【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

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Ⅷ 消えない印

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 ジリスが突発的に行動しての脱走だったが、アルの準備は万端だった。

 人目に付かないルートを使い、野宿をして四日で国境まで来た。ここまで白国の誰にも見つからないのは不思議だった。

 アルは何か考えているようだった。何を思っているかは教えてくれなかった。

 馬のキナから降りて国境を見つめた。キナに水を与えてわずかな休息をとる。

「ジリス様、俺の考えが正しければ、俺は国境を越えることが出来ます」

「え? 僕は、大丈夫だろうけど、アルは大丈夫なのかな。僕は黒魔術を使うつもりでいるけど」

 黒国の国境には結界が張られている。黒国では庶民生まれのオメガが攫われてしまうことがあるからだ。

 それは黒透明のオーロラのように見える。結界と言っても警報が鳴る程度。それでも不法侵入者には十分な効力がある。

 黒国生まれのジリスは国境を越えても何も起きない。だが、アルは白国生まれだ。

「黒魔術は、もう使ってはいけません。俺といる以上は、使うことを俺が許しません」
 言葉は強いが、優しい声音だ。

 アルがジリスの腰に腕を回す。
 アルが護衛という立場ではなくジリスの側にいると実感する。腰に回された腕にドキリとする。
 アルに密着すると身長差がよくわかる。ジリスの背はアルの肩までだ。

(こんなに体格が違うんだな。これなら簡単に僕を抱き上げちゃうわけだ)

 密着する大きなアルに安心感がある。フフっと笑えばアルが熱い目を向けてくる。青い瞳がキラキラしている。アルファの熱がこもっている。

「ジリス様、行きましょう」
 二人でキナに乗り、駆けた。黒の結界は警報を鳴らさなかった。どうしてなのかジリスには分からなかった。

 しかし、これで黒国に入れた。ジリスは白国から脱出することが出来た。ジリスの大切な黒国に戻れた。胸が熱くなる。

「アル、黒国だ。黒国だ!」

 キナに揺られながらジリスは大声を出した。

「ジリス様、良かった。ここまで、本当に、よく耐えられました。あなた様は、よく頑張りました!」

 アルがジリスを抱きしめる腕に力をこめる。ジリスはアルに身を任せた。後ろから強く抱き寄せられて、駆ける馬のスピードが落ちる。

「アル、ありがとう。一緒に来てくれて。支えてくれて、ありがとう」
「当然です。俺は、あなたのアルファです」

 温かい言葉がジリスの心に染み入る。アルが馬を止めた。国境周囲から離れた。もう白国から追っ手が来る危険はないだろう。

「ジリス様」
 アルが呼びながらジリスを抱き締めた。急な抱擁にドキリとする。大きな身体が呼吸を吐くのが伝わる。

「アル?」

「ジリス様が無事で、良かった。俺が会えない時間が苦しくて、辛くて。不安で仕方なかった。あなたを近くに感じないことが、これほど苦しいとは思わなかった! もう、少しも離れたくない! もう、俺は我慢したくない! 好きなんだ。愛しているんだ! もう、神だろうと、あなたを苦しめる存在を許したくない!」

アルが身体を震わせて感情を爆発させている。絞り出すような叫びがジリスの心に打ち響いた。
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