
「うん。あの、灯りが、欲しくて」
「室内用ですか?」
「あ、えっと。携帯して持てるような、やつ」
説明がしどろもどろになってしまう。アルが目を細めてジリスを見た。
「ジリス様、何を隠しているのですか?」
ズバリの一言にジリスはビクリとした。アルが心配そうな顔をしている。
こんな顔をさせたいわけじゃない。やはり、アルには言おうと決意した。
「アル、昨日の話で、騎士学生宿舎には避難路があるって言ってたよね」
「はい。え? もしかして、この部屋にも?」
「うん。昨日、見つけた」
アルがハッとした顔をする。
「他の誰かに、このことは?」
「言ってないよ。今、アルに話したのが初めて」
「わかりました。避難路については、俺以外に伝えないように願います」
「うん」
アルの考えは分かった。口にしないけれど、万が一の逃走用にしたいのだ。避難路の存在をジリスは知らない、と思われている方が都合がいい。
「避難路はどこにありますか?」
「こっち」
ジリスは昨日見つけた場所を案内して、入り口を開けた。
「これはすごい。空気石が使われています。最近は避難路そのものを使うことがなくなっていますが、火災の時の煙や火が入らないように、外気から遮断する造りにします。酸素不足にならないように、空気を生み出す石を壁に使うのです。王族や上流貴族向けの造りですね」
「ふうん。この避難路ってネモス殿下は知っているのかな」
「どうでしょう。王太子宮殿の地図でも見ないと分からないでしょうね。このような避難路が使われなくなり、半世紀は経ちますから」
二人で暗闇をのぞいて、顔を見合わせた。
「ジリス様、俺には単独行動時の監視がついていません。ジリス様と室外に出かけるときには監視がされていますが。つまり、この部屋からジリス様がいなくなればネモス殿下に通報されます。けれど、俺が単独でいなくなっても通報されません。この通路は、俺が中を調べます」
「あ、じゃあ、昨日ここに入らなくて良かった」
アルがギョッとした顔をする。
「崩れている箇所があったらお怪我されます。お一人で行動しないでください」
アルの心配が嬉しい。
「えへへ」
「何ですか」
「アルが優しいなって思った」
「……ジリス様の方が、お優しいです」
「僕が?」
首を傾げればジリスの髪がサラリと流れた。
「はい」
ジリスはアルに尽くしてもらってばかりなのに、どうしてそんなことを言うのだろう。
ジリスには良く分からなかった。
意を決して、ジリスは床の動く部分を持ち上げた。
「げほっ! げほっ!」
床板は簡単に持ち上がったが、舞い上がるホコリにむせて、ジリスは後ずさった。
服を口に当てて、換気のために窓を開けた。ヒヤリとした空気が室内を抜ける。
しばらくして床に目を向ければ、暗い闇が見えた。一人がやっと通れる幅の、石造りの階段だ。
「すっご……」
上からのぞいて、階段の先が気になった。行ってみたいが、戻れなかったら困る。それに、室内からジリスの気配が消えたら、ネモスに知らせが行くかもしれない。
ジリスは目を凝らして奥を覗いた。指を舐めて風の確認をする。無風だ。
これは、火災が起きた時に、火や煙が入らないように工夫された造りなのだろう。
とすると、安全に逃げるために出口はどこになっているのか。
高鳴る心を落ち着けて、ジリスは床板をもとに戻した。
明日から、必要な物を揃えなくてはいけない。
闇は好きだが、真っ暗では目が見えない。闇を照らす灯りが必要だ。
それに建築の本を見て、白国の避難路のことを調べたほうが良い。
やるべきことは思いつくが、ジリス一人では困難だ。心がズキリと痛む。
(巻き込みたくないけれど、やっぱりアルを頼るしかないかなぁ)
悶々と考えながらジリスは眠りについた。
翌日はソワソワしてアルを待った。
「おはようございます」
穏やかに入室するアルを見ると、相談すべきか迷ってしまい、アルから目を逸らした。
「おはよう」
「ジリスさま? ご体調が悪いのですか?」
「どうして?」
「目の下にクマができています」
起きた時には気が付かなかった。本当にクマが出来ているのだろうか。
疑問に思い首を傾げると、大きな手がジリスの額に触れた。
「熱は、ないですね。今日は室内で静かに過ごしましょう」
アルに顔を覗き込まれた。
「や、ちょっと待って! 行きたい所があって」
「行きたいところ?」
「うん。あの、灯りが、欲しくて」
「室内用ですか?」
「あ、えっと。携帯して持てるような、やつ」
説明がしどろもどろになってしまう。アルが目を細めてジリスを見た。
「ジリス様、何を隠しているのですか?」
ズバリの一言にジリスはビクリとした。アルが心配そうな顔をしている。
こんな顔をさせたいわけじゃない。やはり、アルには言おうと決意した。
「アル、昨日の話で、騎士学生宿舎には避難路があるって言ってたよね」
「はい。え? もしかして、この部屋にも?」
「うん。昨日、見つけた」
アルがハッとした顔をする。
「他の誰かに、このことは?」
「言ってないよ。今、アルに話したのが初めて」
「わかりました。避難路については、俺以外に伝えないように願います」
「うん」
アルの考えは分かった。口にしないけれど、万が一の逃走用にしたいのだ。避難路の存在をジリスは知らない、と思われている方が都合がいい。
「避難路はどこにありますか?」
「こっち」
ジリスは昨日見つけた場所を案内して、入り口を開けた。
「これはすごい。空気石が使われています。最近は避難路そのものを使うことがなくなっていますが、火災の時の煙や火が入らないように、外気から遮断する造りにします。酸素不足にならないように、空気を生み出す石を壁に使うのです。王族や上流貴族向けの造りですね」
「ふうん。この避難路ってネモス殿下は知っているのかな」
「どうでしょう。王太子宮殿の地図でも見ないと分からないでしょうね。このような避難路が使われなくなり、半世紀は経ちますから」
二人で暗闇をのぞいて、顔を見合わせた。
「ジリス様、俺には単独行動時の監視がついていません。ジリス様と室外に出かけるときには監視がされていますが。つまり、この部屋からジリス様がいなくなればネモス殿下に通報されます。けれど、俺が単独でいなくなっても通報されません。この通路は、俺が中を調べます」
「あ、じゃあ、昨日ここに入らなくて良かった」
アルがギョッとした顔をする。
「崩れている箇所があったらお怪我されます。お一人で行動しないでください」
アルの心配が嬉しい。
「えへへ」
「何ですか」
「アルが優しいなって思った」
「……ジリス様の方が、お優しいです」
「僕が?」
首を傾げればジリスの髪がサラリと流れた。
「はい」
ジリスはアルに尽くしてもらってばかりなのに、どうしてそんなことを言うのだろう。
ジリスには良く分からなかった。
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